レイフ・オヴェ・アンスネス ピアノリサイタル

ハイドン:ソナタ 第26番、第36番
ベートーヴェン:ソナタ 第26番 「告別」
リスト:忘れられたワルツ 第4番
    メフィスト・ワルツ 第4番
    「詩的で宗教的な調べ」から第9曲
    巡礼の年 第2年「イタリア」から第7曲 ソナタ風幻想曲「ダンテを読みて」

11月25日 紀尾井ホール

(デデのひとりごと)




ノルウェーの若手バリバリのピアニスト、アンスネスを聴いてきました。数年前にキタエンコ指揮のベルゲンフィルのソリストとして来日、グリーグのコンチェルトをリスト風の超絶技巧でねじ伏せた人です。とにかく磨き抜かれた音の粒立ちがすばらしいピアニストでした。

今回のリサイタルでも音の美しさは絶品。1曲目のハイドンの26番は、どことなくスカルラッティ風の音の戯れといった趣の楽想を丹念に弾き込んで、しかも音が濁らず、控えめながら緩急自在なテンポ感もなかなか堂に入ったもの。しかし、これよりちょっと後に作曲された36番の古典的な均整美を描き出すのに成功したのかどうか?第1楽章の展開部は、頻繁にテンポが変化したり、ブレークがあったりと、どこかベートーヴェンを予感させる曲なんですが、何となく大げさになってしまう。そう、柔軟性がないというのか、テンポの変化の必然性が感じられない演奏。

ベートーヴェンの「告別」ソナタはかなり楽しめました。冒頭の「レーベヴォール」(おたっしゃで)の動機を澄んだ音色でたっぷりと響かせ、一転して提示部では軽やかに鍵盤で語らうといった趣。ここらへんの切り替えは見事でしたニャー。ただこのホールの響きの長さを考慮すると、全体にペダルを使いすぎというか、響かせ過ぎといった感じがしましたです。

後半はお得意のリスト。この日のお客さんも、この後半の曲目がお目当てだったはず。忘れられたワルツとメフィスト・ワルツは、どちらもリスト晩年のかなり技巧的な曲。そして、かなり破天荒に無調を指向した曲。で、もちろん技巧の冴えが決め手なんだけど、それだけじゃどうしようもない、テンポの揺れ、気分の転換、明暗や濃淡の対比といった要素も忘れてはならない曲でもあるんですニャ。アンスネスの演奏は、技巧的には申し分ない。いやそれどころか、まだまだ余裕たっぷりといった風情なんですが、その技巧を使って表現するものが今ひとつ伝わってこない。無調の中から、明るい調性を発見した時のすがすがしさとか、逆に調性から無調に突入する不安感とか、そういったコントラストを描くという点で、なんらかの必然性が伝わってこないわけです。

「詩的で宗教的な調べ」は、リストの叙情的な、あるいは神秘的な側面を代表する曲集ですが、このような曲になるとアンスネスの弱点がもろに出てしまうわけで、何となくぎくしゃくした表現になってしまいました。リストの最高傑作のひとつ「ダンテを読みて」も同様。起伏の大きなこの曲が、どうも平板にきこえてしまうわけです。部分部分を取り出せばよく工夫して、美しい響きで弾いているわけなんですが、全体の流れの必然性が聞こえてこない。なぜなのかなあ?ふーむ。なんだかあまりに整いすぎているんでしょうか。乱れるといったら語弊がありますが、常軌をを逸するような怪しさ、バランスの悪さ、といった部分がなさすぎるような気がしました。

とまあ、ちょっと悪口っぽくなりましたが、でも、これからの成長が楽しみなピアニストであります。


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