ヘンデル、グリーン、パーセルなどの歌曲
12月3日 紀尾井ホール
(デデのひとりごと)
最初にヘンデルにしては珍しい、ドイツ語の歌曲を3つ。「私の魂は」、「甘く香る矢車菊の花よ」、「快い茂みの中で」。いずれもオブリガートのヴァイオリンとソプラノの掛け合いが聴き所の曲らしいが、今ひとつ乗り切らない感じ。ただ、チェンバロのモルテンセンはただ者ではない風情。
次に、ヒロ・クロサキのソロで、バッハのソナタ ト長調BWV.1021。あまり演奏機会が多い曲ではないが、この地味目の曲をよく支えたのは、やはりモルテンセン。じつに趣味のよい通奏低音を弾いておりました。相方との呼吸の合わせ方、ここぞと言うときには、ちゃんと出しゃばってくる確かな技量。ヴァイオリンの方は今ひとつ鳴りきらなかったかニャー。
前半の最後は、ヘンデルのイタリア語のカンタータ「恋する者は」。やっぱりヘンデルの歌曲はイタリア語じゃないと何となくしっくりしない。カークビーの発声もとたんに明るくなって、のびのびとしてくる。以前の彼女の声に比べるとややビブラートが多めになった気がしたが、この日の曲目のせいもあるかもしれませんニャ。恋の傷、恋の希望、恋の喜びを歌う三つの部分からなるこのカンタータでは、時にカークビーの声にヴァイオリンが寄り添い、また時に互いに反発し、そして愛の二重唱を奏でるといった、この編成の手練手管の限りを尽くした大作。大いに楽しめましたです。はい。
後半はイギリスの歌曲ばかり。とても一つ一つについて評論もできないので、とりあえず曲目を挙げておきます。
モーリス・グリーン(1696-1755)の「嵐におののき」、「これはいつまで」、「鳩のように」、ヘンリー・パーセル(1659-1695)の「嘆きの歌」、グリーンの「アリアとヴァリエーション」(チェンバロのソロ)、リチャード・レヴェリッジ(1670-1758)の「すべての人を」、ウィリアム・ヘイズ(1708-1777)の「詩人とバラ」、ダニエル・パーセル(1660-1717)の「美しきダフネ」。
これらの中でとりわけ注目されたのは、パーセル兄弟の作品。「嘆きの歌」はシェイクスピアの「夏の夜の夢」に基づいた「妖精の女王」の中の一曲。オブリガートのヴァイオリンとソプラノが切々と悲しみを歌うのですが、それはそれ、なかなかグロテスクなユーモアが感じられるんですニャ。
弟のダニエル作の「美しきダフネ」もコンサートアリアなんでしょうが、劇的な仕掛けになっていて、緩急自在なカークビーの歌い回しにぴったり。ここらへんの作曲家はたぶん中期バロックと呼ばれるんでしょうか?とにかく、オペラ仕立て、劇仕立ての作品はおもしろいですね。ヴァイオリンや通奏低音もなにやらドラマチック。歌うだけじゃなくて、語って見せたり・・・
クロサキとカークビーはもう評価の定まった演奏家ですが、今日初めて聴いたモルテンセンというチェンバリスト、通奏低音奏者としてなかなかの切れ者と思いましたです。とにかく他の奏者と頻繁にコミュニケートして、相手の音をよく聴きながら自分の音を入れていく技量はすばらしいものです。室内楽の醍醐味を満喫した一夜でありました。