湖北省京劇院

孫悟空 天宮で大暴れ

2000年9月18日 池袋芸術劇場中ホール


デデ: いやあ、この夏は猛烈な暑さでしたニャー。

CoCo: いや、まったく。もうとっくの昔に秋になってもいいのに、まだ蒸し暑いですニャー。なかなかシリアスな音楽会を聞く気分にもなれませんが、そんなときにもってこいなのが、京劇。(←ちょっと無理なこじつけ)

デデ: ですニャ。数ある出し物のうちでも、今日はとびっきり楽しい「孫悟空」でした。天地開闢から5400年目、花果山の上の大岩が割れてそこから転がり出た一つの卵。この卵から生まれたのが孫悟空。

ガンバ: 猿って哺乳類じゃなかったの?

デデ: まあ、細かいことは置いといて。修業の結果七十二変化のワザを身につけ、竜宮からは如意棒を手に入れ、小猿を従えて威張りくさっている孫悟空。

ブチッケ: そこに天の玉帝からのお呼び出し。玉帝としても傍若無人な猿の行状には腹がおさまらなかったんでしょうな。この花果山の場面の小猿達はかわいらしかったですニャー。ちょっと前屈みで、ひょこひょこ動き回ったり、ノミ取りや毛繕いをしたり。

ガンバ: うん、よかったね。猿の表情が生き生きしていた。で、天宮に呼ばれた孫悟空に与えられた職は弼馬温(ひつばおん)というもっともらしい名前は付いているものの、実は厩番。偉そうに官服に身を包んで登場しますが、間抜けな家来が二人いるだけという、とんでもない閑職。

CoCo: はいな。この二人の下役がいい味だしてたね。生粋の道化役かな。一応上司の悟空にぺこぺこしてはいるんだけど、その実、悟空の立場がよくわかっていて、心の内ではバカにしている。でも、その胸の内がふっと表に出てしまって・・・

ガンバ: 西王母が主催する蟠桃の宴というものの存在を知ってしまう悟空。しかも、しかも、自分は招待されていない。弼馬温てぇのは、そんな下っ端の役職だったのだぁ。ゆ る せ ん !

CoCo: というわけで、西王母の宮殿である瑶池(ようち)に乗り込んだ孫悟空。宴宴会用に準備してある桃を喰らい、酒を聞こし召して、すっかりご満悦。

デデ: 以前どこかの京劇団がやったときには、この部分だけを拡大して、じっくりと見せてくれたんだけど、今日は比較的あっさりめでしたニャ。

ガンバ: でも、猿が桃を食べる様子がおかしかったぁ。

ブチッケ: 子分思いの悟空はちゃんと小猿達へのお土産も抱えて、スタコラさっさ。逃げる途中で、太上老君の宮殿に迷い込んだ悟空は、数百年かけて練り上げたという金丹をぼりぼりむさぼり喰ってしまいましたな。

デデ: 金丹ていうのは、仙人になる薬だそうだけど、これを作っている太上老君というのは、どうも老子の化身みたいでしたニャ。陰陽五行、神仙、不老長生、加持祈祷、符呪、悪魔払い、なんでもござれの仙人といった風貌。

ブチッケ: ですニャ。まあ、そんなこんなで、孫悟空の乱暴狼藉に怒った天帝は10万の天兵をもって悟空追捕に乗り出します。二郎神、なた、巨霊神・・・異形の神々のおっそろしいこと。キツネみたいなの、骸骨みたいなのと、隈取りも色鮮やか。

デデ: はいはい。いや神様達は揃いも揃って、み〜んな強そうでしたニャー。しかも重い装束を身につけて、軽々ととんぼを切ったり。小猿たちも応援に駆けつけ、天宮は大騒ぎ。神軍の猛攻を孫悟空は汗一つかかずに、ひらりひらりとかわしてしまいます。ここのところで、ジャーンジャーン、カタカタカタと、うるさいほどに騒いでいた楽隊が、一瞬ゲネラル・パウゼ。この手法は初めてでしたニャ。京劇というと、立ち回りの場面はひたすら賑やかに音が鳴っているんですが、一瞬の無音状態は「何が起こるんだろう」という、見る者の好奇心をかき立てましたねぇ。

CoCo: さてさて、こんなにつお〜〜〜い悟空にも、たった一つの弱点が。

ガンバ: ん? ああ、そうね。

デデ: そう、最後は犬に噛みつかれて、捕まってしまう。

CoCo: 白地に黒ブチの地味な犬でしたが、なかなか役者でした。着ぐるみというんですか、あれを着たまま宙返りしたり、なかなか大変な役ですニャ。

デデ: さてさて第2幕は捕まった孫悟空が老子の八卦炉で焼かれるシーンから始まります。49日間こってりと焼かれるんですが、それでもめげずに、炉から飛び出してきます。しかも焼きが入ってさらに強力になった孫悟空。

ブチッケ: 天帝ももう我慢がならん、というわけで、如来に救援を求め、これに応じて如来は十八羅漢を送り込みました。で、この十八羅漢という連中がなかなかの優れ者。自分の身長ぐらいの手をした手長、背が2メートル以上はありそうな足長、寿老人やら、布袋様のようなのも出てきて、またもや、大乱闘になります。

ガンバ: あの羅漢様たち、一人一人ちがった表情を持っていて、おもしろかったぁ。鼻がグニュッと曲がっていたり、顎がしゃくれていたり、コメディア・デラルテの仮面みたいね。

デデ: それぞれになかなか面白い武器を振りかざして、孫悟空に立ち向かうんですが、長い手足がかえって邪魔になったり、ユニークな武器で味方を倒してしまったりと、どうもうまく行かない。そのうちさまざまな武器が宙を飛び交い、さながら雑伎団の雰囲気になっていきましたニャー。

ガンバ: うんうん、あそこらへんの曲芸はやっぱり凄いわねぇ。

デデ: ひとしきり合戦を繰り返した挙げ句、きん斗雲に乗って去ってゆく孫悟空。

ガンバ: カッコイイ!

CoCo: パチパチパチ。ところで、あの手長、足長とコンビになって戦っていた、ダルマさんみたいな羅漢、あれかわいかったねぇ。でも、コサックダンスみたいに膝を曲げたままの演技って大変だろうなぁ。

ブチッケ: そうそう、あれは大変な役ですニャ。ところで、今日の音楽ですが、どうでしょう。北京の劇団では二胡という高音の胡弓が大活躍しますが、今日はチャルメラ、横笛、笙あたりが主にメロディーを引っ張っていた感じでしょうか。

デデ: そうそう、いつもお馴染みの北京のメロディーとはちょっと違う、独特な節回しでした。中音域の胡弓も使われていたようですが、演奏はイマイチでしたかニャ。京劇の音楽というのもいろいろ地方色があるみたいで、それぞれに特徴があるんですニャー。それから、孫悟空役の程和平という役者さんに拍手。とにかく出ずっぱりで2時間近く。最後に取っておきの軽業まで披露してくれました。パチパチパチ。



デデの小部屋(ホームページ)に戻る

音楽の小部屋に戻る

ボクの小部屋が気に入った、または
デデやガンバに反論したい、こんな話題もあるよ、
このCD好きだニャー、こんな演奏会に行ってきました等々、
このページに意見をのせたいネコ(または人間)の君、
電子メールsl9k-mtfj@asahi-net.or.jpまで お手紙ちょうだいね。
(原稿料はでないよ。)