大連京劇団



戦冀州(せんきしゅう)

打焦賛(だしょうさん)

百花公主(ひゃっかこうしゅ)

2001年7月6日 芸術劇場 中ホール


デデ: 暑いですニャー。ふにゃふにゃらら〜 (=^^=;;

CoCo: 36度とか何とか、まだ7月の頭だっていうのにねぇ。

ガンバ: 頭がクラクラしてくるわね。ところで、今回の大連京劇団だけど、5月に人気演目の「覇王別姫」をやってそのまま、どさ回りに出たんでしょうかニャー。7月にもう一度東京に現れたら、すっかり新しい演目になって・・・

ブチッケ: そうでげすなぁ。6月の半ばからこの新しい演目に入れ替えて、地方公演をしていたみたいですニャ。

デデ: まず、「戦冀州」ですが、これは、三国志の英雄の一人、馬超(ばちょう)の話。馬超というと、張飛と1対1で戦う「戦馬超(せんばちょう)」が有名ですが、「戦冀州」の方はほとんど馬超の一人芝居。華麗な戦闘シーンこそ少ないですが、なかなか見応えのある舞台でした。冀州に陣を構える馬超が戦闘に出て城に帰ってみると、城内の将軍が寝返って妻子を人質に立てこもっている。びっくりした馬超は大げさに宙返りしてバタン。

ガンバ: 憤死したかと思いきや、家来の馬岱将軍が助け起こすと息を吹き返す。城壁の上に妻子が連れ出されて、まず、妻が殺される。ここでも大見得を切ってバタン。

ブチッケ: また馬岱が助け起こすと、嘆き節を一くさり。でも今度は息子が殺される。ここでもまた、バタン。

CoCo: また助け起こされて漢中に遁走するわけだけど、ストーリーとしてはちょっと中途半端かニャー。

ガンバ: そうね。三国志の中でも地味な演目のような気がするけど、やたらと大げさに倒れるところが、剛胆だけどちょっと怒りっぽくて、すぐ頭に血が上る馬超らしさの真骨頂ってとこかニャ? まあ、この芝居の見所は、助け起こされるたびに一くさり歌う唱(しょう、アリア)なんでしょうでねぇ。

デデ: なかなかいい声でしたニャ。恨みツラミ、それから怨念、情念・・・まあ、そういったものがない交ぜになった感情を、かなり拡大して大袈裟に、つまり外連味(けれんみ)たっぷりに表現していたんじゃないでしょうか。

ガンバ: そうなのよね。その外連というやつ、これ京劇には絶対不可欠の要素ね。

ブチッケ: さて、2つめの狂言は「打焦賛」。これは一転して女性が主役の、コミカルな演目でしたニャー。宋代の楊家将演義の中の一幕ですが、この楊家というのは代々名将を輩出した家柄。しかも女性が強い。「楊門女将」(でよかったかな?)なんて芝居もありました。

CoCo: 辺境を守る楊家の将軍孟良と焦賛。孟良が楊家の小間使い楊排風(この女もやはり楊家の一族)を連れて陣に戻ってくると、焦賛は「かまど番の小娘を戦場に連れてきて何になるんだ」と怒り出すわけですニャー。まあ、王子様と出会う前のシンデレラといったところでしょうか。ところがこの小娘、なかなかのやり手。

ブチッケ: それを知らない焦賛は、排風と手合わせして負けたら謝ってやるという申し出に簡単に乗ってしまうわけですニャ。

ガンバ: 排風が自分の武芸を売り込むところの、歌とも語りともとれるようなセリフ回しがリズミカルで面白かったね。

デデ: 京劇でああいう節回しは初めて聞いたかなぁ。ちょっと引用してみると、
排風決して口だけじゃない

戦に出るが

槍も持たなきゃ刀も持たぬ

すべてこの火かき棒一本で戦う

軍馬にまたがり進めば

敵もひと目で震え上がる

拳は南山の豹をうち負かし

足は北海のみずちを蹴り飛ばす

・・・
いや、なかなかの女傑です。で、この語りが4・3調とでも言ったらよいでしょうか? どの節も、中国語の4音節+3音節でできていて、とてもリズミカルなんですニャ。おちゃめな小娘風という感じ。

ガンバ: 焦賛との戦いぶりにも、こんなおちゃめな娘の雰囲気がよく出ていたわよね。焦賛の棒をきちっと受け止めているのに、さも当たったかのように痛がって見せたり、相手が後ろを向いていると、客席に向かって「痛くも痒くもないのよぉ」って仕草を見せて、焦賛が振り返ると大袈裟に痛がって見せたり。でも、結局は排風の方が断然強いのよねぇ。で、負けた焦賛が跪いて排風に謝って一件落着。排風はめでたく女将軍として迎え入れられるという結末。

