シーベ・ヘンストラ リサイタル

〜 響きと音色で描き分ける2つの世界 〜


2008年2月27日 自由学園 明日館講堂


(デデのひとりごと − 居酒屋のカウンターで一杯やりながら考えた)

オランダのチェンバリスト、シーベ・ヘンストラのリサイタルに行って来ました。通奏低音奏者としてあっちこっちのグループに顔を出している人ですが、ソロを聴くのは初めて。副題の「〜 響きと音色で描き分ける2つの世界 〜」というのは、前半がイタリア様式のチェンバロをミーントーンに調律して弾くプログラム。後半がジャーマンチェンバロをレーマンの調律にして弾くという趣向。

まずは前半。イタリアンのチェンバロと言っても、18世紀様式の巨大な楽器で、どちらかというと初期鍵盤作品よりはスカルラッティの方が似合いそうな楽器です。響きもちょっと長めで、アーティキュレーションを短めにしないと、素朴な味わいが失われてしまうため、演奏者としてはちょっと一工夫必要な楽器。ヘンストラはそこらへん十分に心得たタッチ。スウェーリンクの「大公の舞踏会」では、最初のヴァリエーションからどことなく古めかしい装飾をちりばめて、気持ちよく弾き進んでいきます。ミーントーンの爽やかな3度が心地よく響いていました。

2曲目はバードの「バヴァーヌとガイヤルド」。レディー・ネヴィルスの曲集に入っているもの。結構複雑な幻想曲風のパヴァーヌです。半音階的な進行もあり、ミーントーンのほころびが不気味に響く部分もあって、興味深い演奏でした。

イタリアと言えば、フレスコバルディを忘れちゃいけません。「トッカータ第7番」を華麗に弾いた後は、大作「パッサカリアによる100のパルティータ」。ヘンストラは奇をてらわずに真っ向から勝負。微妙なテンポの揺れやルバートはほとんど使わない人ですが、この曲のように目まぐるしく曲想が変化するものでは、テンポ感が絶妙でした。ムードが大きく変わるときに、あるべきテンポにスパッとはまっていく演奏は、ある意味爽快でもあります。そんなところが誠実で清潔感溢れる音楽の源でしょうか。真ん中過ぎあたり、チャコーナやパッサカリアが交互に現れる所からは、「3度の響きを美しく」というミーントーンの理念からは完全に逸脱した響きが連続します。でも説得力のあるテンポのお陰で、悪魔の響きが心地よい遊び心に聞こえてきます。ジローラモちゃんたらお茶目 (=^^=)

またまたスウェーリンクに戻って、これも大作「ヘクサコード・ファンタジア」。ミーントーンの綻びは修復されて心地よい3度・6度が戻ってきました。この曲でもリズムとテンポの刻みが絶妙でしたニャー。前半の最後はストラーチェの「チャコーナ」。初めて聞く曲ですが、定型の低音に乗って華やかな変奏が繰り広げられる楽しい演奏でした。

後半はいよいよジャーマンの登場かっ、と思ったら、最初のフローベルガーの「トッカータ第1番」はやはりミーントーンで。「やっぱりそうだよなぁ」とかなり納得。でも同じフローベルガーの「ブランシュロシュ氏のトンボー」からジャーマンで演奏。フローベルガーにしてはさほど大胆な転調がない曲なのに、なぜ? 思うにテンポの問題なんでしょうね。ゆったりとした曲で十分に響かせなければならないこのトンボーは、イタリアン+ミーントーンではかなり難しい。そして、ヘンストラの持ち味も、この曲ではちょっと発揮しにくかったかなぁ。二重トリルまで使って、一度Gで終止してから、最後の下降スケールを取って付けたように弾いたのは・・・?

リッターの「組曲ハ短調」は、うってかわってバッハまでもう一歩といった感じの曲。舞曲のリズム感、メリハリはヘンストラの得意とするところ。たぶん初めて聞く曲でしたが、こぢんまりとした組曲形式の割には、一つ一つの曲はかなり複雑な様相を呈していて、例えばフランスのリュリなんかとはちょっと違いますねぇ。ドイツ風と言ったらよいのでしょうか?

最後はバッハの「半音階的幻想曲とフーガ」。10人いれば10通りの弾き方になる曲ですが、ヘンストラはあくまでもオーソドックス。やや早めのテンポで弾いていきますが、ルバートは最小限。アルペッジョが連続する所でも、完全に譜面通りにインテンポで弾き通します。すると、そこからベースの音型がくっきりと浮かび上がってくる。面白い瞬間でした。レチタティーヴォも思い入れたっぷりに弾くというよりは、流れが滞らないように歌の合間に通奏低音奏者がピシッピシッと和音を入れていくような感じ。ここらへんは人によって好き嫌いがあるかもしれません。そうそう、リーマンの調律ですが、それを導き出した根拠はともかくとして、結果的には「なんちゃって平均律」です。従って、この幻想曲のように異名同音的な転調で「一体どこまで行っちまうんだ?」ってな曲には最適。平均律に近いと、和声の純粋な響きよりも調性的浮遊感が独特なムードを作り出します。調性に性格がある不等分律では平均律的酩酊感は出ませんねぇ。フーガは堂々たる演奏。これもやや早めのテンポでグイグイ突き進みますが、区切り目ごとにきちっと形を見せてくれるところがなかなか憎い。

お客さんは50人ぐらいだったでしょうか。和やかな雰囲気でなかなか楽しい演奏会でした (=^^=)
楽器のコンディションにもよるんでしょうが、調律法云々以前に、ユニゾンやオクターブで唸りが出ていたのはご愛敬???



Italian-Skowroneck, 1980
Mietke-Kalsbeek, 2000


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