都響 「作曲家の肖像」ベートーヴェン

序曲「コリオラン」
ピアノコンチェルト第2番
交響曲第3番

ピアノ:オピッツ
指揮:インバル

2009年4月4日 東京芸術劇場





(デデのひとりごと+1)

インバルっていう名前に惹かれてついな、買っちまったのさ。都響のシーチケ(サラダの上に乗せるやつじゃなくて、シーズンチケットのことらしい)。
でまあ、その初日、土曜の午後2時(!)、何という時間。まあ、それはともかく、最近は土日の真っ昼間のチケットが売れるんだそうですニャー (=^^=;; なんか変な時間だけど、ふらふら芸術劇場まで行ってきました。

まずプログラミング。コンチェルトの2番の第1楽章は、弦楽四重奏だったら「ひばり」が鳴き出しそうなのんびりとした曲。ロンドの主題は8分の6の2拍目と5拍目にアクセント。ゼルキンは「ハンガリー風だ」と言ったそうですが、今の感覚では「ハイドン風」ですよね。いかにもっていう。こういうのってハイドン先生へのオマージュなんでしょうねぇ。たぶん。2番はベートーヴェンがボンから抱えてきて、ウィーンで完成させた曲らしいから、ハイドンの様式美の世界だと思います。

それに対してシンフォニーの3番は・・・こりゃちょっとしたものです。「ハイリゲンシュタットの遺書」で耳の悪い自分を葬り去ったあとの最初の作品です。ロマン・ロランが言うところの「傑作の森」。その入り口にそびえ立つ縄文杉と言ってもいいでしょう。それが一番顕著に表れているのがホルンの扱い方。これだけでもモーツァルト、ハイドンの時代ははるか彼方に霞んでしまいます。ロブコヴィツ侯爵邸で初演されたという有名な逸話がありますが、たぶんそこにはパパ・ハイドンも呼ばれていたことでしょう。ハイドン先生一体どんな顔で聞いていたんでしょうか? ひょっとしたら、不滅の恋人ことヨゼフィーネ(?)だって同席していたかもしれない。まあ、人妻ではありますが。

ベートーヴェンのモーツァルト嫌いは有名です。彼はモーツァルトは相手にしていなかった。眼中になかった。あるいは無視し続けていたと言ったらいいんでしょうか(とっくの昔に死んじゃってますし)。ですからこの3番シンフォニーはおそらくハイドンとの決別を意図して書かれたものに違いない。

ハイドンが「パパ」なら、ベートーヴェンの称号は「楽聖」。主として「ねえパパ、最近お見限りねぇ」っていう具合に使用する「パパ」という言葉に対して、「楽聖」という言葉はベートーヴェンのためだけにある言葉です。間違っても「楽聖バッハ」とか「楽聖ブラームス」、「楽聖モーツァルト」なんてやらかしちまったら、これはお門違いも甚だしい。強いて言えば「楽聖モンテヴェルディ」なら許せるかな。文学で言えばシェイクスピアとゲーテがこのカテゴリーに入る人。時代的にも面白いですニャー (=^^=)

オピッツっていうピアノ弾きはしょっちゅう日本にいるみたいだし、どっかで聞いているかなあと思ったんですが、どうも印象にない。少なくともソロのリサイタルは聞いたことはないし、どっかのオケに出たときに、ひょっとしたら聞いたかもしれないなぁって感じの人。どうやら日本ではファンが多いみたい? よくわかんないけど、まあ、何となくドイツ正統派をイメージしちゃっていたんですが、これが大ハズレ。何て言ったらいいのかなぁ、そこらへんのコンクール出のおネェチャンみたいな弾き方なんですよねぇ。音はきれいだし、よく指は回っているし、文句を言う筋合いはないんだけど、ベートーヴェンの音楽じゃないし、古典派の初々しさがあるわけでもなし。アシュケナージがルーティーンの仕事をこなしているって感じ。きれいだけど面白くない。

インバルっていう指揮者を最後に聞いたのは20年近く前でしょうか。やっぱり都響を振って、ショスタコの1番と5番という日と、モーツアルト(何番だったか?)と「火の鳥」をやった日を聞いたんですが、その時のモーツアルトはなぁ、やっぱり変だった。そういう記憶があります。タコとストラヴィンスキーはすこぶる付きの名演だった。その後、渋谷系のオケなんかにも顔を出して、日本では主にマーラーで名をなした人。

まあ、そんなこともあるんでしょう、「おらぁ古典だってできるんだぞぉ、ゴラァ!」っていうプログラムだったと思います。今日のは。でも、結論から言うと、この人古典派は振らないほうがいい。ボロが出まくり。先に書いたロブコヴィツの屋敷で初演したときの編成を想像するに、管楽器はスコア通りでしょう。まあ十数人。弦は何人いたんでしょうねぇ? 20人は超えなかったと思いますよ。ホルンはもちろんウィンナホルン。

この編成でどういう音が鳴ったのか、私は想像できるんですよね。耳は悪くなりかけているとはいえ、ベートーヴェンは同時代の楽器のバランスがわからない人じゃない。指揮は弟子のリースがやっていたんだと思いますけど、ベートーヴェンは横から怒鳴り続けていたでしょう。「そんなのは音楽じゃねぇぞ」、「ホルン、どうした?」、「下手くそ!」、「ティンパニ、何をやっている」ってね。そのくらいの決意を持って書いた作品です。単なるきれい事じゃない!

インバルの指揮でちょっと変わっているなぁ、普通じゃ絶対にないなぁ、今時よくやるよなぁと思ったのは一カ所だけ。第一楽章提示部の最後、弦がダブルストップを弾く三音を、やけに重々しく強調していたとことかな。繰り返しがあって、展開部の最後にももう一度出てきますから、合計で三回、重々しい「ザッザッザッ」ってのを聞かされたんですけど、まあ、古めかしい。いつからそんなやり方が出てきたのかなぁ。20世紀の半ばあたりに一瞬はやった特殊奏法の名残ですよね。最初から終わりまで絶え間なくヴィブラートをかけまくる弦の奏法と一対になった弾き方なんだと思いますが、思わず家に帰ってスコアを見直してしまったよ (=^^=ゞ

あれをやるんなら、スコアに“pesante”なんて書いてあるに違いないと思ってね。この人なんでこんな馬鹿馬鹿しいことをするんだろう???

演奏会の開始時刻も非常に重要な問題ではありますが、特に睡眠不足だったわけではないし、体調が悪かったわけでもありません。でもたぶん8割方眠っていました。時々、ティンパニの「ドン」で起こされて、今日は土曜だから「半ドン」だなとか、下らないことを考えているうちに、またすやすや眠っちまって。また「ドン」で目が覚めて、「そうだ、音楽会が終わったら天丼を食おう」なんて思ったり。こんなことの繰り返し。だから演奏についてはちょこっとだけ書きました。最後の音が鳴ったとたんに、オヤジのだみ声で「ブラヴォー」が轟き渡りましたが、あれは凄かった。

ガンバ: あれが一番ベートーヴェンらしかったね。



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