ブチッケ: いやあ、恐るべし、中国女性。排風を演じた王立華という人は、まだ若い女優さんだそうですが、コミカルな演技が冴えていましたニャ。これからが楽しみ。

デデ: 後半の「百花公主」も女性が主人公でしたニャ。時代は元代といいますから、最初の三国志から下ること千年余り。安西国(あんせいこく)とか、曼陀国(まんだこく)とか、(朝廷からみれば)辺境の異民族のお話。まあ、元という国(モンゴル人の国)自体、漢民族からすれば、異民族なんでしょうが。

ガンバ: 衣装や隈取りの色合いも、三国志や楊家将といった漢民族の話とはちょっと違っていたわねぇ。オレンジ色の顔とか、真っ赤なズボンとか。あそこらへんで異国情緒を出していたのかなぁ?

CoCo: 安西国の総監、巴顔(ばいぇん)と巴拉(ばら)は、密かに曼陀国と通じて王位を狙っている。元の朝廷は事情を調査させるために、海俊を密偵として安西国に送り込むんだけど、途中で安西国の国王を刺客から守るといった働きをして、安西国の副将軍に任ぜられてしまうんですニャー。で、腹の虫が収まらないのが巴顔と巴拉。海俊をしこたま酔わせて、王女百花の寝室に運び込んでしまう。とまあ、ここからがこの狂言の本題。王女の寝室に無断で入った者は斬首という掟があるわけですが、なんと、武芸に秀で、安西国の元帥でもある王女はなんと、この酔っぱらいに一目惚れ。愛の契りを交わしてしまうわけですニャー。

ブチッケ: またまた、思い通りに事が運ばないことに業を煮やした巴顔は裏で密かに曼陀国と結びつつ、王女百花に出兵を促す。海俊はこの罠を見破って、出兵を控えるように説得するけど、結局、この女元帥は出兵してしまう。その間に父王は殺され、城も奪われてしまう。百花も大苦戦。

デデ: この戦闘シーンはなかなか見応えがありましたニャー。主演の李萍は、5月の公演ではいわば、「男につくす女」虞美人を演じていましたが、今回は一転して武闘派の役柄をみごとにこなしていましたニャ。

ガンバ: もともと、この李萍という女優さん、「白蛇伝」の白素貞なんかも得意にしている人でしょ。ここでも立ち回りというか、曲芸(中国では雑伎っていうのかな?)のような演技はすごかったわねぇ。

CoCo: 背中には4本の旗さしもの。その上に綸子(りんず)をつけて、凛々しかったですニャー。自ら槍を振り回し、敵の槍は、足、肩、旗竿まで使ってはね返す。孤軍奮闘状態のところに、恋人をさんざん探し回った海俊がやっと駆けつけてくる。ここらへん、立ち回りが一区切りつくと、唱を歌って、また立ち回り。よくまあ、あれだけ動いて、声が出ますニャー。しかもこの唱が絶品。京劇の日本公演で、唱のところで盛大な拍手喝采が出るってのは、めったにないことだよね。

ガンバ: 主演の李萍に比べちゃ酷かもしれないけど、海俊役の平涛っていう俳優さん、完全にファルセットで歌うんだけど、ちょっと苦しそうだったかなぁ。特に百花と二重唱になると、裏声の出がちょっと遅れてしまうんだなぁ。かなり苦しそうだった。

デデ: そうね。セリフの部分もほとんどファルセットだったし、ちょいと苦しい役柄かもしれないですニャー。ところで、せっかく駆けつけた海俊ですが、巴拉に背後から斬られてしまいます。で、これを見て怒り狂ったのが百花。ここからの立ち回りの迫力といったら。

ガンバ: 巴拉を刺し殺すところなんか、鬼気迫るものがあったわねぇ。相手の胸に剣を刺して、さらに、グリグリグリ、これでもかって感じで刺し殺す仕草には、怨念がこもっていました。

ブチッケ: そして最後。虞美人と同じで自害して果てるわけですが、自らの首に剣を当てて、押しつけた瞬間に、それまでのほの暗いブルーの照明が、一瞬明るいオレンジ色に変わって、なかなか効果的じゃなかったですか。

ガンバ: うんうん、あそこで幕切れになるからストップモーションで、そのまま緞帳が下がるタイミングまでみごとだったわ。

ブチッケ: ただ、この百花公主、ちょっとPAが強すぎなかった?

デデ: ああ、それは言えてる。あんまりマイクに頼りすぎて、「3バカ・テナー」並に成り下がっちゃ困りますニャー。ま、とにもかくにも、なかなか見応えのある公演でございましたニャ (=^^=)ノ


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