デデ: 昨年、上野の博物館でブッチギレの演奏をやらかして、お客さんの度肝を抜いたフィゲイレド。今年は、アンサンブルのために来日です。この人の通奏低音は、ヤーコプスのオペラなどで定評のあるところ。パリの音楽院では声楽科のセンセだそうですニャー。
ガンバ: いわゆるその一つの、コレペティさんね。去年のリサイタルは、ホントにぶったまげたわねぇ。国立博物館の秘宝館とかいう、かなりイカガワシイ響きの建物が会場だったけど、やっぱりお役所だからまるでアメニティーなんてことには無頓着で、ほとんどサウナのような熱気と湿気の中で、鍵盤の上に汗を滴らせながら大熱演だったでしょ。ああいうのを聞いちゃうと、どんなにちゃっちいチラシでも目を皿のようにして名前を見つけてしまうんだわさ。
デデ: というわけで、今年はちょいと地味に通奏低音に徹した演奏会でした。でも、この人のコンティヌオは、んめ〜なぁ (=^^=) ぺろぺろ
ブチッケ: んめぇっす (=^^=)
CoCo: 最初のヴィヴァルディの2本のオーボエのコンチェルトは、ちょっとアンサンブルが不安定だったかな。特にヴァイオリン。でもチェロ・バス(山本徹、西澤誠治)は安定していてフィゲイレドのオルガンと気持ちのいい低音を聞かせてくれたよね。2曲目で若きディーヴァ、懸田奈緒子が登場。素直で伸びやかな声でペルゴレージの「サルヴェ・レジーナ」を歌いました。彼女の声はまるで器楽のようにストレートに響くんで、弦楽器やオルガンとの音のミクスチャーがとってもいい感じじゃなかった?
ガンバ: そうなのよ。楽器のような響きね。声と器楽の絶妙なアンサンブルを聴かせてもらったわね。実は一昨日も彼女とフィゲイレドを聞いたんだけど、この時はフォルテピアノを伴奏に、モーツァルトの歌曲を歌うプログラムだったせいか、ちょっと子音が弱くて、歌にメリハリがない気がしたよね。だけど、今日のようなラテン語の曲だと、あまり欠点にはならなくて、よく器楽と溶け合っていたように思うな。これで、母音の深みというのか、響きの豊かさといったものが備わると良い歌手になるかもね。
CoCo: そのあと、もう一つヴィヴァルディのオーボエコンチェルトがあって、その次が前半のメインエベント。バッハのチェンバロ協奏曲の5番。ヘ短調。
デデ: これはまあ、何と申しましょうか、極彩色のバッハ。音栓の選び方もさることながら、この人はリズム感が独特ですニャー。そのノリのいいリズムから色彩がほとばしる感じ。
ガンバ: そうなのよぉ。やっぱりブラジル人というのか、血の中にラテンのリズムが流れているんだねぇ。去年のファンダンゴもそうだったけど、どんなにゆっくりしたところでも、あるいは超高速のパッセージでも、硬直したリズムにならず、常に変化していく。それでもノリからはずれないのは、ルバートの使い方がすごく巧みなんだわさ。
デデ: そうそう、おいらもそれは感じた。左手が一定のリズムを刻みながら、右手で自由にテンポを動かして、しかもアンサンブルの奏者達もみごとに統率していく手腕は、ちょっと並大抵の演奏家にはできないんじゃないかなぁ。ビオンディも音楽を歌わせることにかけちゃ超一流だけど、それとはちょっと違う、やっぱりラテンの乗りというのか、血の中に付点が流れているのかニャー。
ブチッケ: そう、この人の右手のリズム感てすごいねぇ。あのリズムだけで聞き手を惹きつけちゃうし、ん〜、次どうなるのかなって、思わず身を乗り出しちゃったよね。さて、後半はヘンデルのモテット「風よ、静まれ」で始まりました。この曲では懸田の声も一層輝きを増して、オーケストラと声楽のコンチェルトのようになりましたニャー。
CoCo: そうだったね。オケがガシャガシャとひとしきり騒ぐと、そこに“Silete venti(風よ、静まれ)”って大声でソプラノが入ってきて、すっとオケが引くと伸びやかな歌声だけが残る。あの出だしはほとんど芝居を見ているような感じがしましたです。
デデ: 芝居気たっぷりだったよねぇ。この曲はオーボエとソプラノのドッペル・コンツェルトのように書かれていて、相方のオーボエ(三宮正満)も丁々発止と楽しげに掛け合いを仕掛けていました。
ガンバ: そこらへんを巧みにコントロールしながら、フィゲイレドの右手が実に雄弁に語ること。ああチェンバロを弾かれると、歌もオーボエもどんどん乗せられちゃいますねぇ。懸田っていう人は、いわゆるバロックばりばりの歌唱法を身につけているわけではないようで、細かなメリスマなどはかなり技術的に甘いなって感じもしたけど、アンサンブルのノリの良さにも助けられて、最後のアレルヤもそつなく歌い切りましたねぇ。
デデ: いやまあ、実に楽しい、オペラのようなモテットでした。
CoCo: 最後にヘンデルのOp.3−4のコンチェルトグロッソ。これはまあ、オーボエコンチェルトでもあるわけで、ヘンデルの生き生きとした音楽が弾ける演奏でした。
ガンバ: 日本人の若い共演者達にも拍手ですニャー。これだけ、楽しく、生き生きと歌える演奏者が育ってきたっていうのはうれしいね。ヴァイオリンの人たちは、もうちょっと出るところは出る、潔く出る、引っ込むところは引っ込む、そこらへんの感覚を研ぎ澄まして、あとは音楽の流れに身を任せるような具合に乗っていけるようになって欲しいかな。