トン・コープマン

チェンバロ・リサイタル 2008年9月22日 カザルスホール
オルガン・リサイタル  2008年9月24日 オペラシティ



デデ: やっと少し涼しくなってきて、そろそろ秋の音楽会シーズンの始まりです (=^^=)
コープマンの来日はたぶん5年ぶりぐらいですかね?

CoCo: うん、前回は所沢のホールで、前半がチェンバロ、後半がオルガンの演奏をしました。それから椿山荘の前の教会でチェンバロだけの演奏会。

デデ: どちらにしても、あまり条件がいい演奏会じゃなかったよね。今回は久々に小さめのホールで、チェンバロをじっくり聞かせてくれました。

ブチッケ: かなり前になるけど、FM東京のホールと、王子ホールで平均律の全曲演奏会をやったことがありますが、どちらも音楽ホールとは言い難いし・・・

ガンバ: そう言われると、東京ではチェンバロのリサイタルってほとんど初めてじゃないかなぁ。カザルスでやったことがあった? それに平均律全曲なんてのじゃなくて、プログラムも魅力的だったね。

デデ: うん、「バロック名曲集」って感じの、バラエティーに富んだ、楽しい選曲だったと思う。前半がブクステフーデ、フローベルガー、L.クープラン、ブルーナ、バッハ。後半が、フォルクレ、デュフリ、フレスコバルディ、ソレール、バーセル、フィオッコ。

ガンバ: トントンがよく弾く曲が大半だったけど、こう並べると壮観ですねぇ。前半はブルーナの「聖母マリアの連祷によるティエント」がなかなか面白い装飾を入れて、楽しく聞かせてくれたかな。

ブチッケ: ブクステフーデのト短調の前奏曲、それにパルティータ「わが愛する神に」はよく弾かれる曲だと思うけど、チェンバロでやるとトッカータ風の速いパッセージも細部までよく聞こえて面白かったよ。フローベルガーの「トンボー」は、ゆったりとしたテンポで装飾をたっぷり入れて、ユーモアも交えて、なかなか聞かせましたニャー。

デデ: L.クープランのハ長調の「シャコンヌ」だけど、出版されているものだと「パッサカリア」となっているもの。結構和音が厚くて、堂々として華やかな曲なんだけど、コープマンはかなりゆったりとしたテンポで弾き始めて、時々立ち止まって来た道を振り返ってみるような、ちょっと内省的な弾き方でした。

CoCo: 一般にはジャーンと重みがある弾き方をするところを、アルペッジョじゃないゆったりとした分散和音で弾いたりすると、曲の構造がわかりやすくなりますニャ。特に最後の部分で短調になるあたりは、曲想の変化がよくわかる演奏でした。

ブチッケ: コープマンの演奏って、「あれっ」て思うくらいゆったりとやることが多いんだけど、今日の前半は特にそんな感じが目立ったかな。バッハの平均律からの2曲はまあ、一点一画おろそかにしない楷書の演奏。だけど、装飾をたっぷり入れて、特にフーガの弾き方はお手本みたいな演奏だったな。それからお得意のト長調のトッカータは、まあ、いつもの通り爆演。これも特に第3楽章のフーガは、装飾を効果的に効かせて、まとまりのいい感じ。

ガンバ: でもさあ、あのさあ、なんかさあ、バッハってあまりにも譜面に書き込みすぎているんだよね。チェンバロのオーソドックスなレパートリーを聞いた後にバッハが来ると、なんか曲自体がちまちました感じがするね。

デデ: まあまあ、そう言わずに・・・後半はフォルクレ、デュフリと来て、いよいよお目当てのフレスコバルディの「100のパルティータ」。弾き方にもよるんだけど、やけにまじめに弾く人もいれば・・・

ガンバ: トントンの場合はダンスよね。舞踏のリズム。思わず踊り出したくなるような、力強いリズム。

CoCo: うんそうだよね。ここのテンポは、リズムは、和声は・・・と突き詰めていくよりは、感情が先走るタイプだから、こういう曲はまさにぴったり。つぎのソレールのハ長調もしょっちゅうアンコールで弾いている曲で、ちょっと速めのマーチのリズムが軽快だったよね。

デデ: ソレールは十八番ですニャー。そして最後がフィオッコ。レコードでは名演があったけど、日本で弾くのはひょっとして初めてかな? こういうロココ真っ盛りのギャラントな曲もうまいよねぇ。ただこの日のチェンバロに合っていたかどうかは別として。でもこのクレスベルヘンのチェンバロはなかなかよかったと思う。かなり骨太な音がする楽器で、カザルスホールってちょっと古楽向きじゃないところでも、(少なくとも前の方では)ちゃんと響いていたと思うよ。

