デュメイの弾くベートーヴェンのコンチェルト

<読響名曲シリーズ>

ベートーヴェン:ヴァイオリン・コンチェルト、交響曲第7番

ヴァイオリン:オーギュスタン・デュメイ
指揮:オッコ・カム

2000年6月17日 サントリー


(この数日暑い日が続きましたが、今日は一転して梅雨空が戻ってきました。気温もぐっと下がってしのぎやすい一日。終演後、ビヤホール「おいらん」にて。いや、訂正、「ライオン」にて。)

デデ いつもはピリスと一緒に来日するデュメイですが、今回は単身でコンチェルト中心の演奏ですニャ。今日がベートーヴェン、来週がチャイコフスキーです。

ガンバ: そうなのよねぇ。ピリスとのあの繊細なデュオが聞きたかったのに。ちょっと残念ね。さて、今日のベートーヴェンだけど、私はちょいと疲れたニャー。

CoCo: なかなか密度の濃い演奏でした。いわゆる「傑作の森」といわれる時代の作品でしょ。単なるヴィルトーゾ・コンチェルトじゃないってのが、よくわかった。第1楽章の速度指定がアレグル・マ・ノン・トロッポ。これって、「速く」って考えるのか、「ぼちぼち行きましょ」と考えるのかで、ずいぶん演奏も違って来るんだと思うんだ。

ブチッケ: 今日の演奏はまさに、「ぼちぼち行きましょ」っていうテンポでごさんしたニャ。これはたぶんデュメイのテンポなんでしょうねぇ。あのブラームスのソナタなんかで聞かせてくれたような。

デデ そうそう、ブラームスの音楽ってぇのも、音の流れだけを聞いていると、速い曲なのか、遅い曲なのかわからなくなることがあるけど、今日のベートーヴェンもまさにその感じ。音を出してはじっくりと考え込むっていうような演奏だった。だから、オーケストラとの絡み具合も通常の颯爽としたスタイルとは一味も二味も違って。ヴァイオリン独奏付きの巨大なシンフォニーを聴いたような気分でした。

CoCo: そこなのよぉ。指揮者のカムも単に伴奏を振っているという行き方じゃなくて、この曲のシンフォニックな作りをすごく細やかに描き出していたと思うよ。

ブチッケ: そう、シンフォニックであると同時に、室内楽的な繊細さも表現していました。凡庸な演奏でヴァイオリンのメロディーだけを聞いていると、ただ音階を上がったり下がったりで、なんともなぁって気がする曲なんですが、今日のような演奏で聞くと、こりゃあすごい曲だって思いますニャ。ヴァイオリンのパートだけじゃなくて、オケの中でもいろんな絡み合いがあって、それらが、細部まで見通しよく描かれていました。

ガンバ: あたしゃ、眠かったよ。第1楽章は。

デデ 雨というコンディションもあったんでしょうが、デュメイも出だしはちょっと神経質だったかニャー。オーケストラのながーい提示部では、ちょっと待ちきれないっていう様子で、第2主題あたりから、オケと一緒に弾き続けて、楽器を馴らしていたような感じがしたんだけど。でも、最初にソロが出てくるところでは、「オヤッ」って思った。どうも鳴りが悪い。ちょっと音も決まっていない。

CoCo: でもだんだん鳴ってきて、展開部あたりからはかなりいい調子でしたニャー。室内楽的な濃密な歌い口というのか、単にソロをバリバリっと弾いて「ハイヨッ」ってオケに渡すんじゃなくて、たとえて言えば、弦楽四重奏のような歌い回しと、受け渡し。ここらへんは、並のソリストじゃできない技ですニャ。カデンツァの後、オケが入ってくるところなんかゾクゾクしましたニャー。歌うといっても、ビロビロ、ねっとり歌うんじゃないよね。

デデ そうそう。歌いきらないというのか、頂点への持って行き方がちょっと違うんだよね。音階を駆け上がって、普通なら最高音のところで目一杯弾ききるんだろうけど、デュメイは最高音を頂点にしないで、そのあと2オクターブ下がってG線の音をたっぷり聞かせる。

ブチッケ: あそこらへんは憎いねっ。第2楽章の歌い回しもよかったですニャ。抑制の利いた歌ですニャ。決して大げさな、あるいは大時代な見栄は切らないんだけど、でも結果的にはすごくスケールの大きな音楽なんだな。

ガンバ: アタッカで第3楽章に入るでしょ、その直前でロンド主題をひねり出そうとして、ベートーヴェンお得意のメロディのコネ回しをするでしょ。まるでうどん粉を練っているみたいに。あそこはかなり思い入れたっぷりに弾いてみせて、でも嫌みに感じられないのはさすが。それから、ロンド主題が最初G線で出てきて、そのあと2オクターブ上がって繰り返されるでしょ。あの高音の透き通った音色がよかったねぇ。

