(デデのひとりごと)
しとしとと春雨が降る中、芸術劇場まで。というか、前を通りかかったらベレゾフスキーが「皇帝」を弾くというポスターが出ていたので、ついふらふらっと小屋に入ってしまった次第。オケの演奏会なんてホントに久しぶりですニャー。木戸銭はいつの間にか値上がりしていて、B席6千円ですよぉ(!)お客さんはほぼ満員。景気とは関係ないお客さんばかりかなと思ったら、大間違い。プログラムを見れば納得。いわゆる「のだめ効果」というやつだそうです(ガンバさんの話)。
Esの和音に乗った最初のカデンツァから音が澄み切っています。もちろん定石通りペダルは踏みっぱなし。この人はデビュー当時から音色のコントロールがすばらしいピアニストだったという記憶があるんですが、久々に聞いてその頃の演奏を思い出しました。冒頭のカデンツァから第1主題にかけては、かなり抑制が利いた端正な演奏。どこかモーツァルトを感じさせるような響きとリズム感です。
これが展開部に入ると、有り余るテクニックを控えめに使って、まるでメンデルスゾーンのような華麗なパッセージを紡ぎ出します。“a Russian pianist”というと音楽の世界では確固たるブランドなんですが、その系譜に連なる最後の一人かもしれません。ロシアのピアニストというと最近ではキーシンを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、彼はねぇ・・・
ベレゾフスキーですが、十数年前日本にデビューした当時は、あっちこっち引き回されていたようですが、東京ではこの近くのビジネスホテルが定宿だったみたいで、時間が空くと、必ずここのホールの3階席で一人ポツンと佇んでいたのが印象に残っています。この人根っから音楽が好きなんですニャー (=^^=)
人の音楽をたくさん聴くと、自ずと自分の音楽も充実してくるんでしょう。デビューしたての頃は、いつも目一杯の熱演をしていました。悪く言えばゆとりが少ない演奏。チャイコフスキーコンクールのさなかにインタビューを受けて、「今、彼女のお腹に子供がいるんだ。だから絶対優勝して賞金をもらわないと・・・」って悲壮な思いを語っていましたが、年とともに音楽も成熟したきたのでしょう。そういえば去年だったか、なんかのイベントでお嬢さんとモーツァルトの2台ピアノのコンチェルトを競演していましたニャ。
さて、ベレゾフスキーの演奏についてですが、とりわけ音色のパレットが豊富でしかも透明感が増してきました。以前はともするともうもうと土埃が舞い上がるような爆演になっちゃうこともありましたが、今はかなり客観的に自分の音楽が見えている様子。成り行きに任せるところが一瞬たりともなく、どこをとってもフレーズの一つ一つが生きています。
とりわけ感心したのは、左ペダルの使い方。キーペダルとかシフトペダルと言われますが、現代のピアノの構造では厳密な意味でのuna cordaにはなりません。でも、単なる弱音装置ではなく、音色の変化を強く意識したペダリングは非常に効果的。特に強音のパッセージの中に、さらにアクセントをつけたりすると、ホールの隅々までスコーンという透明な響きが広がります。
まあ、そんなことを考えながら、久しぶりにベレゾフスキーを堪能しました。演奏会ではほかに、コリオラン序曲と、交響曲第7番が演奏されました。指揮は下野竜也。