近頃の新国立劇場

この一年の回顧

オテロ      2003年6月12日
トスカ      2003年11月11日
ホフマン物語   2003年11月28日
スペインの燦き  2004年2月18日
サロメ      2004年2月27日
神々の黄昏    2004年4月1日
マクベス     2004年5月19日
ファルスタッフ  2004年7月1日
その他バレエなど



デデ: いやあ、暑い暑い!

ガンバ: 夏い暑ですニャー。

デデ: 下らん親父ギャグは止めにしていただきたい。

ガンバ: ところで新国だけど、去年の9月に支配人が交代して、今までとはかなり違った路線を取り始めたじゃない。ちょうど節目のシーズンてことかな。

デデ: 「赤城の山も、今宵限り。かわいい子分のてめぇたちとも、別れ別れになる門出だぁ」なんてね。どうも新国って略し方には違和感があるなぁ。二国っていう立派な名前があるんだから、いつものように行きましょうや。

CoCo: ですニャ。今夜はまあ、空豆をつまみにビールでも何しながら、一口コメント形式でこの1年を振り返ってみようという企画だそうで・・・ぐびぐび

ブチッケ: ぐびぐび。

デデ: ごくごく。

ガンバ: ぷはぁ〜〜〜〜〜。やっぱ、冷えたビールはおいしいわぁ。

デデ: 空豆は茹で加減が大切ですニャー。こりゃちょうといいですニャー。茹で過ぎちゃせっかくの豆が台無しですニャ。

CoCo: そうそう。塩加減もいいねぇ。

ブチッケ: なかなか本題が出てきませんニャー。そいじゃあっしから・・・え〜と去年の6月の『一本刀土俵入り』、それから9月の『父帰る』これが前小屋主の置きみやげってことですかニャ。

デデ: ちゃう、ちゃう、6月は『オテロ』、9月は『アイーダ』。

ブチッケ: まあ、そうとも言いますが。え〜と、オテロはボガチョフ・マッツァリーア組の方に行ったわけですが、あのマッツァリーアの相撲取りのような巨体に圧倒されましたニャー。それに比べてオテロのボガチョフが何とも貧相。声や演技はどっちもどっち。ロイヤルオペラの古い演出をそのまま買い取った舞台も、まあ、いかにもって言う感じ。

ガンバ: そうね。よくあるような舞台を淡々と見せられたってことかなぁ。

デデ: 9月のアイーダが前小屋主最後のプロデュースだったみたいですが、巨費を投じて豪華絢爛な舞台をやったそうですニャー。

CoCo: 二国ができた頃にやった舞台の再演だったそうですが、噂によると「凱旋」の場では200万人もの人民が盛大なマスゲームで将軍様を讃えたそうで・・・

ガンバ: その後、10月の『フィガロ』からが新小屋主の監督作ってことだったけど。いきなりのフィガロがすごかったわね。

デデ: ま、これについてはすでに感想が上がっていますからそちらを見ていただくとして・・・え〜と、その次は11月の『トスカ』。でしたニャ。これはプロダクションとしては古いもので、定評ある舞台装置はとても豪華で重厚なんですが、今回は何とも指揮者が・・・

ブチッケ: そう。ちょっと調べたら前回は02年の5月に見ているんですニャー。あの時はスカルピアに圧倒されたけど、今回のスカルピアはちょいと小者。エリザベス・ホワイトハウスとカール・タナーの主役二人は前回よりもかなりうまい歌手でしたニャ。ただジェラール・コルステンという指揮者が・・・

ガンバ: そう指揮者がねぇ。メトロノームに合わせて腕を動かしているみたいな、メリハリのない音楽。歌手もすごく歌いにくそうでした。前回のヴェロネージとどうしても比べたくなっちゃうんだけど、あの人はプッチーニの泣かせ節を泥臭いくらいお下品に聞かせてくれた一方で、テデウムの場とか、二幕ではスカルピアのオフィスの窓の外からカンタータが聞こえてくる場面なんか、重層的な音をすごく上手に、しかも繊細に処理していたでしょ。それに比べると今回の指揮者はちょっと薄っぺらで、音楽そのものが全然面白くなかった。

CoCo: というわけで、僕たちは二幕まで聞いて帰っちゃったんだけど・・・

デデ: あ、そうだったんだぁ。おいらも二幕までは我慢したんだけど・・・やっぱり指揮者の技量がもろに出てしまったというのか。レーハーゲルはすごかったね。決勝もフィーゴとクリスティアーノ・ロナウドを自由にさせなかったばかりか、逆にフルバックがオーバーラップして、フィーゴもロナウドも自陣まで戻らなくちゃならない状況を再三作り出していたでしょ。

