メメルスドルフ&シュタイアー

『無秩序の喜び』

リコーダー:ペドロ・メメルスドルフ
チェンバロ:アンドレアス・シュタイアー

2004年6月8日 浜離宮朝日ホール


(「まんまる」でウナギを食らいつつ)

デデ: ホントにホントに久しぶりにシュタイアーという名前を見つけて、余り気乗りはしなかったんだけど・・・

CoCo: いやあ、聞きに行ってよかったよぉ。うん、その筋では有名な人らしいですが、メメルスドルフっていう笛吹がよかったニャー。いやもちろん、シュタイアーもたいしたものでしたよ。確かシュタイアーを最初に聞いたのは、ムジカ・アンティカ・ケルンのチェンバロ奏者として来日した時だったよね。

ガンバ: そう。あの時は『音楽の捧げ物』をやったんだけど、ベルギーの家族合奏団とは段違いに密度の濃い演奏だったわ。ただ、それが好きかどうかは別の話だけど。

デデ: そうですなぁ。完璧なイントネーションで、あの難解な曲をみごとに交通整理して聞かせてくれた、そんな感じだったかなぁ。

ガンバ: ただあの、ヴァイオリンがねぇ。あの人さえいなければ・・・

ブチッケ: そこらへんは好きずきですニャー。あのアクが好きだって人も中にはいるわけで。不気味な曲をこれでもかってくらい、薄気味悪く演奏する家庭合奏団だって、好きな人に言わせりゃ、キャー、最高ってね。

デデ: ま、そんなヴァイオリンの個性が強い演奏の中で、3声と6声のリチェルカーレだけはチェンバロのソロでやったわけで、これが際だってよろしかったですニャー。音楽の流れの機微をよく捉えて、この肝焼きのように味があって、コクがあって、コリコリして、聞き手を飽きさせないみごとなチェンバロでした。

ブチッケ: コリコリしていたかどうかは知らないけど、あれがシュタイアーを最初に聞いた演奏会ですニャ。もうムジカ・アンティカとは別れたらしいけど、このメメルスドルフっていうリコーダー吹きとはずっとやっているらしいね。

CoCo: このリコーダーはすごかったニャー〜〜〜〜。基本的に息はストレートで、揺れがなくてきれいな音ですニャー。ビブラートは使うとしても、フィンガービブラートのみでした。

ガンバ: その前に、まず今日の曲目から。『無秩序の喜び』っていう、なにやら意味ありげなタイトルの演奏会だったけど、内容は1640年から1680年の間に作曲されたイギリスのコンソート。まあ二人だから、笛と通奏低音だけで演奏できる2声部のコンソートっていうことかしら。この時期のイギリスは共和制期を挟んで、有名・無名を問わず、言ってみればおこちゃま向けの音楽から、プロでも冷や汗をかくような曲まで実に多彩な小品がゴロゴロしているわけだけど、そんな小品をゴマンとてんこ盛りにして、なおかつ即興も交えて一気に聞かせるっていう、かなり意欲的で風変わりで、虚をつかれたって感じのプログラムだったわねぇ。

ブチッケ: そうですなぁ。この鰻丼ぐらいてんこ盛りでした。作曲家としてはプレイフォード、ローズ、ロック、バード、パーセルなんてところ。構成上は、「エア」、「バトル」、「組曲」、「バレット」、「グラウンド」の五つの部分からなっていて、それぞれのパートに数曲ずつの小品と即興が配される。休憩なしの奇妙な演奏会でしたニャ。最初の「エア」では本題に入る前にメメルスドルフが即興で一くさり。と言ってもちゃんと譜面にしてあるみたいでしたけど。アルトでなにやらもの悲しい、だけどどこか懐かしい静かなメロディーを吹き始めると、そこはもう、スコットランドのうらぶれた山里ってな雰囲気になりましたニャ。

