グローブ座の音楽家たち

<シェイクスピアの音楽>
シェイクスピアの戯曲からとった歌詞に、エリザベス1世と
ジェイムズ1世の時代の劇場で奏でられた音楽をつけて


ミュジシャンズ・オヴ・ザ・グローブ(グローブ座の音楽家たち)
フィリップ・ピケット(バンマス、リコーダー)様御一行
ソプラノ:ジョアン・ラン
道化:ジョン・バランジャー

2000年7月5日 カザルスホール


(この頃、毎日のように午後から雷が鳴りだしてスコールが来ます。今日も用心して傘を持って出たんですが、ちょっとパラついただけで、なんとか天気は持ってくれたようで)

デデ: イェーイ。

ブチッケ: ピューピュー。

CoCo: ニャーニャー。

ガンバ: ん?

ブチッケ: いやまあ、何と申しましょうか、ピケットのところはいつ聞いてもノリがよろしいですニャ。

ガンバ: そうそう、いつかのカルミナ・ブラーナのときも盛り上がったよね。

デデ: あれはまあ、曲が曲ですからニャ。え〜と、今日はいつものニュー・ロンドン・コンソートじゃなくて、グローブ座の座付きの楽隊ということでしたが、なかなかよくまとまっていたんじゃない。

ブチッケ: そこですがニャ。イギリスの古楽団体というと、何かこう、押し出しが弱いというのか、個性がイマイチ前に出てこないところばかりでげすな。うまくまとめるんだけど、音楽の楽しさが感じられない。そんな中で、ほとんど唯一、ピケットのところだけは生き生きとした音楽をやっていますニャ。

CoCo: そう、そこそこ。

デデ: どっか、かゆいの?

CoCo: そうじゃなくって、ピケットの音楽だったら大陸でも通用するかなっていう話。

ガンバ: ああ、そうね。

デデ: さてさて、今日は開演前から道化のジョン・バランジャーがロビーをうろうろ。イタチ(?)のぬいぐるみを使って、お得意のおとぼけを披露していましたニャ。これもなかなか達者な芸なんですが、本番のステージでも随所に登場して、一人芸を繰り広げる。これ、なかなか決まっていたんじゃないですか。

ガンバ: あのイタチ君、食べたあげたいくらいかわいかったぁ。

デデ: おいおい。実は昨日NHKの収録を見てきたんですが、テレビ用のセッティングということもあって、ちょっと音楽とかみ合っていないのかなって気もしたんですけど、今日はピッタリはまっていました。曲の合間にステージ中央にしゃしゃり出てきては、客のご機嫌を伺う。それが次の音楽へと自然に流れ込むきっかけとなって、演奏も白熱。ただ、イギリスの道化がコメディア・デラルテの仮面を付けているというのは、ちょっと奇怪ではありますが、雰囲気を盛り上げるという意味では面白かったのかな。

ブチッケ: そうでげすな。いくつかの仮面を取り替え、そしてついには素顔になる。人間は裸の猫に過ぎないと・・・いや、人間は裸の動物にほかならないという、リア王の寓意でしょうか。

デデ: さて一曲目は器楽で『ストロベリーの葉』。続いて『お気に召すまま』から一曲。モーリーの作ということですが、民謡風の韻律が美しいさわやかな曲。4節全部に同じルフランがついていて、ここの母音の響きがとってもきれいでしたニャ。

ガンバ: ジョアン・ランという若いソプラノがすばらしかったわねぇ。一転して、次のオフィーリアの悲しみの歌はしっとりと聞かせてくれて。

CoCo: ですニャ。そのあとコンソート・ミュージックが2曲。ここで、楽隊の面々の技量がつまびらかにされたわけですが、どうでしょうニャー? まずヴァイオリンのエイドリアン・チャンドラーというお兄さん。この人はずいぶんとしゃしゃり出て来るんですが、イマイチ引き際を知らないというのか、リュートが素敵なディミニューションを弾いている時にも、前面に飛び出してきてしまう。ここらへんがちょっとアンサンブルとしては素人っぽいかなって気がしたんですが。

デデ: はいな。でもなかなか切れ味のあるヴァイオリンでした。リュートのお兄さん(ジェイコブ・ヘリングマン)は、すごく指の回る弾き手ですけど、ヴァイオリンとは逆にちょっと後ろに引っ込んでしまうタイプでしたニャ。リュートっていう楽器は、コンソートの場合一晩に3つか4つ、とっておきの美音を響かせてくれれば、ものすごく印象に残るんですが、そこらへんが現在のイギリスのリュート弾きはちょっと技量不足なのかなぁ。

CoCo: 楽隊はこのほかに、え〜と、シターン、パンドーラの撥弦楽器、それにガンバが加わって、俗に言うガンバ・ソング、リュート・ソングのセッティングをちょいと拡大した形だったでしょうか。なかなか贅沢な響きを出していたと思いますニャ。

ガンバ: それにピケットのリコーダーも入っていたでしょ?