ブチッケ: チェコを相手にしても最後まで攻め続けた、あの闘志はすごかったですニャー。やっぱりトラップやエリクソンは敗れるべくして敗れたってことですニャ。

ガンバ: なんか話がずれてる。

ブチッケ: いや重層的なお話しなわけで・・・

CoCo: え〜と、その次は11月末の『ホフマン物語』でしたニャー (=^^=)V
これはほぼ文句なしに美しい舞台でした。

ガンバ: まあ、プレミエなんでいろいろ突っ込みどころはあるんだけど、きれいだったわよねぇ。

デデ: まず演出のフィリップ・アルローという人、とりとめのない夢物語を視覚的に表現する技を持った人ですニャー。あ、プログラムを見たら美術と照明も自分でやっているんですねぇ。大変な才能を感じました。随所にバレエダンサーを登場させて、何とも説明しがたい幻想シーンを視覚化して見せたり、酒場のシーンやローマ、ヴェネツィアの幕での群衆の扱い方もうまかったですニャー。それから指揮の阪哲朗という人、名前だけは何となく聞いたことがあるかなぁって気がするんだけど、実演は初めてでした。最初ちょっとポキポキして流れない音楽だニャーとか思いながら聞いていたんですが、これは機械仕掛けのオランピア幕に向けての伏線だったようで、尻上がりに歌い口がよくなってきました。ニクラウスのエリナ・ガランチャにはメフィストフェレス的な軽やかさというのか、イロニッシュな雰囲気がちょっと足りなかったかなぁ。

ガンバ: 私はニクラウスは、まあまあだったと思うよ。ホフマンのヤネス・ロトリッツはちょっと一途な演技が過剰な気がしたけど・・・一場をさらってしまったのは、オランピアの幸田浩子とアントニアのアンネッテ・ダッシュ。この二人を聞けただけでも、出かけた価値有りだったわね。

CoCo: うんうん、幸田浩子ってのはすごかったですニャー。アントニアのダッシュは艶やかでしっとりとした、まさにアントニアって声と風貌。ホフマンのアントニア幕って、よく書けているって言われる割に、舞台ではイマイチ感動が薄いことが多いんだけど、今回のアントニアはよかったですねぇ。

ガンバ: ただ、心理描写を視覚化するためか、ヴァイオリンを持ったダンサーが何人が出てきたじゃない。あのせいかなぁ、歌って歌って歌い死にするアッチェレランドが今ひとつ乗りきれなかったのよねぇ。

ブチッケ: 私は悪人四役をやったゴードン・ホーキンズっていう歌手、性格付けがちょっとぼけていたかなぁなんて気がしますけど、これは演出の問題っていうよりは歌手のキャラですかニャ。あと、フィガロでも感じたんだけど、シングルキャストになってすごく日本人歌手が生き生きしてきたよね。

ガンバ: あ、それは私も感じた。男性歌手では四役をこなした高橋淳、ヘルマンの青山貴、スパランツァーニの柴山昌宣・・・女性ではアントニアの母とステッラを歌った中杉知子。こんなに日本人歌手が充実した舞台って今までなかったんじゃない?

デデ: そんな中でジュリエッタの佐藤しのぶが、かなり異色な存在でしたねぇ・・・さてと、04年に入ってからは2月の『スペインの燦き』が最初だったでしょうか? 前半はラヴェルの「スペインの時」、後半はバレエで「ダフニスとクロエ」、「洋上の小舟」、「ボレロ」というスペイン物を並べたプログラム。「スペインの時」ではコンセプティオンのグラシェラ・アラヤが楽しい女房をよく演じていました。ダンナのツェドニクも存在感たっぷり。ただ、短い割にストーリーがやや煩雑なんで、楽しめたかと言われるとかなり???

ガンバ: あたいは面白かったよぉ。ゴメス役の彭康亮というのがいい味出してたねぇ。

CoCo: そうそう、二国ではすっかりお馴染みの人だけど、渋いバイプレーヤーって感じかなぁ。ホフマンの時のルーテルもすごくよかった。

ブチッケ: 時計の歯車を模した装置や、おとぎ話のような時計の数々はまあそれなりだったと思うんだけど・・・え〜と後半はバレエが二つと「洋上の小舟」。全体にシンプルな装置の中でよく見せてくれたとは思うけど。

デデ: ですニャー。それ以上のものじゃなかった。東フィルってこんなにきらびやかな音を出すオケだったかなぁなんて思いながら、私はオーケストラに聴き惚れておりました。指揮はマルク・ピオレっていう人。ところで、オペラからバレエまで何をするってわけでもない、モーリスという役がずーっと登場していたんだけど、あれ何か意味があるのかねぇ?