ガンバ: っていうかぁ、メメルスドルフって南米の出身のひとでしょ? 私はケーナの響きのように感じたんだけど。

デデ: 確かに、ケーナに近いというか尺八に近いというのか、「アタリ」を使っていましたニャ。まあ、要するにタンギングじゃなくて指で音を切る技法だけど。それからグロータル・ストップもかなり使っていました。やっぱり舌じゃなくて息というか喉で音を切る方法だけど。どちらもリコーダーで使うのは初めて聞きました。面白いですニャー。うん、こんなこともできるんだって。ブリュッヘンが吹かなくなっちゃってからもう20年近く、でも、うまい人はいたんですねぇ。

CoCo: 静かな即興が静寂の中に吸い込まれそうになった頃、シュタイアーのチェンバロがそっと寄り添うように入ってきたよね。そして、いつの間にか拍節のある音楽に。いくつかのエアやジグを時に哀愁を帯びて、時に生き生きと響かせ、その間を即興で繋いでいく。なんかこの二人の秘密の楽しみって感じでしたニャ。次の「バトル」になると、いわゆるバッタリアのチューンが高らかに響いて、偉そうなメロディーが次々と登場。「組曲」ではマシュー・ロックの超絶技巧の限りを尽くした舞曲を楽しそうに演奏していました。「バレット」はまあ、組曲じゃないけど、マスクとかアンチマスクとか、ダンスナンバーのメドレーですニャ。

デデ: でも今日圧巻だったのは、最後の「グラウンド」のパートに置かれた、作者不明のブラックジョーク。これは即興なんだろうか。それとも譜面に書かれた物なんだろうか。いや、確かに譜面にしてあったようだけど、まあ、リコーダーで出せる限りの音と技法を総動員した演奏でした。

ガンバ: うん、あれはすごかったねぇ。どんなに鋭く音が切れているところでも、まるでタンギングしていないかのように滑らかなんで、一体どんなことやってるんだろうって、不思議だったわ。

ブチッケ: ところで今日使われたチェンバロですが、10日ほど前(5月27日)にレオンハルトが王子で弾いたイタリアンと同じ楽器でしたニャ。スコヴロネック作のこの楽器、もともとシュタイアーが持っていたものだそうですが、今は日本の楽器屋が買い取ったんだとか。王子ホールで聞いたときには、なんとも始末に悪い楽器だニャーなんて思ったんですが、今日はそこそこ鳴っていましたか?

デデ: 王子ホールってのが悪すぎたし、あそこでチェンバロのソロは金輪際聞きたくないねぇ。まあ、それに比べれば朝日講堂はかなり癖がある響きだけど、王子ほど悪くはないよね。それでも、この広さのところで古楽はちょっと苦しいよね。リコーダーの音もよく通っていたとは言えないし。あのイタリアンは18世紀のタイプで、たぶんフォールス・インナーアウターってやつかな。そばで見ないとわからないけど。巨大な図体の割にはおとなしい楽器だね。ただ、シュタイアーは自分の楽器だったから、悪いなりにも鳴らし方を心得ているんで、それなりの魅力を引き出していたと思うんだ。高音は絶対に通らないけど、低音のドローンのような音は効果的に使えるとか。極端なことを言うと、シュタイアーがあの楽器を弾くと、クレッシェンドが聞こえてくるような気になるんだよね。

CoCo: 最後に。無料とは言え、あのプログラムは一体何だぁ。どうやら学生アルバイトに外盤のレコードジャケットを翻訳させて、それをプログラムに載せたらしいんだが。

ガンバ: 独自の世界を拓いた文章と言えるのではないでしょうか。

ブチッケ: うん、宇宙人の文章かな。縦読み、斜め読み、逆さ読み、全部試したんだが、やっぱり意味不明だ。

デデ: 学生のバイトじゃしょうがないんだろうけど、あれをそのままプログラムに載せてしまうのはまずいよね。ブラックジョークとブラックジャックが混在してたりして。まあ、そこらへんのジョークを狙ったのかなぁ。


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