デデ あの高音のメロディーは下手な演奏だと、安っぽくなっちゃいますニャ。カムの指揮もなかなか冴えわたって、デュメイと対等に渡り合っていたと思います。ただ、カムが北欧人にしては背が低くて、30センチぐらいの指揮台の上にいても、デュメイとほぼ同じ目線でしたニャ。

ガンバ: 下手な指揮者だと、デュメイに睨み付けられてシュンとしてくるんですが、今日のカムはデュメイの音楽をホントによく汲み取って、オーケストラをコントロールしていました。それに、何年ぶりかで聞いた読響も、ずいぶんうまくなったねぇ。

デデ 後半は同じくベートーヴェンの交響曲第7番。今ガンバが言ったように、読響がなかなかよくやっていた思いますが。どうでしょう。

CoCo: うん、よかったね。弦がみごとに揃って、特にチェロバスの音がよく出ていました。不滅のアレグレットでしたっけ、あれなんざぁ、ちょっと今までにない演奏でしたニャ。あの楽章って、かなり小難しい対位法を使っているでしょ。弦がモコモコしているとかなり見通しが悪くなっちゃうんだけど、今日の演奏は透明感があって、各声部の構成が手に取るようにわかりました。

ガンバ: そうなのよ。今 CoCoが言ったように、チェロバスがしっかりと鳴っていたから、ちょうどバッハのフーガを聴くみたいに各バート絡み合いがはっきり聞き取れたのね。

デデ 第3楽章の最後、トリオの主題が2小節だけ戻ってきて、それを否定して、アタッカで第4楽章に入ります。たった5つの音なんだけど、あの否定のフレーズ、アッチェレランドしてそのまま4楽章に入るのか、それとも、ペザンテで演奏するのかで、これほどイメージが変わるとは思いませんでした。今日のカムの指揮ように、ペザンテにすると、「うん、終わったんだな」という気持ちをしっかり確かめてから、フィナーレを迎えることができますニャ。

ブチッケ: うん、あれは説得力がありました。さて、4楽章は飛ばしましたニャー。あの、クライバーのようなテンポ感ですニャ。でも読響もよくついていきましたねぇ。しかもかなり歯切れよく、全体像もすっきりとして、しかも各楽器のバランスもすばらしかった。ちょっとドイツのうまいオケのような感じもしましたです。ただ、やはり、管楽器はあのテンポはちょっと苦しいかなぁ。

デデ ですね。ただ、弦楽器は大健闘だったんじゃないでしょうか。ここでもブ〜〜ン、ブ〜〜ン、ブ〜〜ンと、チェロバスがよく鳴っていました。ちょっとウィーンフィルを彷彿とさせるような・・・

ガンバ: そりゃほめ過ぎよ。確かによかったけど。やっぱりヨーロッパの名門といわれるオケのすごさは、個人の音楽性なのよぉ。指揮者と同じくらい口うるさい楽員が100人いて、それが「一体ドンナ音楽をするんじゃい」って気持ちで指揮者と対峙している。そういう緊張感から、スリリングな演奏が生まれるんだと思うんだ。

CoCo: 確かに。クライバーの演奏を聴いていると、「オレはあんまりこんな弾き方は好きじゃねえべ。だいたいウィーンのスタイルっちゅうものを、この指揮者はわかってねぇんじゃねえか」とかナントカ、コンマスがブツクサ言っているような気がするんですニャー。だけど、弾き進んでいくうちに、いつの間にか乗せられてしまう。ハメられてしまう。一家言持った連中が一生懸命になってくる。4楽章の最後のところなんか、さしものウィーンフィルの弦ももうちょっとで、脳梗塞ってところまで行っちゃいますニャー。

デデ そうそう、今日のは、そういう意味でのスリリングな演奏じゃなかったけど、それでも透明感のある、合奏能力の高さを聞かせてくれたんじゃないでしょうか。さて、来週の土曜(24日)は、やはりデュメイのソロで、チャイコフスキーのコンチェルト。それに、オッコ・カムお得意のシベリウス2番。

ガンバ: 楽しみね。



デュメイの弾くチャイコフスキーのコンチェルト

<読響定期演奏会>

チャイコフスキー:ヴァイオリン・コンチェルト
シベリウス:交響曲第2番

ヴァイオリン:オーギュスタン・デュメイ
指揮:オッコ・カム

2000年6月24日 サントリー

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(デュメイ寝冷えのため---たぶん)

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