ウィーン弦楽四重奏団

ハイドン:「セレナード」
ドヴォルザーク:「アメリカ」
シュトラウスのワルツ、ポルカなど

5月14日 池袋の自由学園 明日館(みょうにちかん)



(デデのひとりごと---ぶつぶつ)

自由学園での演奏会に行って来ました。

羽仁吉一、もと子夫妻が創設した自由学園は、戦前に東久留米に移転しましたが、設立当初のキャンパスは池袋に残っており、『婦人之友』社の社屋と自由学園の本部として今でも利用されています。西口の駅前は、かつて豊島師範と呼ばれ、戦後は学芸大学と改称された学校のキャンパスだった広大な土地ですが、現在は再開発されて、東京芸術劇場やホテル「やすだ」などが立ち並んでおります。この雑踏をつつーっと抜けるとやがて住宅地に入ります。ここは、池袋駅のすぐそばとは信じがたいような不思議な一角です。童話作家の坪田譲治の旧宅の角を曲がって、ちょっと先にあるのが自由学園明日館。細い路地の南北にこじんまりとした佇まいです。

30メートル四方ぐらいの芝生の庭をコの字型に囲んで建っている平屋(中央部分だけ一部2階建て)の建物は、フランク・ロイド・ライトの設計になるもの。1921年に作られたものだそうです。芝生に面した側には、建物に沿って屋根付きの回廊が巡らされています。そうですニャー、イメージとしては、ヨーロッパの修道院のような作りでしょうか。でも、かび臭い、陰鬱な感じは微塵もありません。当節風に言えばツーバイフォーの木造建築で、外壁、室内の壁は漆喰。でも一階の廊下や、要所の柱や壁には大谷石がふんだんに使われていて、同じライトが設計した昔の帝国ホテルに似た感じです。

たまたま演奏会に合わせて学園の内部も見学できるようになっていたので、ふらっと見て回りました。子供の頃からここら辺で育ったのに、中に入るのは初めて。廊下の天井は今の日本家屋に比べてもかなり低い。背伸びして手を伸ばすと、指先が天井に触るくらいの高さです(2メートル30位でしょうか)。この重厚な大谷石の廊下を進んで階段を上がると、学生がいた頃には食堂として使われていたホールに出ます。小学校や中学校の工作室にあるような大きな木のテーブルが無造作に並んでいます。テーブルの表面には無数の傷が。純真な乙女たちのイタズラのあとでしょうか。床は檜ですが、何度も何度も磨き込まれ、オイルを塗られたんでしょう、年輪が浮き上がるような感じででこぼこしています。

一階に戻ると、かなり広めの部屋がいくつか。ちょうど大学のゼミ室のように10数人着席できるような大きなテーブルが置かれて、暖炉のある部屋もあります。壁際の暖炉を眺めていたら、ふと目に入った張り紙曰く、「この場所は天井が崩落する危険がありますので、立ち止まらないで下さい」とニャー。建てられてから80年近く経っているんですニャ。

説明書によると、ライトは羽仁夫妻の教育思想に大いに共感し、それを設計のコンセプトにした、と。彼自身の言葉では、

この小さな校舎は自由学園のために、その名が表すものと同じ自由の精神によって設計されました。この建物は幸せな子供たち、飾り気のない素直な子供たちのための簡素な楽しい場所となるべく、考えられました。

さて、演奏会の行われたホールは、この建物とは細い道を挟んで反対側にある、講堂のようなところ。こちらはライトの助手をつとめた遠藤新という人物の設計です。どちらの建物も国の重要文化財に指定されて、今年の終わり頃から改修作業に入るそうです。


ガンバのひとりごと:

このホールの響きって独特だわん。響くっていうか響かないっていうか。うーんと、高音域は響かないけど、中音域と低音域ははっきり聴こえるの。音ひとつひとつが際だって聴こえる。第1バイオリンの合図の鼻息や、弦のたてる雑音がはっきりきこえるのに、高音のピチカートは全然響かないんだ。でも、悪い印象じゃない。何て言うか、懐かしくて暖かいLPレコードの音がする。せいぜい300人位のホールだけど、学校の施設のせいか、人間の声が鮮明に聞こえるように設計されているんじゃないかな。たぶんそのせいなんだろう。同規模の銀座の王子ホールがすべての音域で響かず、音を際だたせることがないのと対照的。全体で15列あって、1列に20席。教会の座席みたいな座席。座ったのは、中央左よりの前から12列目だけど、音のバランスのよい席だったんじゃないかな。二階の床がかぶらない場所だったし。

さて、この日演奏されたのは、前半にハイドンの17番ヘ長調作品3−5、ドボルザークの「アメリカ」。後半に、ヨハン・シュトラウスのワルツ集(「皇帝円舞曲」、「ウィーンの森の物語」など)でした。ハイドンはこのカルテットらしい安心して聴ける、マンネリちょいと手前の演奏でした。高音域が響かないのがなんだか気になった。「アメリカ」のほうが楽しめたな。ホールの特性と相まって、ビオラとチェロのギシギシいう雑音が、曲に好ましい荒々しさを加えていました。もちろんアルバンベルクカルテットの切れ味鋭い解釈とは全然違うタイプの演奏ではあるんだけど。

でも一番楽しめたのは後半のシュトラウスのワルツの数々でした。ああ、こりゃウィーンフィルが4人いるってかんじの演奏なんです。前半より一段とパワーアップした4人の音がたっぷりと聞こえてくるんだ。目の前に指揮者はいないんだけど、まるでクライバーが指揮してるみたい。ウィーンフィルのニューイヤーコンサートを彷彿とさせました。4人でこれならやっぱりウィーンフィルってすごいわ、としみじみ。伝統(またの名をマンネリとも)の力をすみずみまで感じさせるコブシを共有してます、ほんと。そこがすごいところであり、物足りないところでもあり。いつもならこういう演奏は退屈の方を強く感じるんだけども、ホールの独特の響きと建物の醸し出す暖かでこじんまりした雰囲気のおかげか、とても好ましく感じられたにゃん。

幕間には、ホールの外の芝生で休憩。なんだかバイロイトでワグナーのオペラを聴いてるみたいだわん(行ったことないけど)。麦茶とお手製のパウンドケーキもふるまわれた。おいしかったよ。大量のヤカンを手に奮闘していた自由学園のみなさんに感謝。ホールの片隅にそっと置いてあった改築費用の募金箱に思わずカンパしちゃったよ。

ホールの宣伝も極力避けているのに、音楽家の人たちがここで演奏会したがるというのも、なんだかわかる気がした。サントリーホールや紀尾井ホールみたいな音響学的にすばらしい響きを提供するホールとひと味違う、暖かくて等身大の音のある場所でした。決して音響効果は完全ではないのに・・・



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