ブチッケ: 美加理っていう人ね。何だろうねぇ、あれは???

ガンバ: 2月の後半には再演だけど、『サロメ』があったわね。前回はヘロデ王のお間抜け振りがみごとだったけど・・・

CoCo: 今回は何と言ってもアラン・タイタスのヨハナーン。やっぱ、こうじゃなくっちゃね。指揮はフリートリヒ・ハイダーでオケは東京交響楽団。ヘロデはツェドニクが歌って、ややおとなしく感じたけど。

ガンバ: タイタスはすごかったねぇ。それに比べてって言っちゃ失礼だし、あまり人の体型について語っちゃまずいのかもしれないけど、あのサロメは・・・

デデ: エヴァ・ヨハンソンですニャー (=^^=;;
できれば語らずに済ませたいですニャ。でも容姿っていうのも重要ですよね。ってことで、『神々の黄昏』。これは前支配人時代に始まったシリーズなんで、いまだにダブルキャスト。昨年の『ジークフリート』が、主役二人(クリスチャン・フランツとスーザン・ブロック)が芝居をぶち壊していたもので、今回は何としてもこの二人を避けたかったんですニャー。そもそもあんまり見に行く気も起きなくて、チケット争奪戦にも参加しなかったし。

CoCo: それに『ジークフリート』ではN響がアマチュアオケみたいにヘッタくそな演奏を繰り広げて失笑を買っていたし。メルクルっていう指揮者も交通整理のお巡りって感じだったしねぇ。

ブチッケ: 当日ふらっと出かけたら、ちゃんとした席がまだあったんだぁ、ってことでございましたニャー。巷の評判でもこの4月1日、エイプリルフールの上演が最高だったっていう話ですニャ。

ガンバ: 中には毎日見ている人もいるのよねぇ (=^^=;;
なんで、このBキャストかっていうと、すべてがクリスチャン・フランツ。この人だけは避けたかったんでしょ?

デデ: そういうこと。去年のダレ切った舞台の中でも一際大根だったのがこのフランツっていうオッサン。これだけはもう一度聞く気になれなかったんですニャー。演出がちょっとひどすぎたってこともあるけど、あそこまで大根で、およそジークフリートらしからぬ舞台姿はもう御免。まあ、ネガティブな選択だったけど、結果的には大当たり。

ガンバ: っていうのも、Bキャストではスーザン・ブロックがブリュンヒルデだったんだけど、去年とはホントに別人じゃないかってくらい、すばらしい出来だったのよね。トーキョー・リングってちょっと軽薄なネーミングだけど、これに賭けているっていう感じが伝わってきたわ。

ブチッケ: いや、本当にあれだけ体を絞ってきたっていうことは、歌手としては大変な努力でしょうねぇ。ところでウォーナーの演出は相変わらず説明過多で、もううんざりってくらい思いつきの仕草や道具を見せつけられるわけですが、今回は多少彼自身の中でも整理がついてきたのかなって気がしましたニャ。こっちが慣れてしまったのかもしれませんが、今までほどはうるさく感じませんでした。

CoCo: でもこういう当て振りというのか、単に演出家の思い付きを表現しただけの舞台だって、面白いっていう人もいるわけで、人それぞれですね。いちいち「あれはどういう意図だ」、「これはこういう伏線だ」ってやらかす人に対しても十分に楽しみを与えてやっているという点では、今回のリングのシリーズも何らかの意味があったのかなぁ。

ガンバ: まあ、楽しみ方は人それぞれだから、そういう御仁がいても一向に構わないんだけど。でも、ワーグナーの理想がどうであろうと、やっぱり音楽よねぇ。歌よ。

デデ: そう、その点で『黄昏』は大成功でした。もう一度見たいって代物じゃないけど・・・

ガンバ: ただこの演出家。相当な女嫌いね。ワハハ本舗みたいなラインの乙女から喪服姿のブリュンヒルデに至るまで、女を徹底して汚らしく描いていたでしょ。

CoCo: 女は喪服姿が一番色気がある。

ガンバ: あたいも喪服着てやるぅ。

デデ: まあまあ、ご両人。穏やかに話しましょう。 え〜とさて、ワーグナーはこのくらいにして、5月の『マクベス』。これはそこそこだったですか?

