サロメ、トスカ

サロメ 2002年5月7日
トスカ 2002年5月8日
新国立劇場


(要町は猫の溜まり場、チョイスにて)

ブチッケ: しかし、なんですな。二国ってのはとんでもなく不便な場所ですニャー。

デデ: 広く国民のみなさまに観ていただこうって気が、全然ないみたいだね。

ガンバ: 行きはともかく、はねた後、あの新宿の雑踏をかき分けて来なきゃならないってのは、たまんないわ。

CoCo: タクシーだとチョイスまで10分。もうこれっきゃない!

デデ: ま、ともかく、二国のオペラは久しぶりですニャー。

ガンバ: ん? 先月ワルキューレを観たばっかりじゃない。

デデ: あ、そうだっけ? すっかり忘れてた・・・てへっ (=^^=ゞ
それはともかく、今回は二国開闢以来初めて、2演目を交互に上演するという大変豪華な企画でした。できて4年ですか? やっとレパートリーが定着してきたってことでしょうか。

ガンバ: 能書きはどうでもいいけど、せっかくの連続公演を連休にぶつけるって、どうかしてるわね。休日の真っ昼間に演奏会に行く人間なんて・・・

ブチッケ: けっこういるんですニャー。およよって感じですが。

デデ: まあ、猫はわざわざ休みの日に行ったりしないから、どうでもいいことだけど。

CoCo: さて、7日のサロメ。よかったですニャー。

ガンバ: あたいはね、あの出だしの腰砕けなオケの音が許せないっ!

デデ: そうでしたニャー。あれは一体何だったんだろう? 客席の喧噪を打ち消すように、思いっきり泥臭いくらいの音色で、エキゾチックなパレスチナの場面に引き込まなければならないところなんだけど、色気もへったくれもない管楽器でしたニャ。

ガンバ: そうなのよぉ。

ブチッケ: でもオケもだんだん暖まってきたのか、次第に調子を上げてきましたな。

CoCo: うんうん。ところで、この上演はサロメ役のジャニス・ベアードに尽きますニャ。

ガンバ: 賛成! ベアードっていいわねぇ。演出もなかなか豪勢で、舞台中央に古井戸。なんだか宇宙船のハッチみたいだったけど。中央奥にヘロデ王のテント。左右に篝火が焚かれていて、サイボーグみたいな衛兵が行ったり来たり。ちょっと時代をカッ飛んだ装置と衣装だったけど、うまく収まるところに収まっていた感じ。

デデ: ベアードですが、歌はもちろんですが、迫真の演技でしたニャー。ストリップをやったあと、「ご褒美は何がいいの?」って聞かれて、小娘のようにお茶目な表情で、「銀の皿に乗せたヨハネの首をちょうだいな」ってさらっと言ってのける場面なんぞ、ゾクゾクしましたニャー。

CoCo: コケティッシュってぇのともちょっと違うかなぁ。あそこの表情はまるで、小娘そのものだったよね。場面は前後するけど、ヨハネ(ヨハナーン=青戸知)はどうだった?

ガンバ: パパイヤ鈴木に似ていた (=^^=)

CoCo: ぷふっ。それはともかく、徹底してサロメの誘惑を冷酷に拒絶する役だよね。

ガンバ: でもあの風貌がね。小太りの聖人て、ちょっと違うかなぁ。

CoCo: そうか。ちょっと違和感があったのは、体型のせいかもしれない。やっぱり、キリストに洗礼を施した人間がユーモラスに見えちゃまずいよね。なんか、拒絶に力が足りなかったような気がしたんだけど。

デデ: ヨハネの役はもっと冷酷に、まるでウジ虫を見るような感じでサロメを拒絶しなければいけないよね。でも、サロメとヨハネの問答の場面て、音楽がすごく面白いでしょ。サロメの誘惑はあま〜い旋律、ヨハネのセリフは断固たる拒絶の音楽。

ブチッケ: そうそうあのあたり、オケがよかったですニャー。オケがちょっとグロテスクなくらい、人間の心理描写をしますな。そのニュアンスの豊かさと言ったら・・・もうウニャウニャものでしたニャー (=^^=)ノ

デデ: ヘロデ(シュミット)とヘロディアス(小山由美)は?

ガンバ: イマイチ。

ブチッケ: でしたニャ。

ガンバ: まずヘロデはそれこそ犬コロのように、「サロメちゅわ〜〜〜〜〜〜ん!」て小娘の尻を追っかけ回す役でしょ。その場面じゃもうちょっと徹底しないと。

デデ: 金鶏のドドン王みたいにね。

ガンバ: そう。あのヘロデが逡巡するのはほんの最後の部分だけ。そこまでは徹底してバカやってないと、芝居として面白さが半減。確かに歌はそこそこご立派だったけど、役者としてはどうかなあ???

