デデ: いやあ、大変な雨でしたニャー。
ガンバ: 白寿ホールってのは、初めてのところだったけど、新宿で乗り換えて代々木八幡だっけ? 電車が着いて扉が開いたら、いきなり雨が吹き込んできて・・・
CoCo: いまどき、ホームに屋根がない駅ってのも珍しいですニャー。
ブチッケ: ちょっと昔懐かしい雰囲気の駅前商店街を通り抜けて、なんかゴチャゴチャした交差点を斜めに渡ったところの狭い三角形の土地に建っているのが白寿ホール。とにかく狭くて、スペースに全くゆとりがないのと、ホールまでのエレベーターのシステムがかなりアホなこと、アクセスが不便なこと、(この会社の本業のはずですが)椅子が座りにくいこと、クロークの人手が足りないこと等、アメニティが全く考慮されていない点を除けば、ホールとしての響きはそこそこじゃないかと思いましたニャ。
デデ: いや銀座のど真ん中のホールに比べると、数段ましな響きになっていますニャ。ところで、ホプキンソン・スミスは2年ぶり2回目の来日。前回は武蔵野で一回だけの演奏会でしたが、今回は全国ツアーだそうですニャー。全部ダウランドだけの、じみ〜〜〜〜〜〜な曲目ですが。
ガンバ: 2年間でずいぶん風貌が変わったよね。前は太い縁の眼鏡で、髪を七三に分けて、やり手のビジネスマンて感じだったけど、今回は細い銀縁の眼鏡をかけて、髪はオールバック。
デデ: 演奏もそうだけど、いい歳のとりかたをしているなぁって気がするよね。
CoCo: 曲目は全部ダウランド。ホプキンソン・スミスはどうなんだろう。いままで、録音ではあまりダウランドを取り上げていなかったよね。
ブチッケ: そうですニャ。もちろんリュート弾きだから基本中の基本といったレパートリーなんでしょうが、すごく新鮮な響きがしておりましたです。「Dream…夢」と題された前半は、メランコリー、悲しみ、闇、といった、いわゆるダウランドらしさがよく出た・・・
ガンバ: じみ〜〜〜〜〜〜な曲が多かったわねぇ。でも、大雨なんて関係ないよって雰囲気で、きれいな音を紡ぎ出していたわねぇ。
デデ: 曲を弾き始める前に、かなり長い時間をかけて調弦するでしょ。あの前弾きがたまらないですニャー。さあさあ、始まりますよぉ〜ってな感じで、雰囲気が静かに盛り上がっていって、さらっと曲に入る。あのマナーにはいつもながら感心させられます。
CoCo: エリザベスの時代に生きた人だけど、宮廷での身分を得ることはできなかった、そんな哀愁が切々と表現されていたのが前半。「夢」の弾き始めから彼のつま弾きに乗って、小さな宇宙をさまようような感じ。「ダウランドの嘆き」の一節なんぞ、自由闊達なんだけど、はめを外さない、スミスの音楽の真骨頂だったんじゃない。
ガンバ: 私は前半では、「エセックス公のガリアード」がよかったかなぁ。宮廷ででかい面している伊達男だったんでしょ?
ブチッケ: 確かにユーモラスな一面を描いていましたニャ。逆に「エリザベス女王のガリアード」は女王に対する恨み節でしょうか。でも、表面的な描写じゃない、静かな悲しみを通じて表現する、陰にこもった恨み、ですな。でも曲調は全然悲しみや憂いを感じさせるわけじゃないんですが。そこらへんのアンビバレントな感情を表現する、弾き倒しかたがこの人はうまいですニャー。
デデ: 前半は憂いを込めたイギリス時代の作品でしたが、後半は大陸に渡ってからの作品。じつはこっちの方が、おいらにはしっくりきたんだけど。ダウランドと言えばデンマークっていうくらい、あっちに渡ってからのほうが名作が多いような気がするんですがニャー。後半演奏された曲の中では、「別れ」、「ファンシー」、「ファンタジー」といった対位法的な技法を使った曲が面白かったですニャ。
ブチッケ: そうですニャー。音域の狭い、たった8コースのルネサンスリュートで、複雑なポリフォニーの綾をほどよく解きほぐして、見通しのいい音楽を紡ぎ出していましたです。
デデ: うん。うまいリュート弾きって、ここぞっていうところで、たった一音をきれいに出すよね。その一音が全体の印象を大きく左右するような。そんな、瞬間が今回も聞けましたニャー。特に最後のファンタジーは、リュート音楽の最高峰を最高の演奏で聴かせてもらったっていう気がします。ああいう、自由闊達な音楽の語り口って、現代では貴重ですニャー。
ガンバ: でやっぱり、「涙のパヴァーン」でしょ。
CoCo: はは〜。そうですかニャー。
ブチッケ: 細部まで念入りに仕上げられた、細密画のように繊細な変奏曲を、これ以上ないってくらい美しい音色で弾いてくれましたねぇ。