コープマンのマタイ受難曲

バッハ:マタイ受難曲

アムステルダム・バロック・オーケストラ
アムステルダム・バロック合唱団

クリストフ・プレガルディエン(エヴァンゲリスト)
ペーター・コーイ(イエス)
サンドリーヌ・ピオ(ソプラノ)
クラウディア・シューベルト(アルト)
ポール・アグニュー(テノール)
クラウス・メルテンス(バス)

2000年10月6日 東京カテドラル


(江戸川橋の高速下に集う猫ども)

デデ: いよいよ涼しくなってきて、音楽会シーズンですニャ。

CoCo: はいはい。やっぱりバッハイヤーですか、その、あやかりもので、秋にもマタイ受難曲が目白押しですニャー。

ガンバ: そう言えば、今年は一体何回マタイの演奏会があったんだろうね。外来の団体もこぞってマタイを持ってくるし。でもこれだけかち合うと、古楽の世界、歌手がまだ手薄なのかなぁ。今年の前半にやったところは、どこも歌手がイマイチじゃなかった?

デデ: うん。そうだね。ベルギーの大御所(?)の所も、かなり怪しげな連中を連れてきていたし。一昨日のピノックのところなんか・・・

ブチッケ: ひどかったですニャー。合唱団の連中が1曲ずつ前に進み出てアリアを歌うんだけど、まあ、中にはろくにドイツの発音ができないのまでソロをやったりして。合唱団の中なら目立たないものを。ちょっとした詐欺でしたな。ピノック曰く、「当時の演奏のスタイルだ」とか開き直っているらしいけど。

ガンバ: それだったら、チョン切ったのを連れてこい!

デデ: おや、過激な御発言。ところで、今日も登場したメルテンスとかコーイとか、今年は何回マタイを歌ったんだろう。どうしてもこれだけ受難(曲)続きだと、ここらへんの人に役割が集中しちゃいますな。

CoCo: さてさて、今日の演奏だけど、まず会場が東京カテドラルだから、響きはそう期待していなかったんだけど、いやどうしてどうして、合唱ばかりでなくオケの中のソロもよく響いていました。しかも、長い残響の割に音が濁らずに心地よく響いていたんじゃない。

ガンバ: まあ、細部まで明瞭にっていうわけにはいかないのは仕方ないとしても、オペラシティーなんかよりは、ずっとましよね。冒頭の長いオケパートのあと、合唱がす〜っと入ってくるところで、もう天国に上る心地がしたわ。

デデ: ナンマンダブ。さて、受難曲のスーパースターといえば

ガンバ: キリスト!

デデ: まあ、そりゃそうだけど、曲としては、やっぱり、エヴァンゲリストでしょ。このプレガルディエンという歌手、どうかねぇ?

ブチッケ: そこでげすな。厳しい厳しいヨハネ様ならともかく、もうキリストに感情移入しちゃっているマタイ様となると、もうちょっと感情の起伏が出せる歌手じゃないと、おもろないですニャ。

CoCo: なんだい、急に関西弁になって。トントンがコンティヌオのオルガンを弾いて、こまめにテンポを設定しているんだけど、語るというよりはどうしても歌っちゃうんだなぁ。これ何とかならないだろうか。レチタティーヴォはアリアじゃないんだよぉ。

ガンバ: イエスを歌ったペーター・コーイなかなかよかったよ。立派なバスの役どころって気がしていたけど、今日のイエスはちょっと弱々しい。もう世の中に飽きたんだわ。捕まえたきゃ捕まえな。磔にでもなんでもなってやるぅ。なんかそんな開き直った感じがあったかな。それだけに、神々しいというよりは、人間的な弱さが垣間見えて、うん、なかなか役者だと思ったわね。芸大のセンセらしいけど、道理で今年は日本での露出度が結構高かった。

デデ: ソプラノのピオ。この人はビオンディのところで、すばらしいヘンデルを聴かせてくれたのを覚えているんだけど、今回はしっとりと、でも、芯の強い歌を聴かせてくれましたニャ。

ガンバ: ちょっと聞くと線が細い感じなんだけど、ビブラートが少なくてすっきり伸びる声ね。ヴィスの奥さん、え〜と、メロンだっけ、あの人に似たタイプかな。

デデ: アルトのシューベルトというのは、実演では初めて聞く人だったと思うんだけど、声が素直に伸びて私は気に入ったね。この人もアルトにしてはめずらしくビブラートが少なくて、言葉がはっきりと聞き取れる歌手だった。

ブチッケ: そうそう、テクストがはっきりと聞き取れるかどうかっていうのは、重要ですニャ。その点で、今回のテノール、え〜と、ポール・アグニューでしたっけ、これも発音はきれいでしたニャ。感情の起伏も自然に表現していて、これから楽しみな人と見ました。バスのメルテンスはね、これはもう、ベテランだから万障怠りなく。そつなく。

デデ: でもいい声だニャ。ところで先ほども出た話だけど、トントンがコンティヌオを弾きながら指揮をしたせいか、オケから合唱から、全体にすごくノリがよかったと思わない?

CoCo: そう、そこですニャ。35曲のガンバのオブリガートが入ったアリアだとか、通奏低音自体が聴き所でもあるし、曲の推進力にもなっていたよね。

ガンバ: そうそう、それに、私が一番ぐっと来たのは、27番のアリアから27aの合唱にかけてのあたり。湯田さんの裏切りでイエスが捕まったところ。「稲妻と雷は・・・」の合唱の凄まじさ。そして、ゲネラル・パウゼ。あの瞬間、一体何が起こったんだろうって、ドキッとしたわね。

デデ: そうそう、あそこにゲネラル・パウゼがあるっていうのは、わかっていても今日の演奏にはビックリしたニャー。それで、合唱の声が教会の高い天井に吸い込まれていくような瞬間を見計らって、またコーラスがひとしきり。

ブチッケ: あそこらへんの、劇的な盛り上げ方って面白かったですニャ。それから、いわゆる「ペテロの否認」の一くだり。エヴァンゲリストにはもうちょっと頑張って欲しかったけど、それでも、ゆったりとした間の取り方、悲しみの極みってところかな。43番から45番にかけての、いわゆる人民裁判の下りでは、あの劇的な合唱を加えて、ハラハラドキドキ、目の前で「へんなオッサン」が裁かれているの見ているような気がしたね。

デデ: あの「バラバム」の一言を歌う強烈な合唱。あれは、音楽を歌い上げるというよりは、叫び声に近かったね。

ガンバ: そうそう、合唱はきれいに揃っているんだけど、それだけじゃないのよね。2手に分かれた、たった28人の合唱なんだけど、それが、まるで現場に居合わせた人間のように、ヤジを飛ばす。罵声を浴びせる。聴衆はその事件の現場を、まるで芝居を見るようにまざまざと見せつけられる。そんな演奏だったと思わない。

CoCo: このグループを聞くといつも感じるんだけど、合唱だけじゃなくて器楽も、無理にきれい事をやろうとしないでしょ。個性を殺さないというのか。むしろ、オケの一メンバーでも、自分はこう弾きたいんだっていうのがひしひしと伝わってくるよね。フルオーケストラで鳴っているところでも、あちこちからアンバランスな音が飛び出してくる。これは、古楽器特有の現象ではあるけど、それがカオスにならずに、全体に生き生きとした彩りを添えていると思わない?

デデ: というわけで、キーパーソンであるエヴァンゲリストにやや難ありでしたが、人間的なというのか、生き生きとしたリアリズムの受難曲だったと思いますニャ〜。


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