チェンバロ・リサイタル「リスボンの情熱とため息」

ニコラウ・デ・フィゲイレド

2007年6月13日 目白聖公会


(終演後、目白の「シャーク」というイタメシ屋にて)

ガンバ: 帰りがけにくじを引いたら当たっちゃったのよん。「シャーク」のドリンク券。(生ビールぐびぐび・・・)

CoCo: というわけでちょいと場違いながらイタメシ屋なんかに入っちゃったりして。

ブチッケ: 一枚の当たりで全員1杯ずつとは、なかなか粋な計らいでございますニャ (=^^=)

デデ: 目白に来たのは10年ぶり? 15年ぶりぐらいかなぁ。隣町に住んでいながら、目白通りまで出たのはホントに久しぶりですニャー。でまあ、本日は目白バロックの目玉、フィゲイレドのソロリサイタルというわけで、これを聞き逃したらとんでもないバチアタリ。

ガンバ: そう、池袋の産業福祉会館の先を自由学園に入る道から1本それて、幅1mほどのネコ路地を辿ると、アッという間に西武線の踏み切りに出て、目白庭園のあたりの住宅街を散歩して、徳川屋敷を抜けたらすぐ目白聖公会。面白いルートを発見ね。

ブチッケ: で、これを聞き逃したら一生の不覚というフィゲイレドのリサイタル。これも「こだわりのリサイタル・シリーズ」というやつでして、どうも曲目は演奏者に一切お任せ。一番弾きたい物を弾くという趣旨のもんだそうですニャー。これはまあ、何とも贅沢な話で、普通なら客寄せに入れなきゃならないバッハとかクープランとか、ヤワなもんは一切ない。ラテン音楽で真っ向勝負でござんした。

CoCo: バッハがヤワかどうかはちょっと微妙だけど、まあ、すがすがしいよね、このプログラム。まずポルトガルの作曲家セイシャス(1704-1742)のソナタを4曲。ホ長調、ホ短調、ニ短調、ニ長調。

デデ: セイシャスって3年前に生誕300年で、その当時ちょいと一部の人々の間で話題になって、国内版の楽譜も出版されました。珍しくヤマハまで買いにいったんだけど、店員も聞いたことのない作曲家というわけで、「わっかりませ〜ん」て逃げられちゃったんだけど、その時はまだ入荷していなかったみたい。まあ、そんなわけで、まだ楽譜を見たこともないし、もちろん音を聞くのも初めての体験でした。

ガンバ: デデはレコードより楽譜のネコだからねぇ。新刊情報ぐらい調べられないのかね、ヤマハの店員。だからみんな、本でもレコードでもネット通販に流れちゃうんだよね。

デデ: まあ、レコードよりは楽譜の方が数は多いかな? ま、ともかく、セイシャスって面白いねぇ。スタイルとしてはスカルラッティやソレールと同じ、単一楽章のソナタだけど、ラテンの血がもっと深く刻まれているというか、技巧的でもあるけど(eg. ホ短調)、より土俗的といったらいいかな。フラメンコのギターを彷彿とさせる音型やリズムが出てきたりして、体の芯からこみあげてくる感情を表出するような音楽だね。

ブチッケ: 静かにほの暗く燃える熾火のような音楽ですか。フィゲイレドはこういう音楽の表現がうまいですニャー。ホ長調−ホ短調のようにいくつかのソナタを組み合わせて弾くやりかたはスカルラッティなんかに通じるところがあるけど、今日弾いた曲にはソナタのあとにメヌエットが必ずついていて、「ソナタとメヌエット」っていうことになっていました。きっとああいうもんなんでしょう。

デデ: そこらへんはよくわかりませんニャー (=^^=;;
ただ、メヌエットといっても、本人も言っていたとおり、フランス風のメヌエットとはかなり趣が違って、ステップがちょっと重い。1フレーズごとに、見栄を切ったり、お辞儀をしたり、なんかそんな情景が見えてきそうな音楽ですニャー。

