オフェリー・ガイヤール

バッハ 無伴奏チェロ組曲 1,2,5番
2004年10月29日 かくえホール


デデ: レコードではかなり以前から知られている人ではありますが、たぶん来日は初めてでしょう。オフェリー・ガイヤールのチェロを聞いてきました。

CoCo: まず、かくえホールというところ。銀座の旅館らしいですニャー。ちょうど歌舞伎座の裏手。通りに面した引き戸をガラッと開けると、沓脱があって、スリッパに履き替える。玄関の板の間には夕餉の香りというんでしょうか、揚げ物の匂いが漂ってきて、今日はカレイの唐揚げかニャー? なんて雰囲気。ところがニャンと、二階にあるらしい食堂とは反対に、地下に下りていくんですニャー。狭い階段にワックスが引いてあるのか、滑りそうでちょっと怖い。

ガンバ: 下りきると、分厚い防音ドアがあって、その中が板の間。ざっと見渡したところ、30畳ぐらいだったかしら? もう少しあるのかな? そこに50人分の小さな折り畳み椅子が並べられていて・・・

ブチッケ: かなり狭苦しい雰囲気でしたニャー。ドアもそうですが、壁面や天井もスポンジが入ったような素材を張ってあって、音楽会場というよりは、スタジオというか防音室というのか。とにかく響きは全くない部屋でしたニャ。

デデ: まあ、狭い部屋で、おまけにちっちゃなグランドピアノまで置いてあるもんで、なるべく響かないように作ったんでしょうねぇ。でも、そのぶん、楽器の直接音をよく聞くことができました。必ずしも演奏者にとっては弾きやすいところじゃないでしょうが、ちょっと面白い体験をしたって感じですかニャー。

ガンバ: 今日はバッハの無伴奏から三曲。弾き始めたとたんに、おやっ、って気がしたんだけど。狭い部屋なのに音が来ない。ま、これは仕方がない。だんだん耳が慣れてくるだろう。で、耳が慣れてくると、これは素敵な音楽だわさ。

CoCo: だわな。いまさら大時代的な、格闘技のような、腕まくりをして、汗を滴らせて、チェロと格闘するような、さすがにそんなバッハをやる人はいなくなったけど、この人のチェロは、自由に呼吸する、自由に羽ばたく、自由に語るんですニャー。一番のプレリュードからかなり早めのテンポで、グイグイじゃなくて、サラッと弾いていくんだけど、それが何とも言えずエレガントな音楽になるんだニャー。

デデ: そう、エレガントって感じよくわかる。フレーズをやたらと引っ張らずに、ちょうど人間の呼吸ぐらいの長さ・・・かな。もちろん音楽だから当然長短があるわけだけど。そのくらいの長さのフレーズをさりげなく積み重ねていくんだけど、いくつかのフレーズが合わさって、ハッと気づかされるような大きな波というのか、うねりというのか、そんなものが見えてくるんですニャー。

ブチッケ: あれはしゃれていましたねぇ。もちろん、一番のアルマンドのような曲はそれなりによく鳴らすんですが、でも重々しいだけじゃない。荘重な重音に応えるかのように、ソットヴォーチェのフレーズが聞こえてくるんですニャー。今デデが言ったみたいな、フレーズの大きなラインという他に、細かな部分でも絶妙な呼応関係を描き出していましたニャ。

ガンバ: そう、対話といってもいいんじゃない。発話があって、応答がある。そんな気がしたのよねぇ。

デデ: 軽快に弾くところは、ホントに小鳥のさえずりのように軽やかに。クーラントやジグの爽快感はちょっとモダンのチェロでは味わえないものですニャー。

CoCo: そうそう、そのジグだけど。この人のテンポ感覚ってすごいなって思うのは、同じジグでも一番と二番じゃちょいと違う。変な言い方だけど、軽やかなジグと壮麗なジグとでも言ったらいいのかニャー。バッハの音楽が持っている語りの要素を引き出して、絶対に一本調子に流れないところはさすがって気がしました。

デデ: それは、たとえば五番のガヴォットなんかによく現れていたと思う。ちょっと聞くとガヴォットの出だしがちょいと遅いかなぁなんて気がしたんだけど、中間部というのかガヴォットIIをものすごい急速調で弾いて、うまくバランスをとっていたよね。

ガンバ: かと思うと、サラバンドのようにテンポもリズムもほとんどたゆたうような曲では、対話とともに歌のうまさも披露してくれたでしょ。ズ〜ンと引き伸ばされた最後の音を弾き終わっても、まだ楽器の中に音が響いている。デッドなホールだから、そんな貴重な瞬間もよく聞き取ることができました。



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