テレマン協会

チェンバロ協奏曲の夕べ 大バッハの後に・・・
  
バルバトル/チェンバロソナタ(ヴァイオリン2本、ホルン2本付き)
ベンダ/チェンバロ協奏曲 ト長調
ガルッピ/チェンバロ協奏曲 ヘ長調
ハイドン/チェンバロ協奏曲 ニ長調

チェンバロ・指揮/ 中野振一郎 2000年1月24日 上野小H


(1月にしてはちょいとなま暖かい夕べ。演奏会の後、蓬莱閣にて語らふ猫ども)

デデ: 久しぶりにテレマンアンサンブルの定期演奏会でしたニャー。

ガンバ: はいな。今日は中野振一郎が、チェンバロのコンチェルトばっかり4曲弾くというわけで、これはもう聞かないわけにはいきません。

ブチッケ: まずバルバトルのソナタですが、一応伴奏というのか、アンサンブルというのか、ヴァイオリンとホルンが入った曲でしたニャー。

デデ: うん、何のために伴奏が付いているのかちょいと、まあ、あまり、意味がわからない曲ではありますが、最初の1曲目ということで、アンサンブルの精度がイマイチだったもんで、チェンバロの音だけを拾い出して聞いておりました。

CoCo: そうそう。おいらもそうだった。ギンギラギンのロココ風ソナタと言ったらいいのかなぁ。バルバトルの曲って、音が薄い割にはけっこう豪勢に響くよね。フレンチスタイルの楽器ということもあったけど、それなりに楽しめました。やっぱり中野振一郎って、このあたりの何ていうのか、もうちょいでギロチンが大活躍する、断末魔ロココ付近の曲が大好きなようですニャー。

ガンバ: 第2楽章の田園風な響きって、昔からある作りだけど、バルバトルになるとパンやニンフの世界じゃなくて、どこかそこら辺の麦畑の雰囲気になっちゃいますニャ。きれいなんだけど。

デデ: バックの問題もありますニャ。さて2曲目のベンダになるとこれはもう、本当に中野振一郎の世界にどっぷりと浸かった演奏でした。あの生き生きとした躍動感、小粋な装飾と、テンポの揺らせ方。それはもう水を得た魚といった感じ。

CoCo: うんうん。そこなのよぉ。ベンダってぇのはチェコの出身で、C.P.E. バッハやクヴァンツと同じ頃に、親子でプロイセンの宮廷にいた人ですニャ。音楽はもう半分は古典派に足を突っ込んでいる。まあ、当然と言えば当然。旅の空にあった天才少年は、もうそろそろロンドンでクリスチャン・バッハと出会って、最初のピアノ協奏曲を書いていた頃ですニャ。

ガンバ: 両端楽章の爽快なテンポ感はよかったわね。この曲あたりからバックのオケも鳴りだして、チェンバロと渡り合うシーンもあったけど。でも、互角にはならないのがちょっと残念ねぇ。気持ちはわかっているみたいだけど、いかんせん中野振一郎と互角に渡り合える弦楽器奏者っていうのは、なかなか日本にはいないのかもしれない。3曲目のガルッピになると、そこらへんがもうちょっと薄まってきたというのか、室内楽というよりは、完全にコンチェルトの様式になった曲だわね。

ブチッケ: そうそう、ここまで来ると、ソロとバックという形式感が完全にできあがっています。楽章の終わり近くになると5度の和音上で偽終止して、いわゆるカデンツァが入りますニャ。

デデ: 第2楽章だったか、第3楽章だったか、カデンツァの部分でひとしきり技巧的なパッセージを扱って、最後はトリルで盛り上げてオーケストラに渡すかなっと思いきや、短調の和音に転調して、ちょいとずっこけるところがありましたニャ。あそこらへんは、作曲家のお遊びでしょうか。面白い一瞬でした。しかし、ガルッピってぇのは、ソナタと違ってコンチェルトはものすごく技巧的ですねぇ。ソナタの方はというと、右手は情緒たっぷりの旋律を歌いながら、左手はドソミソの繰り返しみたいだけど。

ブチッケ: モーツァルトもソナタとコンチェルトじゃ技巧的な仕上がりが全然違います。

ガンバ: うんうん。そこなのね。素人向けの小品と、ヴィルトーゾ・コンチェルトは違うんだぞっていうのを意識して作っている感じがするわ。

デデ: 最後はお待ちかね。ハイドンのコンチェルト。これはハンガリー出身のアンタル・ドラティと奥さんの名演を聞いたことがあるんですが、やはりピアノで弾くのとではひと味も、ふた味も違いますニャー。やっぱりピアノでモダンのオケだと、どうしてもきれい事に流れますか?

CoCo: どうだろう。おいらはピアノで弾いても悪くはないと思うけど。ただ、ピアノだと情緒過多になる危険がありますニャ。

デデ: そうそう、ベルリンの多感様式だとか、ハイドンの表現主義だとか、お題目は結構ですが、その真の意味を、残された楽譜と当時の楽器から汲み取れば、ロマン派的なものとはおよそ対極にある作品だということは明らかですニャー。

ガンバ: そう、そこなのよぉ。チェンバロで弾くと本当に、楽器の表現の豊かさに気付かされるわけね。cresc.やdim.ができない、音量が小さいといった点がむしろ表現の可能性を広げている。そんな気さえしたわ。下鍵盤と上鍵盤の音色の差だけでも、これだけ派手なコンチェルトを弾くのに十分すぎるほどのコントラストを出せるってことね。

ブチッケ: それにしても、最後のハンガアン・ロンドは盛り上がりましたニャー。チェンバロじゃなくて、まるでツィンバロンのように、デーハーに賑々しく鳴っていましたねぇ。あれで、管楽器がもうちょい魅力的だったら、言うことないんでげすが・・・

ガンバ: さっきも言ったけど、もうちょっと弦も管も自発性が出てくれば、もっと楽しくなるのにねぇ。以前は指揮者が別に振っていたような記憶があるけど、今日は中野振一郎が弾きながら指揮もしていたわね。まあ、この方が、音楽のノリはずっといいんだけど、それでももう一層の自発性と、それにアンサンブルの精度が欲しいところね。ちょっと荒いわね。バックの人たちもたぶん感じてはいるんだと思うの。

デデ: そこらへんはどうかなあ。中野振一郎と対等に渡り合えるメンバーが欲しいですニャー。さてさて、今日の演奏会の曲目、めったに聞くことができないものが多かったですが、それでも駄作じゃない。いや、むしろガルッピやベンダなど、かなりの名作じゃないかっていう気さえします。中野振一郎にすれば、演奏会の新しいレパートリーを開拓する楽しみもあるんでしょうね。

ガンバ: それは聞く方にとってもありがたいことね。



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