(昼間はこの上なく蒸し暑く、猫にはつらい時期。でも音楽会が終わる頃には一雨あって、涼しくなりました。ああ、でもこのまま梅雨に入っちゃうんでしょうかニャ〜?)
CoCo: 今日は、去年モラゲス木管五重奏団で来日したパスカル・モラゲスのソロのリサイタル。いやあ、木管五重奏の時はそのうまさにぶったまげましたが、今日はどうだったかニャ?
ガンバ: う〜ん、そうねぇ。去年はそう、うまさに圧倒されたって感じだったけど、ソロを聴いてみるとどうも、今ひとつかな。独墺系のクラ吹きが一定の型を持っていて、それを頑なに守り続けているのとは対称的に、フランスのクラリネット吹きっていろんなタイプがいるでしょ。代表的なのはジャック・ランスロのような軽妙洒脱派。ミシェル・ポルタルのような硬派もいるわね。ポール・メイエはランスロに近いかしら。
CoCo: モラゲスはそのどれにも属さないね。クラリネットは低音、中音、高音の音色の違いも一つの魅力だと思うんだけど、この人が吹くと、なんだか均一な感じ。低音のふくよかな音や、最高音の突き刺すような鋭い音っていうのが、みんな中和されて聞こえるんだなぁ。
ガンバ: 最初に吹いたヴィドールの曲は、音楽院の卒業試験作品というわけで、かなり技巧的な曲。それを楽々と吹いてしまう技量はすごいんだけど・・・
CoCo: 2曲目のドゥヴィエンヌのソナタもそうだよね。クラリネットの曲としてはさほど難しくはないんだろうけど、聞いてみるとかなりデーハーな技巧派の曲。これもまあ、ビックリするほど正確無比に吹きましたニャー。で、聞きながら考えていたんだけど、このモラゲスっていう人、技巧的には完璧なんだけど、音楽にゆとりがないというのか、もっと具体的に言うと、フレーズの作りが聞こえてこない。一つにはブレスがすごくうまいのが災いしているのかもしれないけど、アクセントの乗せかたがちょっと普通のクラリネットと違うんだなぁ。うまい下手は別として、16分音符が延々と続くアルペッジョやスケールのところって、普通は拍の頭にアクセントを置くよね。アクセントが付いた音は大きいだけじゃなくて、長さもちょっとだけ長くなるはず。普通なら。場合によってはアクセントのある拍の、最初の2つの16分音符をスラーでつなげて吹くことだったあるわけ。こうすれば、フレーズの頭がくっきりと見えるよね。でもモラゲスはタンギングが猛烈に速いっていうこともあるんだろうけど、音の長さが本当に均一なんだよなぁ。
ガンバ: デジタリアンね。
CoCo: そう、メトロノームのような演奏をするねぇ。それが、どうも聞き手の眠気を誘っていたような気がする。まあ、ドゥヴィエンヌの曲自体、初期ロマン派の香りを漂わせているものの、やっぱり、18世紀後半のフランスは音楽不毛の時代だったんだニャーというのを、しみじみ実感させてくれる代物でありましたが。
ガンバ: 次のサン=サーンスはよかったじゃない。
CoCo: うん。ピアノがね。普通この曲はすごくロマンチックにやることが多いけど、モラゲスの吹き方はあまりにも生真面目。でも・・・
ガンバ: ピアノの出羽真理が救ってくれたわね。前回の木管五重奏の時にも感じたんだけど、この人、本当に音色がきれいなピアニストだわ。サン=サーンスは印象派とは一線を画していた人だけど、でも、時代の香りっていうのかしら、どことなく煌めくような音色ってサン=サーンスの音楽にもあるでしょ。
CoCo: そうそう。特に今日の演奏では第3楽章Lentでの音色の変化がすばらしかったニャ。クラリネットがどちらかというと単調にやっている裏側で、ピアノがいろんな工夫をして聞かせてくれたね。サン=サーンスってあんなにハーモニーが美しい音楽だとは知らなかった。ガ〜ンと響く梵鐘のような音から、高音のスコーンと抜ける和音まで、ずいぶんと凝った音が書かれていたんですニャー。
ガンバ: この出羽真理っていう人、日本人に珍しく室内楽ができる人ね。本当に貴重なピアニストだわ。
CoCo: アルバン・ベルクの「4つの小品」でも、ピアノのうまさが光ったね。
ガンバ: そうそう。本来クラリネットのパートも叙情的に書かれてはいるんだけど、ピアノが雄弁に補ってくれたって感じかニャ。最後のウェーバーは、ね、まあ、その・・・
CoCo: これはまあ、クラリネット・リサイタルではお約束のショーピースですから、どうこう言うほどの曲じゃないけど、ただ、確かにこういうのをやると、モラゲスのうまさが際だちますニャ。
ガンバ: でもアンコールにオペラのメロディーをやったりしたけど、これがまたちょっとね。カヴァレリアの間奏曲はあれ、泣かせ節でしょ。それをまあ、あれだけあっさりとやってしまうと・・・つまんない。だから帰りに、ロビーのお土産屋さんで猫の置物かっちゃった。へへへ (=^^=)