上海京劇院の白蛇伝

2002年5月20日
東京芸術劇場中ホール


(デデのひとりごと)

上海京劇院の公演を見てきましたです。上海の京劇といえば史敏。何と言ってもトップスターですニャー。今回の出し物は白蛇伝のそれも通しというわけで、史敏は最初から最後まで出ずっぱり。

通常は「盗仙草」、「金山寺」、「断橋」あたりを一幕ものの狂言仕立てでやることが多いわけですが、今回は今申し上げたとおり、全編を通しでやるという企画。通しで見たのはたぶん今回が2回目ぐらいでしょうか。名場面がちりばめられた芝居ですが、どちらかというと人情話の部分が多くて見づらいかなと思っていたんですが、どうしてどうして・・・やはり史敏の演技力が際だっていて、最後まで観客を飽きさせない舞台でした。

幕が上がると「遊湖」の場。峨眉山で千年の修行を積んだ白蛇の白素貞(はくそてい)と青蛇の小青(しょうせい)、人間の娘の姿に変身して西湖のほとりに下ってきます。地上の美しさをしばし堪能する二人。この冒頭のシーンから白蛇役の史敏の歌(唱)は情緒細やか。主に二胡の響きに乗って、春の湖の美しさを朗々と歌い上げて拍手喝采。突然のにわか雨。傘を貸してくれる許仙の登場。舟で送ってやるシーン。まるで、一幅の名画を見るような美しさ。許仙、小青もさることながら、船頭役の金錫華の老練な(?)演技も冴えておりましたニャー。

翌日、白素貞の家を訪ねた許仙、さっそく彼女と結ばれてしまいます。ここらへんのテンポの良さは京劇ならではですニャ。でも恥じらう二人の人情の機微もなかなか楽しませてくれました。と、そこにぬっと現れる金山寺の法海坊。仏教の権化なのか、権力の手先なのか、はたまた単なる悪魔払いなのか。要するに白素貞は妖怪の化身であると許仙に吹き込むわけですニャー。妖怪と結婚するとはけしからんということなのか、妖怪そのものに敵意を抱いているのかはわかりません。でも、中国における仏教の受容が、道徳的・倫理的意味合いよりも、もっと土俗的なものに根を張っていたというのは、このシーンを見ても確かですニャー。ここらへんが、国家権力の支配の道具として受容された日本の仏教とは大変な違いであります。この法海を演じた張発達という役者も、ドスの利いたバリトンで、満場を湧かせておりました。

さてさて、法海坊に女房は蛇じゃと吹き込まれた許仙。時は邪気を払うという端陽節。妻の白素貞に無理矢理、雄黄酒を飲ませます。人ならぬ身の白素貞。ただでさえ邪気払いの節句に、酒まで飲まされたものですから卒倒してしまいます。ここの二人のやりとりもなかなかのみもの。勧められて仕方なく一杯飲み、もう一杯と勧められて、煽った瞬間、白目を剥いて倒れそうになります。ここらへんは迫真の演技。寝室に籠もった白素貞を見舞う許仙。しかし、彼も妻の正体を見て驚愕死。まあ、芝居の都合でなぜか登場人物が死んでしまうってストーリーは、ほとんどワグナーですニャ。

そして、有名な盗仙草の場面。夫を生き返らせ仙草を得るために、白蛇は崑崙山に分け入ります。一幕ものでやる場合には、崑崙山を守る鶴や鹿との戦闘シーンをたっぷり見せるのが普通ですが、今回はかなりあっさりと仙草を手に入れてしまいます。

白素貞が持ち帰った仙草で息を吹き返した許仙ですが、またもや法海坊の罠にはまり、金山寺にふらふらと出家してしまいます。ホントにどうしようもない男だね。この後がこれも有名な金山寺の場面。ここも一幕ものだと絢爛豪華にやりますが、今回は法海坊の言葉「長江が逆流せん限りは許仙には会えんぞ」を引き金に、蛇と水族の部隊が結集。護法人、ナタといった神将たちとの大立ち回り。このシーンが今日の舞台のクライマックスだったでしょうか。絢爛豪華な神将に対するは、亀やら貝やら。孫悟空じゃあるまいし、最初から勝負は決まったようなものなんですが、身重の白素貞が大活躍。史敏についてはこれまで、あまり立ち回り役者といったイメージを持っていなかったんですけど、このシーンの立ち回りは一見の価値あり。客席も大喝采でした。

敗れた白蛇が疲労困憊して小青とともに落ち延びてきた先は、なんと西湖のほとり。そこにまたもや金山寺からふらふらと抜け出してきた許仙も現れます。二人が最初に出会った運命の場所。断橋は以前のままですが、二人の仲はもう一つになるわけもありません。白素貞は自分が蛇の化身であると告白しますが、そこに現れたのが法海坊の手下。さしもの白蛇も命運尽き果て、メアリー・スチュアートよろしく雷峰塔に幽閉されてしまいます。

通しで上演する場合、普通はここで終わりじゃないかなぁと思うんですが・・・今回は「エピローグ」と称する一場が付け加えられて、10年の修行を積んだ小青が再度地上に舞い戻り、雷峰塔に閉じこめられていた白蛇を救いだし、許仙とよりを戻すということになっていました。ここはなんかちょっと余計かな。

主演の史敏の歌と立ち回りをはじめ、脇役に至るまでかなりの役者を揃えてきたみたいで、なかなか見応えのある芝居でした。演出や装置もかなり凝っていて、従来の京劇のイメージからすると、かなり豪華な仕掛けになっていましたニャ。


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