上海京劇院

鍾馗嫁妹(しょうきかまい)
三岔口(さんちゃこう)
昭君出塞(しょうくんしゅっさい)


2000年5月30日 池袋芸術劇場中ホール


CoCo: いやあ暑い日でした。カラッとはしていたけど、暑いのは嫌ですニャー (=^^=;;

ガンバ: そうねぇ。早く秋にならないかしら。夏さえなければ日本ももうちょっと住みやすくなるのに。

CoCo: まあ、ともかく今晩は上海の京劇を見て来ました。最初の鍾馗嫁妹は以前、大連の京劇団が幕間狂言といった趣向で、文字通り幕の前で演じて見せたことがありましたニャ。あの時は装置も何もなしで、ズタボロの衣装で演じていましたが、今日のはちょっと豪華な作りだったかな。

ガンバ: そうね。鍾馗様は生前も貧乏だったけど、神様になってからも貧乏な神様。厳ついご面相で、中国では厄払いの神様ということになっていて、神の国、日本でも五月人形に欠くことのできない神様よね。

CoCo: で、その鍾馗様が自分の葬儀の際に世話になった友人に、自分の妹を嫁がせようとして、子分の鬼たちを引き連れて下界に降りてくる。この小鬼たちが面白いね。破れ傘、破れ提灯・・・ゲゲゲの鬼太郎様御一行という雰囲気。天秤棒に嫁資を下げて、ヒョコヒョコ調子をとりながら歩く鬼やら、ロバの轡を取って先導する鬼、鍾馗様も大きなお尻を振り振り堂々の行進。

ガンバ: ただ行進をして下界に降りてきて、祝言をあげるというだけのたわいない、筋というほどのこともない狂言だけど、ロバ引きのコミカルでしかもアクロバティックな仕草が印象に残ったわね。

CoCo: 次の三岔口というのは初めて見る演目だったけど、なかなか立ち回りがみごとだったね。焦賛は島送りの刑で護送されて行く途中、三岔口(三叉路)にある宿屋に泊まる。焦賛を守るべく後を追う任堂恵。宿屋の主人、劉利華は後を追ってきた任堂恵に、焦賛のことなど知らぬ存ぜぬの一点張り。互いに怪しいと誤解した劉利華と任堂恵が真っ暗闇で死闘を演ずるというお芝居。実は劉利華も任堂恵も味方同士だということが最後にはわかるんだけど・・・

ガンバ: まず宿屋に着いた任堂恵が主人を呼ぶでしょ。なかなが返事が返ってこない。何度か呼ばわるうちに、「はいはい、お呼びで」とかナントカ言いながら、主人がとんでもないスピードで宙返りをしながら登場。あそこがカッコイイ! しかもメークが、顔の中央を白く塗ったお豆腐顔。つまり京劇だとピエロの役よね。あの体の切れと、コミカルな表情とのアンバランスが何とも、凄かった。

CoCo: 部屋に案内して、火を渡すと、あとはほとんどセリフがない芝居でしょ。ここからがまた、凄かったねぇ。まあ、芝居だから照明は煌々とついているわけだけど、設定としては互いの姿がまったく見えない暗闇での死闘。任堂恵のほうは一応、二枚目風。宿屋の主人はピエロ。この設定は面白いね。手探りで相手を探し、互いにねらいをつけるわけだけど、目標が定まらない。相手がむやみに振り回した剣が、目の前で空を切る。相手を探して動き回るうちに、背中合わせでぶつかったり、思わぬ瞬間に鉢合わせしたり。

ガンバ: うんうん。一方がバカまじめで、もう一方がちょっと間抜けという設定は、マルクス兄弟や初期のチャップリンのドタバタを彷彿とさせるような、ナンセンスというのかスラップスティックな面白さがあるね。特にピエロ役の俳優さん、暗闇という設定なんだけど、目の演技がよかったぁ。

CoCo: ところで、三叉路って設定はなにやらオイディプスを思い出しますニャー。それに宿屋の主人というと、プロクルーステースの寝台を連想させるし。

ガンバ: まあ、Hotel(旅籠)はHostile(敵意)に通ずってとこかニャー。

CoCo: さて後半は今回の目玉、昭君出塞だったわけだけど。王昭君といえば、西施、虞美人と並んで中国三大美人と称されるお方。漢の後宮に仕えるその王昭君が匈奴を懐柔するために、匈奴の王に嫁がされるという、道行きのお話。

ガンバ: そうね。これは、はっきり言えば、ちょっとがっかりだったかなぁ。主役の王昭君の役が史敏という、まあこの世界ではかなり有名なソプラノで・・・この人確か去年のN響の定期にも出演して、一曲歌って聞かせたそうだけど。最初は車に乗って行くんだけど、だんだん道が険しくなってきて、馬に乗り換えるわけよね。

CoCo: ところが、駅には暴れ馬が一頭しか残っていない。そこで王昭君がこの馬を手なづける。ここの踊りはかなりデーハーでした。ここが一番の見所だったかなあ。歌がふんだんに入った狂言だけど、史敏は出だしはちょっと声が出てなかったねぇ。徐々に調子を上げてはいったけど。

ガンバ: うん。でも絢爛豪華な衣装はよかったわ。なんだか、シャンデリアみたいな頭飾りをつけて、道中するわけだけど、だんだん北に向かうにつれて、着物が厚手になって、暴れ馬に乗るあたりでは貂の毛皮に赤いマント。頭に綸子。あの重い衣装で立ち廻りのような動きするのはやっぱり大変よね。

CoCo: さてさて、今回の上海京劇院ですが、全体にマイムというかバレエといったらよいのか、セリフ無しで動き回る場面がすごく充実していた。スプリット(開脚着地)は完全に足が開いていたしねぇ。床運動みたい。それからコミカルなタッチが楽しかったんじゃないですか。

ガンバ: そうね。どの狂言にも道化役が出てきて、場を和ませるような演出になっていたわね。ただ、お目当ての史敏に関しては、白蛇伝のような立ち回りの派手な演目を見たかったニャー。もともとこの人、武旦(女性の立ち回り役)でしょ。昭君出塞ではちょっと、寂しかった。貴妃酔酒や覇王別姫なんかも見てみたいなぁ。

CoCo: それから楽隊のほうだけど、普通は京劇というと二胡(胡弓)が大活躍するけど、今日の上海の劇団では笙とチャルメラがメロディーを吹いていたね。地方によっていろいろやり方が違うのかニャー? それに音楽自体も北京の京劇のものとはちょっと違っていたような気がする。

ガンバ: 確かにそうね。どの芝居にも決まって出てくる、有名な旋律があまり聞こえなかったわよね。どちらかというと情景描写風な音楽だったかしら。



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