CoCo: あ、そうだ。忘れてた。

ガンバ: ピケットってのは、まあ、たぶんリコーダーは専門的に勉強したわけじゃないんでしょうし、演奏家としてはちょっとニャーって感じですが、オーガナイザーとしては、イギリスでずば抜けているわね。

デデ: そうですニャー。turuturu, tukutuku, deredere, dorodoro・・・ん? まあ、細かいこと言い出すときりがないんだけど、リコーダーの命、タンギングがかなり雑だよね。楽器の演奏に関してかなり素人っぽいんだけど、ガンバ・ソング、リュート・ソングってもの自体、当時の家庭で素人が演奏したものだから、素人っぽさっていうのも一つの味わいになっているのかな。ちょっと逆説的ですが。

ブチッケ: これに続いて『嵐』から2曲。「5尋の深い海底に」と「蜂が蜜を吸うところで」。どちらも比較的よく歌われる歌だと思うんだけど、ランの美声を堪能できましたな。特に「5尋」のルフランで、弔いの鐘を模して「ディーン、ドーン・・・」と歌うあたり、母音の響きがきれいでしたニャー。

ガンバ: そうそう、そこなのよぉ。アとオとイはそれぞれ異なる響きを持っていて、それぞれが言語的な意味だけじゃなくて、音楽的な意味を持っている、そんなことをよくわからせてくれる歌い方だったよね。もう15年ぐらい前かなあ、カークビーの全盛期を彷彿とさせるような清らかな歌声。今のオペラ歌手のように、トランペットみたいな歌い方をしたんじゃ絶対に味わえない、繊細でしかも豪華な響きだわね。

CoCo: ストレートに伸びる母音の心地よさっていうのは、確かにオペラ歌手はまったく捨てちゃっているね。この前のカナダのアンサンブル・オペラも、もうちょっと繊細な歌い方ができる歌手を連れてくればよかったのにね。

デデ: さて、前半のハイライトはやはり・・・

ガンバ: 「柳の歌」!

デデ: ですニャ。

ガンバ: これはカークビーの絶唱があったけど、今日のランはもう、なんというのか、うら若きデズデモーナの悲嘆を、清らかな声で余すところなく歌い尽くしていたわ。

デデ: カークビーほど頑なにビブラートを拒まないですね。基本的にストレートなんだけど、ここぞというところで、音の最後にちょこっとビブラートを入れる。あれが、ゾクゾクっと来ましたニャ。

CoCo: 「♪うぃろー、うぃろー、うぃろー、うぃ〜ろ〜〜♪」 のところでしょ。おいらなんざぁ、気分はすっかり名古屋じゃけん。

デデ: それは違うって。「うぃろー」に続いて、前半の最後が「ワトキンズおばさんのエール」。まあ、艶笑小唄ですニャ。まったく雰囲気の違う曲をなかなかみごとに歌いわけたと思いますが。

ブチッケ: そうねぇ。でもああいうのはちょっとまだ、経験がねぇ。

ガンバ: ったく。おぢさんなんだからぁ。

デデ: ところで、後半はシェイクスピアの芝居がらみの曲はなくて、全部同時代のリュートソングといったらいいんでしょうか、それから、モーリーのコンソートがいくつか演奏されました。合奏曲では先のヴァイオリンのお兄さんと、リュートのお兄さんがなかなか冴えていましたニャ。ピケット氏はこういう曲になるとちょっと手に負えないから、ひたすらグラウンドのテーマを鳴らしているってな役回りだったでしょうか。ところで、後半もやはりハイライトはランの歌。

ガンバ: 「ダフネ」ね。

デデ: かの有名なアノニマス氏の作ですが、今ではどちらかというと、オリジナルの歌よりは、ファン・エイクの「笛の楽園」のほうで知られていますニャ。『前日島』の中でも、繰り返しダフネのテーマが現れて・・・

CoCo: そりゃ、ちょっと別の話じゃないか?

ガンバ: キューピッドの黄金の矢を「はあと」に受けたフォイボス・アポロンはダフネに首っ丈。鉛の矢を受けた妖精のダフネは男に無関心というお話でしょ。

デデ: そうそう。最後は月桂樹にヘンシーン!

ガンバ: アポロンの竪琴っていうくらいの音楽の神様だから、それ以来現在に至るまで、ハープの頭には月桂樹の彫り物がしてあるっていうわけね。

CoCo: それに「桂冠詩人」の謂れ因縁でもありますニャ。

デデ: まあその〜、つれない女を演じて、ランはなかなかの演技派というところも見せたんじゃないでしょうか。

ガンバ: この曲って、ダフネとアポロンの二役を一人で演じわけなきゃならないでしょ。そこらへん、日本の落語みたいで、顔の向きで役どころを決めていたみたいなんだけど、もうちょっと声の変化があってもよかったかなぁ。

ブチッケ: それは言えますニャ。ストレートによく伸びる声だから、それだけでも楽しめちゃうわけですが、もうちょっと役柄の演じわけができたら、もっと面白くなったでしょうね。でも、まだ20代半ばぐらいの歌手だから、これから先が楽しみですニャ。

デデ: キャリアの始めを古楽の世界でスタートする歌手がどんどん増えてくるといいですね。最初にちょっと売れて、すぐに才能を枯らしてしまう人も多いですが。この人には自分の持っている才能を大事に伸ばしていって欲しいですねぇ。

ガンバ: それにしても、20数年前に古楽の世界を始めた歌手たちって、やっぱりすごかったわね。金銭的にも恵まれなかっただろうし、だいたい先生ってものが存在しなかったんだから。全部一から始めて、あれだけのテクニックと音楽性を身につけていったわけでしょ。

CoCo: 今回はイギリスの家庭音楽を歌ったわけですが、これからですね。オペラ、特にモンテヴェルディは避けて通れないですからねぇ。

デデ: うん、そこで真価が問われますニャ。いや、それにしても、1曲5分前後の歌とは言え、一晩に13曲歌うっていうのは、こりゃもう、立派なリサイタルでしたニャー。

ブチッケ: それと、ピケットのところはどうしても、キャサリン・ボットの力強い歌声のイメージが強かったけど、これで、もう一人可憐な歌姫が誕生したってことになるのかな?



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