ブチッケ: 高次倍音がちょっと抑えられているのかな。だからフィオッコみたいのには、もっとキンキラした音色の楽器がいいのかもしれないけど。今日の、特に前半のプログラムはこの楽器にぴったりはまっていたと思う。




デデ: さて、オペラシティのオルガンの方ですが、これも今までにないほど立派な演奏だったんじゃないですか? 曲目は前半がブクステフーデ、それにF.クープランがちょこっと。後半は、バッハばっか。あたしは、ブクステフーデの最初の前奏曲とシャコンヌのペダルソロに痺れましたニャー。今トントンはブクステフーデに入れ込んでいるみたいで、次々にレコードを出していますけど、性格的に彼に合っているんじゃないかなぁ。とびっきりデーハーだし、技巧的だし、リリックな歌もたっぷりあるし。

ガンバ: はいはい。でもね、あたいはね、今日はバッハの気分なのよ。おとといチェンバロ聞いたでしょ。それでさぁ、バッハはあまりに整いすぎてて、ちまちまして面白くないって言ったじゃない。でもさぁ、今日はそのバッハがなかなかよく響いていたのよぉ。つまりさぁ、バッハってのは細部を聞くモンじゃないってこと。オルガンでぶぉ〜〜〜〜〜〜〜っと弾かれると、もう細部はどうでもいい、トータルの響きがすべて。そう言う状況に追い込まれると、バッハもさすがに力を出すわけね。

ブチッケ: そういう聴き方はよくないですニャー。細部の総和が音楽なわけで・・・特に対位法ってのはそうでう意味でしょ。でもね、オルガンていう楽器はポリフォニックな音楽には実はあまり向いていないのは確かですニャ。チェンバロやリュートに比べて音の立ち上がりが曖昧だし、響きが長くて繊細な表現はできないし、オルガンでフーガなんてお手上げですよね。本来なら。

ガンバ: だけど、コープマンの表現がちょっと変わってきた感じがしなかった?

デデ: そう、そうなのよぉ。対位法的な出入りというか、いや別に893じゃないですが、旋律の入りに装飾音をちょいと小粋に、さりげなく、くっきりと噛ましてやると、構造がはっきりしてきますよね。でまあ、従来のコープマンだと、さりげなく、くどいくらいに装飾を入れて、全体像を際だたせる弾き方をしたんだけど、今回はちょいと違っていましたねぇ。今までの弾き方が横の線をくっきりと描くやり方だとすれば、今回は縦の線、つまり和声に重きを置くようになったでしょ。トータルな響きの遊びっていうような境地になったのかな。ものすごくゴージャスな、響きの洪水でしたニャーーーーー!

ガンバ: F.クープランの修道院ミサからの2曲もなかなかよろしかったんじゃありませんかっ!

CoCo: うにゃ、クープランてチェンバロじゃイマイチ面白みがないんだけど、オルガン曲はいいな。バッハよりもシンプルで、メロディーは小粋で美しくて・・・

ブチッケ: そうそう、メロディーの美しさっていうと、バッハのコラール2曲。「装いせよ、我が魂」と「バビロン川」の歌い方の絶妙だったこと。

ガンバ: そうそう、ものすごくゆっくりとしたテンポで悠然とコラールを歌い上げるあの演奏はコープマンの真骨頂だよね。アンコールでやった、「キリスト、われ汝を呼ぶ」だったかな。お得意の一曲だけど、まあ、装飾をたっぷり入れられるだけ入れ込んで、思い入れたっぷり。旋律線をとにかく美しく歌わせるのはうまいんだよねぇ。

デデ: コラールでは本当に歌わせ方がうまいねぇ。その一方で幻想曲の出だしなんか切れ味が鋭くて、「今宵の虎徹は血に飢えている」ってな感じ。これもよろしいですニャー。最後のパッサカリアはこれはもう、何というか、何とも言えない、王道を行くって演奏でしたニャー。ほとんど最初から最後までフルストップでガンガン鳴らして、特にフーガが入ってくるあたりからは、もうはらはらドキドキ。

ガンバ: いやあ、カザルスの方はお客さん9割ぐらい入っていましたか? 今日のオペラシティも8〜9割入っていたみたいよね。どこから湧いて出たのか、オルガンの演奏会って、こんなに客が入るものなのかなぁ? しかも、招待とか、接待とか、そういうんじゃないみたい。満員近いお客さんが、結構楽しんでるんだわさ。

CoCo: 金融911の直後で、さすがのモルガンもリーマンもゴールドマンも招待客を送り込めなかったかな。だから、本当に聞きたい人が楽しんで聞いているっていう雰囲気で、気持ちのいい演奏会でしたニャー (=^^=)

ガンバ: 招待筋ってすぐにわかっちゃうんだよねぇ。



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