4−3望ましいコーチ像と、その具体的行動とは

 チームにとって「勝利至上主義」から「技術至上主義」、「楽しさ至上主義」への転換を手助けチームにそうしたそれらの至上主義の文化を根付かせるためにはコーチが必要であることを述べ、そのコーチにはP・Cが必要であることものべた。これによって少年サッカーのコーチがチーム、すなわち子供たちにたいしてP・コンサルタントとして行動することの必要性は今まで述べられたことのなかで大体明らかにされたと思う。それでは具体的にどのようなコーチ像が良いものとされるのだろうか。サッカー界から見た考えとしては前に取り上げた祖母井氏の文で、こう述べられている。
 「われわれ指導者の仕事は、子供のプレーを観察して助言してあげること。子供のプレーの良い点、悪い点を正確に指摘するためには、観察眼を磨くことが大切。サッカー先進国ではこの観察眼を自然に磨けるが、日本の場合、なかなかこれが出来ない。これは大問題だ。周囲を見てプレーする子供が少ないのも、指導者の観察不足から生じる問題なのだ。」
 ここで述べられているような、観察して助言してあげることが、まさにP・Cなのである。
 では最後になるが、具体的にはどのような行動が要求されるだろうか。それを述べていく前に確認しておきたいことがある。この具体的行動は、チームが監督と子供たちによって成り立っている状況に、コーチがどう関わることによって、より望ましいチームへ変わっていくかについてのものを述べている。また、「楽しさ」や「技術」や「躾」の基準は、それぞれの組織において異なる。つまりチームに集まった子供のもつ基本的仮定も、環境も様々に異なるので、チームとしての組織文化は多少なりとも異なってくることを示している。したがって具体的行動といっても具体的指導や練習法を例示することはあっても一義的に示すことはない。では、コーチに必要な具体的行動は以下のようにまとめられる。

  1. 監督との頻繁な、徹底されたコミュニケーションによって、チームを組織的に把握し、少年育成やサッカーの面から見た、より効果的な技術的目標やそれにともなう練習法、指導法などを提案し、それらを最終的に監督によって決定してもらうこと。
  2. チームの子供たちの輪のなかに積極的に入り、監督の「権威」がない状態で表出する、子供たちだけの組織文化の探索と、それにともなう効果的なチームのメンバーの楽しさにつながるような雰囲気づくり。
  3. 実際のサッカーの指導、特に、監督によって決定された練習法、指導法が、子供たちにとってはどのような効果を表しているかの観察と分析。さらには、子供たちが問題に直面したときの、より効果的な選択肢の提案。

 第一に、コーチは監督や、監督を含めた上でのチームの組織的内容を把握する必要がある。つまり、チームにおいて、サッカー指導における技術的目標や、少年育成のために必要な「躾」に伴う規範の認識、それが子供たちにどのように、どれくらいの基準で設けてあるかに着目し、子供たちとの関わりの中で、実際に機能しているかどうか、望むべき理念に合致しているかどうか、子供たちはそれらにどう反応を示しているかの判断をしなくてはならない。その上でより効果的な基準の探索に努め、その探索をもとに、具体的な練習法、指導法を案出し、監督の判断の上で決定してもらい、実際の指導に移るのである。そのためにも、頻繁に監督とコミュニケートしたり、お互いに情報提供していく必要がある。これが「監督の補佐」の役割なのである。
 第二に、監督のいない、より「権威」から解放された状況の中で子供たちがどのような規範のもとに行動するか、何が、どれくらい「楽しさ」につながっているのか分析する必要がある。そうした基準をもとに遊びやユーモアの要素などを取り入れた楽しい雰囲気作りの創出と実行があげられる。少年サッカーのクラブでは、サッカーの指導だけが求められているわけではない。現代の子供たちは自由で主体的な活動である「遊び」を失いつつある。その場を提供することでクラブの「楽しさ」を創造するのである。そのためには、ただサッカーの練習だけをするのではなく、子供たちのサッカーに対するマンネリ状態をすばやく察知できたときなどは、気分転換や、ウォーミングアップの代わりにサッカー以外のスポーツや遊びを提供するのである。例えば、鬼ごっこ、ドッジボール、キックベースなどがあげられる。また、楽しい雰囲気づくりのためには、コーチがピエロになることも必要だ。サッカーのプレーにおけるミスの例示を誇張してユーモアに表現してみたり、おどけてみたり、冗談をいうことも時には必要なのである。これによってメンバーはコーチに対する威圧感を感じなくなり、結果として、メンバーの「心を開く」ことにつながり、コミュニケーションを頻繁にさせるきっかけを与えるのである。これによってコーチは子供たちの「楽しさ」を援助するのである。
 第三に、実際のサッカーの指導があげられる。監督とのコミュニケーションによって、具体的指導法や練習法を授かったコーチが、子供たちにそれらを提供し、あとは子供の自由にサッカーをやらせてみるのである。その中できちんと子供たちの行動、様子を観察、分析し、プレーの中で突き当たった問題に対しては、コーチが分析できる範囲で、より効果的な対処を「こうしてもいいよ」という選択肢の提案という形で言葉がけしていくのである。また、それぞれの子供の基準が満たされているプレーに対しては盛んに褒めてあげるのである。さらには、子供たちから自然にさらに上の基準を求めるようになった場合、少しずつ基準を上げた練習を提示してあげるのである。また、試合の場では具体的な技術目標を子供たち個人個人のレベルにあわせて提示してあげたり、試合の技術的内容に関してきちんとした評価をしてあげる必要がある。特に、Y理論によるプラス思考をもとに、できたことに対して誉める評価が重要である。できたことをきちんと誉めた上で、できなかった技術的課題は、新しい目標、課題として、メンバーに提示すれば良いのである。こうした指導の中でもコーチの認識の範囲を超える問題がでる場合がある。この時には、再び「監督の補佐」で述べたような、監督とのコミュニケーションから、解決策を練ればよい。これが、子供たちの「技術向上」への援助である。


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少年サッカー指導コラム「望ましいコーチ像と、その具体的行動とは」
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