<<近頃の二国>>

10月10日 トゥーランドット
10月31日 リゴレット
11月19日 デヴィッド・ビントレーのアラジン


新国立劇場



デデ: 舞台の方も秋のシーズン真っ盛りですニャ (=^^=)

CoCo: はいな。今日は二国の秋に関していくつかの公演を俎上に載せて切り刻むっていう趣向でしょうか。まあまあ良い公演が続いているのではございませんでしょうか。

ブチッケ: 中にはちょいとお手軽過ぎやしませんかってのもあったことはあったけど・・・

ガンバ: ねぇ。トゥーランドットでしょ。音楽と演出とがこれだけかけ離れたできの舞台は久々かな。ワーグナーでは散々こういった「思いつき」の演出を見せられたけど・・・ブロックハウスっていう演出家は、ストレーレルのお弟子さんだそうだけど、これはちょっといただけませんでした。

ブチッケ: うん、「思いつき」ねぇ。舞台が二重構造になっていて、外側のフレームは1920年代(?)のイタリア。そのフレームの内側でコメディア・デラルテ風に京劇が演じられるっていう設定と言ったらいいのかな。

ガンバ: その設定は悪くない。劇中劇としてコメディア・デラルテが演じらるっていう「思いつき」は、いかにもストレーレル風ではあるけど。ただその外枠にプッチーニの生涯のまあ「スキャンダル」を重ね合わせて、自転車事故で死んだとか、女中と不倫関係にあったとか・・・まあその手の楽屋落ちみたいな話題を、さも重要なファクターであるかのように舞台に上げるのはいかがのものであろうか?

CoCo: だよね。第2幕まではかなりよかったんだけど、3幕でリューが自害した瞬間に現実に戻ってしまう。つまり1920年代のイタリアの街角。自殺したリューは実はカフェのメイド・・・カラフ(ことプッチーニ)はコーヒーを前に新聞を読んでいるなんてことになると、こりゃもう喜劇かと。

デデ: 音楽はなかなかしっかりしていました。特にタイトルロールのイレーネ・テオリンはすばらしかったですニャー。貧相なコメディア・デラルテ風京劇の舞台に山車に乗って登場した瞬間から、お客さんの耳を引きつけましたねぇ。まさにワーグナーのソプラノ、ちょっと前のエヴァ・マルトンみたいにスピントの効いた強靱な声。プログラムも読んでいなかったし、名前も聞いたことがなかった人でしたが、実は今年のバイロイトでイゾルデを歌った人だそうで、噂によると来年だか再来年だか、二国でも正月またぎの公演でイゾルデ、それから「ジークフリート」と「黄昏」のブリュンヒルデを歌うことになっているんだそうです。容姿・演技とも申し分なし。

ブチッケ: それからリューを歌った浜田理恵という人も、はかなげな役柄をみごとに演じていました。すっかりお馴染みの妻屋秀和がディムール、それにピン・パン・ポンを演じたお三方もコメディア・デラルテ風のピエロの仕草がなかなか決まっておりましたですニャ (=^^=)

ガンバ: アッレマンディ指揮の東フィル、それに二国合唱団も熱演だったわねぇ。

CoCo: 小屋がけの上に乗ったバンダ様御一行まで、演技も音楽も申し分のない舞台でした。

デデ: さてさて10月はもう一つ、「リゴレット」がありました。これは定評のあるファッシーニの舞台。マントヴァ公はシャルヴァ・ムケリア。やや小粒だけどでくの坊じゃない公爵。ジルダのマッシスはフランス生まれのリリック・コロラトゥーラ。さすが実力派です。スパラフチレはお馴染み長谷川顯。第1幕のレチタティーヴォは低音を響かせましたニャー。で、問題は掲題役のアタネッリ。実は6月にも二国でジェルモンを歌ったんですけど、これはすばらしかった。で、リゴレットはどうかというと・・・

ガンバ: 歌も容姿もご立派なんですよねぇ。ジェルモンのような老紳士を演じるとぴったりはまるんだけど、背中に瘤があるセムシー(ATOKはバージョンアップするたびに、どんどんお馬鹿になっていきます)の役となると・・・

ブチッケ: 岡田真澄が汚れ役をやった感じですニャー。

ガンバ: ぜんぜん様にならない。2幕の「ララッ、ララッ」から「悪魔め、鬼め」にかけてのあたり、シムシーの怨念がその姿形から見えてこないのよねぇ。それからもう一人、マッダレーナの森山京子っていう人、これは何かの間違いで舞台に乗っちゃったんでしょうねぇ。ちょっとこの人ひどすぎなかった?

CoCo: 第3幕、「女心の歌」に続くカルテットで一人だけ独自な歌を歌っていましたニャー (=^^=;;

デデ: なかなか見応えのあるセットで衣装もきらびやか(3幕を除く)、第3幕の場末の曖昧宿もそれなりに豪華に汚らしくて、なかなか視覚的にも楽しめたし、それに何よりヴェルディの音楽の力はすごいねぇ。リゴレットを見たのは何十年ぶりかなって気がするんだけど、こんなに名旋律がちりばめられていたのかってちょっとびっくり。あれもこれもリゴレットだったんだぁなんて思いながら見ていました。合唱団、東フィルもお見事。カッレガーリはいかにもっていう感じのイタオペ指揮者とはちょっと違う感じでしたが、音楽の推進力と歌心を兼ね備えた人かなと・・・