ガンバ: 土俗的な色彩が強い分、フィゲイレドは最初からエネルギー全開で弾いていたよね。ヤワな曲が入っていると、何というか、感情の表し方がイマイチぎこちなくなることもあるんだけど、ブラジル人のフィゲイレドにとっては、「お国物」といってもいいんじゃないかなぁ。すごく自然にトップギアに入ってしまった感じ。

CoCo: 次は待ってました、スカルラッティ。k296/141のヘ長調/ニ短調。k263/264のホ短調/ホ長調。これはフィゲイレドの十八番ですね。完璧な技巧をもってしても、弾きこなすのは至難の業といった感じのソナタを並べていたよね。それだけですごいと思うけど、本当に「すごい」のはそのテクニックを感じさせない豊かな音楽性。どんな細部までも、生き生きと表現せずにはいられない、誠実な人柄。どの一瞬を切り取っても、表現として弛緩した部分がないんだよねぇ。ふぅ。

ブチッケ: いやあ、本当にフィゲイレドと一緒に音楽にどっぷりと浸かった気がします。

ガンバ: 私は後半最初のK490-492までのニ長調の3曲。有名なソナタだけど、とにかく「凄い!」って言葉しか思い浮かばないんだニャー。平板に流れるところがなくて、一音一音に意味を込めて弾いている。一瞬に没入しながら、全体の構成もみごと。

デデ: こういう有名曲だと、マンネリに流れてしまって、新しい発見がしにくいんだけど、どの瞬間も瑞々しい音が鳴っていました。東洋音楽だと「序破急」に相当する3曲だけど、一般に2曲目でテンションが上がり過ぎちゃうんだよねぇ。フィゲイレドはここでじっとタメを作って、技巧の華やかさよりも、むしろしっとりとした情緒的な音楽を聞かせて、3曲目の爆発につなげていましたねぇ。

CoCo: プログラムの最後は、ソレールのソナタを4曲。R86/84のニ長調と変ロ長調/R88変ニ長調。これだけ、超弩級の曲目を並べてきて、まだ余裕たっぷりにソレールを弾くってのも、大したもんだ。

ガンバ: あのリストみたいな同音連打が、まあ、よく粒が揃っていること。

デデ: と、ガンバはステージママになっちゃってます。でもまあ、凄いね。

ブチッケ: いやここまでくると、言葉をいくら費やしてもあの音楽を説明するのは無理だね。

CoCo: というわけで、予定されていたプログラムを弾ききって、すっかり精根尽き果てた様子でチェンバロに向かったフィゲイレドが、「ちょっと気分を変えて」アンコールで弾いたのは、ダングルベールの「シャンボニエール氏のトンボー」。ソレールからは約100年ほど時代を遡りますニャ。

デデ: 直接的に死の悲しみを表現するというよりは、シャンボニエールを思い出し、懐かしんでいるような、しみじみとした曲。繊細な装飾をちりばめながら、ゆったりと噛みしめるように弾いていました。

ガンバ: あたしゃ、こういった辛気くさいおフランス物はゴメンだね。でもね・・・

デデ: 辛気くさいアンコールでこのコンサートが終わるはずがない。それはお客さんが一番よくわかっていて、何度かステージに呼び出して、そのうち客電が灯って「はいお疲れさん」という雰囲気がビシバシと伝わってきても拍手が終わらない。そう、あれを聞かないと・・・

ブチッケ: ですニャー (=^^=)  ニューイヤーコンサートの「ラデツキーマーチ」とか「ドナウワルツ」みたいなもんでして・・・

ガンバ: やっぱり、やらかしました。ソレールの「ファンダンゴ」 ヽ(=^^=)ノ

CoCo: 弾き始めから10数分がアッという間に流れてしまって、心の中で「終わるな、終わるな」って呟いていましたニャー (=^^=ゞ

デデ: というわけで、帰り際にこのレストランのドリンク券をもらっちゃって・・・

ガンバ: ところでこの前菜盛り合わせなかなかいけるじゃない。このタコのマリネ、粒マスタードが効いていて、んまいねぇ。

ブチッケ: で、古い話ですが、タコはなぜ左から3番目の足が一番んめぇのかという件について・・・



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