バッハ/ロ短調ミサ曲

ブリュッヘン指揮、18世紀オーケストラ
グルベンキアン合唱団
マリア・クリスティーナ・キール(sop)、クラウディア・シューベルト(alt)
マルセル・ビークマン(ten)、デェットレフ・ロート(bass)

2000年2月1日 池袋芸術劇場


(またちょこっとだけ、冬らしくなってきたんでしょうか。猫どもは餃子を喰らひつつ、老酒を飲んでおります。終演後、和風中華“東仙坊”にて。)

ブチッケ: 今年はバッハのご成婚250年だそうで。

CoCo: ん? お入学250年じゃないの?

デデ: 違います。生誕315年の記念の年! というわけで、極東のジパング国ではさまざまなイベントが企画されているようです。

ガンバ: ふ〜ん、そ〜なんだぁ。まあ、何の記念か知らないけど、音楽会をいろいろやってくれるのはいいわね。ちょこっと便乗して、今日はみんなで「ロ短調ミサ」を聞きに行ったというわけかしら。ブリュッヘンという人はあまりにもリコーダー奏者としての演奏がすごすぎて、指揮者としてはイマイチ ピンとこないんだけど。

デデ: ですねぇ。でも、ブリュッヘンのリコーダーを聞いたのはもう20年ぐらい前じゃない? 確かにすごかったねぇ。

ブチッケ: これこれ、今日はリコーダーの話じゃござんせん。バッハでござんすよ。ロ短調といえば、宗教音楽の金字塔・・・それほどでもない・・・か? まあ、全体が他の曲からのパクリでできあがっているわけですし、だいたいバッハはルター派で、カトリックのミサとは縁もゆかりもありゃしない人だし、それにバッハの就職活動の産物といった経緯からすると、金字塔というのには当たりませんが、まあ、すばらしい作品であることには変わりない。

デデ: ですニャー。マタイやヨハネに比べると、ミサ曲ですからもちろん劇的な起伏はわずかしかありません。それに歌手のソロを聴かせる部分も少なくて、全体的には巨大な合唱作品と考えた方がいいでしょう。相対的にソロ歌手の比重は低くなりますが、今日の歌手はちょっとねぇ。

ガンバ: うん。かろうじてソプラノのキールが、ひとり気を吐いていたといった感じかニャー。他はみんな若手だったし、もう一人のソプラノは病気で急遽合唱団から代役が立ったりして、ちょっと寂しい感じがしたわね。若手なのになんだか縮こまった歌い方で・・・もっと溌剌とした生きのいい音楽が聞きたかったんだけどニャー。

CoCo: 歌手が縮こまってしまったというのも、問題はブリュッヘンの指揮にありますニャ。現在、古楽器で普通にやる演奏からするとかなり大規模な編成で、1stヴァイオリンが6人、チェロが4人、ベースが3人。合唱も全部で28人。この大きさになるといかにソリストでも、自分の音楽を主張するのはかなり難しいです。

ガンバ: そうねぇ。全体に弦の音が勝って聞こえるモダンのオケにかなり近かったかしら。18世紀オケがグロッサの専属ということもあって、社長(エミリオ・モレノ)が若松夏美の隣でヴィオラを弾いていたりして・・・けっこう気配りした結果、人数が増えたのかしら。でも、18世紀オケって、ああいった響きだから、「リヒター命」ってな人でもすんなり入ってこられて、興行的に、そして、CDの売り上げの点でもそこそこの成功になっているんじゃない。

ブチッケ: ああ、それは確かですニャー。各人がどんどん出張ってくるような、室内楽的なアンサンブルをするところだと、その手の人たちにはとても聞けないでしょうからね。

デデ: いや。その、大編成で壮麗に歌い上げるのもそれなりにいいんですけど・・・今日の合唱、ちょっと重くなかったぁ? 古いタイプとは言っても、ブリュッヘンはかなり古楽に造詣がある人だし、部分的にはすごく大胆なテンポの設定をしていたんだけど、如何せん、合唱の機動力がイマイチだったかなぁ。まあ、冒頭のキリエは、リヒターほどじゃないけど、かなり荘重に歌い上げていたでしょ。それがグローリアになって動きが出てくると、ちょっとブリュッヘンのテンポに合唱が乗り切れていないというのか、あるいは、リハーサルとちょっと違ったことをやろうとしていたのか・・・

ガンバ: でもニカイア信経になって、ちょっと調子が出てきた感じがしたわ。

デデ: うん。でも、クレドの最初って、バッハの場合あまり重々しい曲じゃないと思うんだけど。言ってみれば、天草の隠れキリシタンが、「実はおいらも耶蘇を信じとるとよ」ってな感じで、ボソボソっと信仰を告白する雰囲気なのに、けっこうアメリカのゲイの集会みたいに、堂々とカミングアウトしちゃってましたニャー。

ブチッケ: それから、この曲でたぶん唯一劇的な場面と言うと、同じくニカイア信経の「ゴルゴタの道行き」から次の「三日目に蘇り」の部分だと思うんですがニャー。あそこのところ、道行きはすごくボソボソっとした音楽で、いかにもキリストの苦行を表していますニャ。そこが、なんとも歌いすぎというか、ねっとりとやりすぎていたんじゃなかろうか。ブツブツとかみ合わない合唱が一つの魅力のはずなのに。ここがちょっと白けちゃったから、次の吹き上がるような合唱がいかにもとってつけたように聞こえて。

ガンバ: そうねぇ。あそこはちょっと興ざめだったわね。うん、有名な蘇りの合唱はものすごいテンポで、そんなに急いでどこに行くって気がしたわ。

CoCo: 一転して、オザンナから最後のアニュスデイあたりはやけに壮麗に歌い上げたりして、あそこらへんはちょっと大時代な匂いがしました。クンクン。

デデ: 全体に聞き易く仕上がった演奏だったとは思うんですが、どうもイマイチ指揮者の意図というものが不明な演奏でした。雰囲気はうまく作っているんだけど、指揮者が感じているものが聞き手には伝わってこない。あるいはマニエリスムの極致なのかもしれません。やっぱり、おいらはもうちょっと自己主張のある演奏の方が聞いていて面白いというのか、良くも悪くも音楽を聞いたという感慨には浸れそうな気がするんですが。まあ、極上のヒーリングミュージックといった演奏だったでしょうか。

ガンバ: そうねぇ。ヒーリングというのは引っかかるけど、自己主張がない演奏ってやっぱりちょっと聞くのはつらいものがあるわね。

ブチッケ: え〜と、忘れちゃいけないと思うんでげすが、フルートやコルノ・ダ・カッチャ(今回は普通のホルン)のソロはうまかったですニャ。管楽器のソロのところは起立して吹いていましたが、あれは視覚的効果だけじゃなくて、確かに音の点でもすばらしい効果を生んでいました。Ganz oben, ganz hinten(天井桟敷)まで、古楽器のフルートの音がビンビン響いてきましたニャー。

ガンバ: うん、あれはホールの響きがすごくいいっていうこともあるけど。サントリーやオペラシティーだったら、あそこまですばらしい音は聞けないでしょう。

デデ: 確かに、オペラシティーで演奏会をやっている合奏団もあるけど、あれはかわいそうですニャー。お客さんもそろそろ愛想尽かしているんじゃない。



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