ガンバ: あたしゃ去年メトで見たけど・・・

デデ: メトと比べちゃいけません。さてさて秋の三つ目はバレエ。二国の3部門の内で一番元気なのは、オペラよりバレエじゃないかなって思うんだけど。

ガンバ: ハズレがまずないよね。

デデ: 振付師のビントレーという人は来年から二国バレエの支配人になる人だそうです。

ガンバ: 何年か前に「カルミナ・ブラーナ」にバレエをつけたのもこの人だったわよ。なかなかよかった。

ブチッケ: 「千夜一夜物語」の「アラジンと魔法のランプ」をバレエにしたのがこの公演でしたニャー。なかなかスペクタクルで見所の多い作品に仕上がっていたと思うけど。この振付師はお客さんの心を掴むのがうまいねぇ。

CoCo: いかにも。新作っていうと普通の音楽会だとちょっと引いてしまうところだけど、これは面白かったね。いわゆるモダンバレエとかモダンダンスっていうような、肉体表現の限界を試す作品じゃなくて、どちらかというとクラシックないしはロマンティックバレエの超大作って感じだったかな。

デデ: 新しい音楽だっていうんで興味半分・恐怖半分だったんですが、オケが鳴り始めると、なかなかいい音楽じゃないか! カール・デイヴィスという作曲家はイギリスのベテランだそうですが、日本でも放送されたオースティン原作のテレビドラマ“Pride and Prejudice”の音楽を書いた人だそうで、確かにあの音楽は擬古典あるいは擬バロック風のしゃれた雰囲気を醸し出していましたニャー。このバレエでは冒頭でいきなりホルンが勇壮なメロディを歌い上げるんですが、これがランプのテーマ。一回聞くとすぐに覚えちゃって、その後もランプが登場するたびに吹き鳴らされて、なかなか効果的でした。

ガンバ: 振り付けもいわゆるモダンじゃなくて、基本的にクラシックバレエの仕草だったように思うけど。そこらへんは詳しくないのでよくわかりませ〜ん。

ブチッケ: 第1幕は悪い魔法使いにそそのかされ、砂漠を越えて洞窟の中からランプを取ってくるまでのお話。砂漠の上空に浮かぶ月の中で優雅に踊っているのがお姫様。アラジンがそこに上っていくと、舞台は暗転して月が洞窟の入り口に。恐竜の骨格をひっくり返したような洞窟を下るとそこは、金銀財宝ザックザク。でまあ、「オキニスとパール」、「ゴールドとシルバー」、「サファイア」、「ルビー」・・・と、まるでくるみ割り人形のように、延々と踊りが続くんですが、確かにきれい。だけど、お稽古をやっている人とか、あるいは「○●さんが出ているのよぉ〜」っていう人以外の、自腹でチケットを買ってやってきた一般人にはちと退屈。

ガンバ: 案の定、休憩の時にトイレに行ったら、「ちょっと寝ちゃった」という声がちらほら。

デデ: ただ音楽はすばらしかったですよ。華やかなワルツ、軽快なポルカ、それになんとブラスで荘重なサラバンドまで奏でていました。

ガンバ: そうだったの?

CoCo: 1幕目がちょっと退屈だった分、2幕、3幕がすばらしかったですねぇ。

ガンバ: うんうん。2幕冒頭のお姫様の入浴シーンなんか絢爛豪華ですごかったね。で、体にバスタオルを巻いた姫と女官たちのセクシーダンスなんかもあって・・・

デデ: 見応えがありました (=^^=ゞ

ガンバ: でまあすったもんだの末、メデタシメデタシで姫とアラジンの結婚式。ここで登場した中国のライオンダンス(獅子舞)がよかったのよぉ。後ろ足が前足をリフトしたり、アクロバティックなステップを踏んだり。お獅子の顔も愛嬌があったでしょう?

ブチッケ: あたしはこの幕の最後にランプ精が踊った、アラビア風盆ダンスがこの作品中の白眉かと。

ガンバ: あれもかっこよかったねぇ! 2幕から急にテンポがよくなって、30分で一幕終わり。第3幕は悪い魔法使いの「古いランプを新しいランプと交換しますよ」という口車に乗せられて、姫がランプを交換してしまったために魔法使いのハーレムに連れて行かれる。そこにアラジンが現れて、姫を救出。家に帰って、ランプの精を奴隷身分から解放してやるというお定まりのエンディング。

CoCo: 3幕では魔法の絨毯が飛びましたねぇ。うふふ (=^^=)

ブチッケ: 全体に、ランプの精の動きと異形の化粧がおもしろかったかな。それから、あまり踊らなかったけど、魔法使いをやったトレウバエフの演技力! プティの「こうもり」でチャールダーシュを踊った人でしょ。あれとは正反対に、目力だけの演技がすばらしかったですニャ。まあ、そんなことだけじゃなくて、いろんなところにユーモアが溢れていて、一大スペクタクルだけど、細部もよく練られた舞台だったと思う。

CoCo: ですニャ。

デデ: それから忘れちゃいけないのは指揮のポール・マーフィー。たぶんバレエ専門の指揮者なんだと思うけど、この人の指揮は凄かった。重力に逆らってジャンプする軽やかさ、ふわっと落ちてきたり、あるいはすっと落ちてきたり、落ちてくるタイミングを拾い上げる繊細な感覚。細かいステップがすべてあるべきリズムに乗って、小気味よく踏まれていく。東フィルもすごかった。ホルンが大活躍の曲だったけど、ほとんどノーミスだったんじゃない。舞台上のダンサーの動きに寄り添うように、繊細で豪快で、しかもよく流れる音楽を演奏していたと思うよ。

ガンバ: オペラでもこれだけの演奏は滅多にないね。



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