ブチッケ: ヘロディアスは色既知外の牝鹿ってところを、無難にこなしてはいましたニャ。ただ、存在感はかなり希薄でしたが。どうかしたんだろうか。

CoCo: というわけで、サロメのベアード、それに指揮者の児玉宏、この二人がこの芝居を盛り上げてくれました。あと、些末なことだけど、ユダヤ人の教理問答というのか、言い争いというのか、あの場面は面白かったですニャ。今様のユダヤ人の服装をした連中、遊牧民のような服装をした連中なんかが入り乱れて、喧々囂々。オケもおもしろおかしく描写して、なかなか一場をもりあげてたね。

デデ: あのユダヤ人のバカさ加減て現代に通じるものがあるね。さて、トスカに行きますか。

ガンバ: これはもう、ウルウルものだったわ。装置も重厚で、二国の初演の時にもかなり話題になったわね。

ブチッケ: 指揮者のヴェロネージっていう人、初めて聞く名前ですが、なかなかオケの歌わせ方がうまかったんじゃない。

ガンバ: ちょっと演歌っぽい歌い回しのところがあったけど、全体に歌うところは歌う、テンポよく流すところはそれなりに。うまく統率していたわね。トスカってサロメと別の意味で、オケに心理描写が求められる音楽じゃない。そこらへんがなかなかよかったと思うわ。タイトルロールのトスカ(ファンティーニ)だけど、上手なソプラノね。一幕は嫉妬に狂う女。ここはなかなかよかった。普通トスカは嫉妬する女なんだけど、案外嫉妬じゃなかったりしてね。

CoCo: うん。あの祠の前で描いていたマグダラのマリアの肖像。モデルは共和派の政治犯アンジェロッティの妹ってことになっているよね。曰く、毎日熱心にお祈りに来ていたから、ゆっくり描くことができたってことになっているけど・・・

デデ: 普通はそんなことしないよなぁ。やっぱり。

ブチッケ: やっぱり。

CoCo: そう、カヴァラドッシは心変わりしていたっ!!!

デデ: 夕刊フジだニャ。

CoCo: 日刊ゲンダイと言っていただきたい。

ガンバ: 二幕は愛に狂う女。ここで「歌に生き恋いに生き」を歌うわけだけど、クライマックスになると、声がコントロールできなくなっちゃうのかなぁ。

デデ: あのきついビブラートには参りましたニャ。

CoCo: 一幕、二幕ともスカルピア(グエルフィ)が輝いていましたニャー (=^^=)ノ

ガンバ: よかったわねぇ。二幕の最初の食事の場面。まさにドンジョヴァンニのような悪党面がよかった。窓の外からカンタータの音がふっと入ってくる、あのあたり空気の広がりが感じられたわ。権力を笠に着た好色家と、窓の外の歌声。

ブチッケ: 一幕最後のテ・デウムの場面も度迫力でしたニャ。

ガンバ: そうそう。教会の礼拝堂のセットが左右に割れて、内陣が正面に現れるでしょ。豪華な装置だったわね。それに祝勝ミサにふさわしい華やいだ衣装。荘厳にテ・デウムが歌われている背後で、好色家の心情吐露。いやあ、いい男ねぇ。

CoCo: おほん。で、第二幕でじわりじわりとカヴァラドッシを痛めつけながらトスカの顔を伺う姿。

ガンバ: いい男ねぇ。

CoCo: それしかないのぉ〜。

デデ: まあ、それほどまとまったアリアを歌う役ではないですが、権力と色欲の権化をなかなかみごとに演じていましたニャ。どこかの政党の幹事長ってところですかニャー。

ブチッケ: ま、日出づるクニの幹事長はいかにも小者ですが・・・

デデ: もう一人の主役、カヴァラドッシ(ラ・スコーラ)はイマイチ影が薄かったですニャ。

ガンバ: うん、「星は光りぬ」はそつなく歌っていたんだけど、まあ、あんなものかな。それより、あの三幕の装置は立派だったわね。大道具の動きで、階上階下を上下するっていう趣向は、なかなかよかったわ。

CoCo: やっぱりプッチーニの音楽はすばらしい!

ガンバ: そう。銃殺されたカヴァラドッシがアザラシのように倒れているでしょ。それでもトスカは空砲だったと思いこんでいる。晴れて自由の身となり、チビィタベッキア経由で海外に出られるって思いこんでいるわけ。心はルンルン。カヴァラドッシが死んでいるってことを、観客は当然知っている。でも、プッチーニの音楽は軽やかに未来への希望を奏でているでしょ。

デデ: 考えようによっちゃ、かなりグロテスクな心理描写だよね。今日の指揮者はプッチーニの心理描写的な音楽をみごとに表現していたんじゃないでしょうか。

ブチッケ: ですニャ。いやあ、おバカなユダヤの王、恐怖政治と政治犯。二日続けて興味深い音楽を聴きましたです。日本の小役人の中には、第二のスカルピア候補、スカルピアになりたいちゃんがゴマンといるでしょうな。盗聴法が施行された上に、言論三法やら有事法制やら、きな臭い状況になっていますニャ。

CoCo: プルプルプル。カヴァラドッシにはなりたくないですニャー (=^^=;;

ガンバ: そうだっ。忘れてたから一言。あの寺男をやっていた築地文夫っていう人、なかなか芸達者だったわよ。


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