東京都交響楽団 「作曲家の肖像」Vol.35 ベートーヴェン

ピアノ協奏曲第4番
交響曲第3番


ピアノ:田部京子
指揮:ジャン・フルネ

2000年5月23日 池袋芸術劇場


(もう初夏を通り過ぎて、夏と言った方がいいくらい蒸し暑い一日でした。でも、音楽会場には、律儀にスーツを着込んでいる人やら、中にはセーターを着ているお兄さんも見かけましたニャー。なんとも着るものに困る季節ではありますが・・・)

デデ: 都響は久しぶりですニャー。

CoCo: ですニャ。この前聞いたのは確か、蘇我入鹿が蒸し焼きにされた年だから・・・

ガンバ: そんなバカな。

CoCo: でもイルカの丸焼きって、脂が乗って、んめそうじゃ〜ん。

ガンバ: 何言ってるんだか。

CoCo: で、今日の指揮者、ジャン・フルネも生半可じゃない。1913年生まれというから、こちらは確か、卑弥呼が「親魏倭王」に任じられた年。フルイネ〜、なんちゃって。

デデ: そうそう、確かにあの頃、日本は神の国でした。アーメン。

ブチッケ: バカ言ってんじゃないよ。1913年と言やぁ、世界を揺るがした西暦1900年問題から13年目。

ガンバ: そんなのあったの?

ブチッケ: まあ、冗談はともかく、花の都パリでは「春の祭典」のスキャンダラスな初演があった年。プーランクおぼっちゃまは中学生だったでしょうか。

デデ: なんか、見て来たようなことを言うねぇ。でも、ちょっと前までは19世紀生まれの指揮者がゴロゴロいて、ヨーロッパのオケも、日本のオケでも、溌剌とした音楽を聞かせてくれていたけど、考えてみると、もう19世紀生まれで現役っていう人はたぶん・・・

ブチッケ: もう一人もいないですニャ。みなさん天国に召されました。アーメン。

デデ: いや、そんなことじゃなくって、あの世代の人たちって、芸が枯れなかったじゃない。威勢がいいというのか。ところが、今世紀の指揮者になると、晩年やけに枯れてくるのが気にかかるんだなあ。

ガンバ: あ〜っ、チェリビダッケのことを言ってるんでしょ。

デデ: ん、まあ、ねっ。

ガンバ: 枯れてくるっていうのか、時間感覚がちょっと一般人とずれちゃうのよね。チェリビダッケの晩年の演奏はもう、何というのか、あたしゃ耐えられなかった。確かにミュンヘンフィルだっけ、あれ、すご〜くうまいというのはわかったけど。

ブチッケ: あの遅いテンポで一糸乱れぬ演奏ってぇのは、並大抵じゃなかったですニャ。それに、バーンスタインの晩年もちょっとね。

ガンバ: そうそう、あの人は60代からちょっと後ろ髪を引かれるような演奏だったわねぇ。ベームは19世紀の人だけど、80前後まではすごく颯爽とした音楽をやっていたでしょ。最晩年の来日の時には、さすがにちょっとねぇ、って首を傾げたくなるような音楽になっちゃってたけど。あと、アサヒナ〜とか。

デデ: あの方は化け物ですニャ。あのお年で、あれだけのファンクラブを抱えているっていうだけで、スゴイ。一方で、80後半でも若々しい音楽やっている人も中には・・・ヴァント親父とか。

CoCo: そうそう、ヴァントは音楽が生きてるねぇ。ムラヴィンスキーも病気持ちだった割には、最後まで音楽は生き生きしていたね。でも、その後のロシアのオケというのか、音楽家全般の凋落ぶりにはちょっと目を覆いたくなります。いや、耳を覆いたくなります(パタッ)。

デデ: あと、今日振ったジャン・フルネも活きがいいですニャ。

ガンバ: サンサーンスとかフォーレとか、フランスものがもちろん十八番かもしれないんだけど、この人、不思議とベートーヴェンやモーツァルトに立派な演奏をしてきたなっていう印象があるんだわさ。

CoCo: うん。もう10年以上まえだっけ? やっぱり都響でモーツァルトの13管をやったんだけど、このオケから、あれだけきらびやかな音色を引き出す人って、なかなかいないなって思ったねぇ。

デデ: でも、演奏自体は極めてオーソドックス。奇をてらうことがなくて構築的ですニャ。だから、フランクなんかもすごくスケールの大きい演奏を聴かせてくれたよね。

ガンバ: うんうん。ところで、フルネ爺さんには悪いんだけど、今日のお目当ては田部京子っていうピアノ弾き。これ、なかなか弾けるんじゃない?