ガンバ: マクベスのお城のしつらえなんかは結構面白かったと思うんだけど。

CoCo: だよね。マクベスのヴォルフガング・ブレンデル、夫人のゲオルギーナ・ルカーチはそれぞれ立派な声を持っていて、目をつぶって聞いていればなかなかの演奏だったと思うけど、それにも増して、バンクォーを歌った妻屋秀和を始め、日本人の脇役がよかったねぇ。

ブチッケ: 確かにこのプロダクションも日本人の脇が充実していましたニャ。ただ・・・

デデ: ただ・・・

ガンバ: ただ、演出がねぇ。まあ、美術や衣装・照明はそれぞれに分担があるんでしょうけど・・・ちょっといただけない舞台だったわねぇ。

デデ: まず、装置から言うと、二国のひろ〜い舞台が全然活用されていない。遠近感がない。まるで歌舞伎の装置みたいに横長の二次元的な舞台。いくら花道のような、お立ち台のような山車を奥から引っ張ってきても、所詮平面的な舞台を強調するだけの効果しかなかったですニャー。

ガンバ: それに、幕開きから舞台中がお花畑って一体???

ブチッケ: そこで三群の魔女の大軍が歌い踊る。これは宝塚かと?

デデ: 役者の演技もかなりの大根でしたニャー。というか、全く演技指導をしていないみたい。何にも注文がないから、てんでバラバラに各自勝手に身振りや表情を作っていました。これじゃあ、魔女の予言を勝手に解釈して自らを追いつめていく、マクベス夫妻の心の葛藤というのか、心理劇的な要素はまるで表現できませんねぇ。

CoCo: そこがマクベスの見どころだし、それがなきゃ、単なるゴシックホラーじゃない。

ガンバ: 幕が上がる前から再演が決まっているという不思議なプロダクションだったけど、演出を根本的に手直ししないとこりゃダメだわ。

デデ: 野田秀樹っていう人、オペラの演出は初めてだったみたいだし、ちょっと二国の広さにたじろいじゃったんだろうけど、まあ、もうちょい修行が必要かなぁ。

ガンバ: え〜と、今シーズンの最後に『ファルスタッフ』。

ブチッケ: なんか、シェイクスピアが続きましたニャー。でも、これは文句なく楽しめました。

CoCo: だね。何といってもタイトルロールのベルント・ヴァイクル。これはすごかった。スラップ・スティックで笑わせるっていうファルスタッフじゃなかったけど、うん、しみじみ汚らしい酔っぱらい老人をみごとに演じてたねぇ。

ブチッケ: ですニャ。それとフォードのウラディーミル・チェルノフ、ガイウスのツェドニク、パドルフォの中鉢聡、ピストーラの妻屋秀和、それにナンネッタの半田美和子あたりがいい味出してましたニャー。

ガンバ: そうそう半田美和子っていうのはよかったねぇ。それと演出のジョナサン・ミラー。ベテランらしいけど、それはきれいな舞台だったよね。マクベスと連続だからつい比較したくなっちゃうけど、役者の演技から舞台装置に至るまで雲泥の差だった。

デデ: フェルメールの絵を映したような装置に、衣装もレンブラントの絵から抜けだしてきたような美しさ。これで、もうちょっと照明に微妙なニュアンスが加わったら、言うことなしだったんだけど。

ブチッケ: 指揮のダン・エッティンガーと東フィルの演奏もなかなかツボを押さえてみごとだったと思いますニャ。これはぜひ再演してもらいたい出し物ですニャ。

デデ: あと、最後に、去年の12月に見たバレエ『こうもり』。これはすばらしい舞台でしたね。

ブチッケ: 何と言いましょうか、プティの振り付けは女性をとことん美しく見せてくれますニャー。

ガンバ: ジャンプしたときにピンと伸びた指先から足の先まで、ホントにきれいねぇ。去年の8月だったか9月だったか、その頃に文化村で見た『ノートルダム・ド・パリ』でもそうだったけど。それから、これはオペレッタの『こうもり』を換骨奪胎したストーリーで、コールドバレエというのか、一応ソリストなのか、そこらへん詳しくないからわかんないけど、マキシムのギャルソンの一団とか、チャールダーシュを踊った連中とか、あれはカッコヨカッタよぉ。

デデ: というわけで、小屋主が代わってからのこの一年、まずまずの成果だったと言えるんじゃないでしょうか。特に日本人歌手の成長が著しいと思いますが。

ガンバ: そう、ダブルキャストでいきなりタイトルロールを歌わせるより、ヨーロッパで主役を張ってきた人たちの脇を固めて勉強させていけば、きっと一流の歌手も出てくるんじゃないかなぁ。あたいはそう思うけど。今までのダブルキャストは余りにも落差が大きすぎて、「金返せぇ〜」って言われても反論できないレベルの公演もあったけど、ちょっとは底上げになってきたのかなぁ。


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