第3章 問題解決への組織論的アプローチ
3−1問題解決のためのダイナミックなチーム変革


 ではいったいこうした原因に対処するにはどうしたら良いのだろうか。様々な方向からの解決が求められるであろうが、私としては、現在のチームからの変革という方向からの解決策を示したい。つまり、外的要因から望ましいチームとしての「楽しさ至上主義」「技術至上主義」の文化を守り、その文化を強固にして、外的要因に働きかけていくという策である。そのためには、チームに対する組織的分析をして、その上で監督がどう行動すべきか、監督だけでなく、なぜコーチが必要なのかを述べていこう。
 まず、チーム内に存在する「勝利至上主義」の組織文化を「技術至上主義」「楽しさ至上主義」という組織文化に変革していく必要がある。そして、変革した組織文化が深く根付き、「勝利至上主義」の文化が再び支配しないような組織づくりが必要となる。それがつまり古典的組織管理からの脱却とダイナミックな組織作りなのである。チームを組織的に構成する要素として、監督、コーチ、選手(子供たち)の3つが上げられるが、いいチーム、いい組織づくりのためには、指導者にあたる監督とコーチの基本的な役割を、明確に区別する必要があると私は考える。つまりは、チームの指導者には監督だけでなく、コーチの存在が不可欠であると言うことなのである。今までの話では、指導者として、監督とコーチをひとまとめにして話してきた。また、一般的な指導書でも、「監督」と「コーチ」は「指導者」というようにひとまとめにしている。だが、実際の指導の場では「監督にはできてコーチにはできないこと」やその逆のことが存在する。そこでそれを体系化し、組織づくりの上では、「何を」「どう指導する」のか、というように、指導においても明確に区別しなくてはならないのだ。いや、言い換えるならば、持つべき基本的な能力や役割が異なるために、それぞれの果たすべき指導が異なってくるということなのである。
 ではそれは一体どういうことなのか。簡単にいえば、監督はリーダーシップ能力でチームを構成し、チームの組織文化を形成する。一方コーチはプロセス・コンサルテーション能力でチームのあらゆる援助を行うのである。そして、監督はチームの環境づくりに徹し、コーチが実際の少年たちの指導に積極的に携わるのが望ましいと考えるのである。これだけを読んだだけでは分からない言葉もあるし、誤解も生じるだろう。そこでその全体像をこの項で詳しく述べ、監督、コーチのそれぞれの役割や、具体的に要求される行動に関しては、その後一つ一つ述べていこう。
 さて、監督にはチームをつくり、運営していく上で強力なリーダーシップが存在する。そのリーダーシップによって「技術至上主義」「楽しさ至上主義」の組織文化を形成し、成熟させるのである。 具体的には、そのリーダーシップを選手以外、すなわち子供たち以外に対して発揮することによって、チームの環境や、雰囲気づくりに徹するのである。チームをとりまく環境には、前に述べたように、「勝利至上主義」の組織文化をもたらしたり、生み出したりする要因が幾つも存在する。また、チームの内部環境にも、そのような要因は存在する。したがって監督のリーダーシップは、外部の要因に対して「防御壁」の役割、「バリヤー」の役割を果たし、内部の要因に対しては取り除く役割を果たす必要があるのだ。また、チームの方針や雰囲気についてはコーチに対して常に徹底させるとともに、監督から見て気が付かない子供たちに関しての情報をコーチから常に取り込むのだ。それだけに強力なリーダーシップが要求されるのである。
 ただし、少年の指導に対しては、監督のリーダーシップや「権威」という影響力が、要求される「楽しさ至上主義」や「技術至上主義」という組織文化の弊害となる。サッカーのルールだけでなくチーム内のルールを子供たちに守らせるためにはリーダーシップは必要である。監督はチーム内のメンバーが行った行動に対して責任を持つからだ。しかしながらそれが実際のサッカーの指導の場では前でも述べたように、監督のリーダーシップによる影響力は、様々なものがあるだろうが、その中でも「監督」という肩書きからくる影響力は、「権威」的な影響力となりかねないからだ。そしてそのような影響力は、サッカーをしているときの子供にとって、束縛の原因となり、その結果、子供のプレーにおける創造性や、「こうやってみたい」という意欲の妨げになってしまう恐れがあるからである。
 そこで、サッカーの実際の指導のためにコーチが必要なのである。徹底したコミュニケーションによって、監督からチームに求められる組織文化と具体的指導内容を与えられたコーチが、実際の子供たちのサッカー指導にあたるのである。そのコーチの指導において根底に流れている意識は、「援助」の意識である。監督のリーダーシップが弊害になるのに比べ、この「援助」の意識が、子供の「楽しさ」や「技術向上」や少年の健全育成につながるのである。コーチが監督の「権威」という影響力から子供を守る「防御壁」になるのである。したがって、コーチは、この「援助」の意識をもとに、組織を構成するすべての者に対する「援助者」として行動するのである。つまり、監督に対しても、子供たちに対しても、コーチは「援助」する働きをなすのである。この「援助者」の行動を「プロセス・コンサルテーション」と言っているのである。
 このようにして、チーム内の子供たちは、「監督のリーダーシップ」と「コーチのプロセス・コンサルテーション」による「二重の保護」によって、外部からの「勝利至上主義」の組織文化を生み出す要素から守られるのである。そして、子供たち自身が、この中で「楽しさ至上主義」と「技術至上主義」の組織文化を育み、根付かせるのである。そして、試合の場などでチームらしさが発揮されれば、今度は外部に対して、この文化を影響させることができるのである。それでは、監督、コーチのそれぞれに必要な要素、具体的行動について詳しく述べていこう。


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少年サッカー指導コラム「問題解決のためのダイナミックなチーム変革」
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