ブチッケ: いやあ、よござんした。

デデ: ピアノ・コンチェルトの4番は、シンフォニーの5番・6番のちょっと前に書かれたわけだけど、例の運命の動機が最初に出てくるんで有名ですニャ。つまりダダダ・ダ。この3曲の出だしのリズムがまるで同じ。チェルニーに言わせると鳥の鳴き声なんだそうですけど、ベートーヴェン先生、かなりのトラウマになっていますニャー。時々思うんだけど、今日やったコンチェルトの4番が、運命の動機を一番展開し尽くしているんじゃなかろうか?

CoCo: 第3楽章のロンド主題も運命の変形だよね。ダダダッ。まあともかく、最初のピアノのソロがでてくる部分には、ちょいと小首を傾げたくなったんですが。

ガンバ: やっぱりそう思ったぁ。あれは相当緊張していたのかなぁ。音がやけに濁っていた。

デデ: その後も、一生懸命オケと張り合っている、その気持ちは伝わって来るんだけど、どうもなぁって思いながら聞いていたわけ。

ブチッケ: でも、変わったでしょ? あれ、展開部あたりからかなぁ。それまで、オケに完全に負けてしまっていたピアノの音が、突然通るようになってきました。

デデ: うん、ありゃなんだろう? ベートーヴェンの音楽に内在するものではなさそうだぞって思い始めたのは、もうカデンツァに近づいてきた頃だったかなぁ。やっぱり、あれ、指揮者だね。

ブチッケ: やっぱりそう思った? 最初は12編成の弦がかぶっちゃって、ピアノはおろか、管もはっきり音が通らない、もっさりとした響きだったけど、途中からバランスと音色のコントロールをかなりこまめにやりだしたんじゃない? フルネが。

デデ: それで、とたんに音楽の輪郭がくっきりとしてきて、見通しのいい演奏になったよね。そうなると、この田部ってピアノ弾き、音が繊細で、しかも鼻音。じゃなかった、美音。特に中音域から上の、俗に玉を転がすあたりの音色がゾクゾクするほど。短い短い第2楽章のカンタービレでは、まるで、葬送行進曲のような深い音色も披露していましたニャー。

ガンバ: あそこは、指揮者と言うよりは、田部が自分の流儀で自在に歌って見せた感じね。オケの弦もピアノに寄り添うようにきれいに歌っていたわ。

CoCo: それから、普通は3楽章にアタッカで入るけど、今日はちょっとポーズを置きましたニャー。あれはあれで、納得できるような気もするし・・・

ブチッケ: まあ、それは好きずきでしょう。第3楽章のロンド主題は、そう焦らずに、いくぶん落ちついたテンポだったでしょうか。うん、こうやるとやっぱり運命の動機だニャ、というのがはっきりとわかります。

デデ: 転調して短調になるとところでは、歌と、それから、デモーニッシュな「運命」動機とのコントラストが面白かったね。田部のピアノも淡々と弾いているようで、そこらへんの決め所はきっちりと押さえていましたニャ。

ガンバ: ロンドの第2主題の転調部分ね。ロンドだからって単に主題を次々に繰り出して変化を付けるだけじゃなくて、主題そのものの加工というのか、掘り下げというのか、そこらあたりが、モーツァルトの世界から抜け出して、自分自身の世界を作り出したベートーヴェンの真骨頂かしら。もうすぐそこに「運命」が見えているって気がしたわ。

デデ: ところで、本日は田部ファンクラブなのかなあ、それともTBS(トーキョー・ブラヴォー・サービス)の連中が入っていたんだろうか、前半から盛大なブラヴォーが飛び交っていましたニャー。近頃オケをあまり聞かなくなっちゃったんで、よくわからないですが、最近のオーケストラ演奏会ってあんな感じなんでしょうかねぇ?

ブチッケ: さぁ???

CoCo: 後半はあまり話するほどのことはないと思うけど、ひとことだけ、第3楽章のトリオかな、あそこで出てきたホルン、よかったですニャー。ただ、全体に弦の艶と粘りが今ひとつ。2楽章も、すごく緻密な音楽をやっているわりには、色気が乏しかったですニャー。

デデ: そうそう、CoCoが言ったように弦もそうなんだけど、管もきらりと光るものが・・・なかったですニャー。あのホルンはもちろんすばらしい響きを聞かせてくれましたが。フルネっていう人、かなりオーソドックスな音楽をやるから、オケの人たちの自発性というのか、音楽的個性がもっと発揮されないと、なんだか箱庭的な音楽になっちゃいますニャー。ちょっと残念。

ガンバ: 確かに今の流行で、オケのメンバーが室内楽をやったりするけど、聞いて面白いって演奏会に出会ったことが一度もないわね。

デデ: う〜ん、まだまだ、時間がかかりそうです。



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