第4章 コーチに必要とされる組織論的役割
4−1コーチに必要なプロセス・コンサルテーション


   今までは指導者の役割分担のうち、監督のこと、つまり監督に必要な効果的リーダーシップと、それに基づく具体的行動について述べてきた。しかし、リーダーシップだけでは、「権威」という影響力から、いいチームをつくるのには矛盾を生じて、問題を引き起こす可能性があることは前でも述べている。
 そこでチームには監督だけでなくコーチが必要であると私は考えるのである。そして特に重要となってくるのがコーチの役割なのである。
 ではコーチについて考えてみよう。コーチの役割というと、はっきりしたものが存在しないように思われる。それでも一応、一般に言われているのが「コーチは指導者であると共に監督を補佐して助ける役目である。」ということである。だが、その補佐する役割と言うものが、実際には監督だけではなく、組織を構成しているあらゆる要素を補佐し、援助する、助ける役割であると私は考えるのである。つまり組織的に考えた場合、コーチという存在は組織のあらゆる場面における援助者、つまり「マルチヘルパー」となる必要があると考えるのである。助ける役目、それが 実は少年サッカーの指導においては重要となってくるのであり、少年に対する望ましいサッカーの指導ができるようなチームへの変革に必要となってくるのである。
 つまり、監督のリーダーシップや「権威」という影響力の防御壁となって、子供のサッカーの技術を伸ばすために、自由に、楽しくサッカーをするために、さらには、子供の心身の健全な成長、特に人間の欲求のなかでも高次元である自己実現の欲求への、内発的動機付けを促すための「援助」をする役割なのである。したがって、少年の指導に必要な“楽しさ”の要素、“技術重視”の要素に関係してくるのは、コーチの役割であると考えるのである。
 それではそこに必要となる要素は、組織論的にはどう表現されるのか。これが「ヘルプ(援助)」の要素であり、この要素を持った行動を「プロセス・コンサルテーション」と言うのである。 このプロセス・コンサルテーションがなぜ子供のサッカーの技術を伸ばすのか、チームにとって「楽しさ至上主義」や「技術至上主義」という組織文化を根付かせるのに有効なのかを述べてみよう。
 組織論の中でもコンサルティング、特に、ある組織が問題解決を目指す際にそれを援助するようなコンサルティングを扱った書物に、エドガー・H・シャインの「新しい人間管理と問題解決 〜プロセス・コンサルテーションが組織を変える〜」があるが、この著書の訳者である稲葉元吉氏は“訳者まえがき”にてこのように述べている。
 「・・・組織が解決すべき問題は、究極的には、コンサルタントがではなく組織が、自ら主体的にこれを解決するのでなければ、真の問題解決にはなり得ないという信条が、著者の側に深く意識されているからである。それはちょうど、患者が病気を克服するのは、自らの治癒力であって、医者は病人の持つ治癒力を支援するに過ぎないのとよく似ている。・・・略・・・
 要するにここでの主眼は、管理者は有無をいわせぬ命令者でもなければ、部下に直接に解答を与える問題解決者でもない。彼の任務は、基本的には、問題に直面している当人が自ら適切な解決をなしうるよう、支援することなのである。このような事柄があてはまる状況は、おそらく上司⇔部下の関係や、P・コンサルタント⇔顧客の関係にとどまらない。
 たとえば親と子、教師と学生、医者と患者といった諸関係など広く見られる現象でもある。いずれも支援を必要とする者に援助者がどのような形で協力できるのか、その本質的なあり方を根底から考察しようとしたものが、すなわち本書である。・・・略・・・」
 この部分を読んで見るとプロセス・コンサルテーション(以下、引用以外はP・Cと略す)の内容が簡単にイメージできたであろう。要するに、チームの指導者がどれほど口酸っぱくして何かを説いても、環境を整備してあげたとしても、実際に試合をするのは子供たちであるし、最終的なチームの雰囲気を作り出すのも子供たち、そして技術という報酬を身につけるのも、友情という報酬を手に入れるのも、心身の健全な成長という報酬を得るのも選手である子供たち一人一人である。また、チームにおいて、子供たち自らが自分の力でそれらを手にしなければ、本当のチームの発展、少年サッカーの望むべき指導にはならないのである。ゆえに、コーチは、サッカーの技術的課題、友達づくりなどの人間関係の課題など、チームという組織のなかで解決したい課題を子供たち自らが解決できるように援助、支援してあげる必要があると考えるのである。
 このP・Cに根付く人間の性質に関する基本的仮定には、やはり、Y理論が求められると考えられる。これは監督にも要求される要素だが、監督の場合、「権威」という影響力がより強いため、リーダーシップを発揮しての指導の上でY理論的な子供の見方との矛盾を引き起こしやすいのである。つまり、「権威」が子供たちの緊張や不安のもとになる恐れがあるということなのだ。そして監督に比べコーチは、「権威」の影響力が少なくなる分、コーチはより深く、子供たちの文化に入り込んで、援助することが可能なのである。また、その一方で、もともとコーチという存在は、チームの中では、監督に近い位置にあるので、チームの基本的規範、チームが効果的に機能するための基準が、監督をもとに決定されていくプロセスを把握しやすいのである。また、子供たちから出た問題をもとに効果的解決案を監督に案出しやすい位置にあるので、より子供たち本位の指導が可能になるのである。
 実際、私のチームでも監督が指導すると練習は引き締まるが、コーチだけだと締りがなくなるということがよく見られる一方、ちょっとした悩みや、技術的課題は、監督よりもコーチの方に相談してくるという事実があった。この違いが生ずる理由が私自身なかなか理解できなかったのだが、このような、監督とコーチの基本的仮定や影響力にしたがって考えれば分析可能であるし、また、そうした分析から、コーチの必要性がより明らかになったのである。
 では、このP・Cについて詳しく述べていく。


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少年サッカー指導コラム「コーチに必要なプロセス・コンサルテーション」
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