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少年サッカー指導コラム
練習前の光景

〜選手たちはどんなことをしていますか?〜


 皆さんのチームでは練習前にどんなことをして遊んでいますか?うちのチームを含めて、似た様な感じの光景が見られることでしょう。

 うちではゴールに向かってのPKやFKが圧倒的に多く見られます。また、うちでは「壁あて」という遊びが見られました。この「壁あて」というゲームは校庭にある、野球のバックネットに向かって順番に何人もがボールを蹴っていくのです。それを続けて何回できるか、蹴れなかったり、ミスキックをしたりしてバックネットに当たらなければ脱落していく、というゲームなのです。そこで脱落を誘うため、強く蹴ってみたり、バックネットに蹴りづらい角度に蹴ってみたりと子どもたちはそれぞれ工夫をして蹴っていました。

 
ところが・・・ゲームの中でムダ蹴り、つまり何も考えずにただ思い切り蹴ってしまうキックが増えてしまったのです。おまけに、ゲームで相手をかわしきれずにシュートブロックされてしまうことが多くなってしまったのです。しかも、利き足だけのキックばかりだったため、苦手な足のキックは状況に応じて蹴ることが出来ないでいました。

 「壁あて」ゲームが結局のところ、相手や味方の動きを想定したキックではなかったのです。ただやみくもに壁に蹴ってしまっていることによって、実践的ではない、悪い習慣を持ったキックが身についてしまったと言えます。つまり、実際のところとしては、キックそのものとしてはとても不十分かつ、不安定なものだったのだと言えます。したがって、相手との駆け引きの中から、いいキック、シュートをしようという意識がないために、条件が整わない場合、つまり、競り合いの状況や、プレッシャーの状況が生じてしまうと、とたんにキックが強く正確に蹴れなくなってしまうのです。

 子どもたちの間でルールをもっと工夫していればこうした状況は防げたかもしれません。しかし、子どもたち同士ではレベルも様々ですから、自分が勝ちたければ、ルールは甘くしてしまうのかもしれません。こうした子どもたちの遊びの状況で指導者が関わるのか、難しいところではありますが、ルールについて、アドバイスをもっと早めにしていたら、彼らのキックの状況は多少なりとも改善されていたかもしれません。

 さて、話は変わりますが、今までの日本の選手は、良く「決定力不足」と言われることが多かったと思います。そういう実例として、シュートを打つと大きく浮かしてしまうような光景が思い浮かべられます。このような遠因として、少年年代に、遠くへ飛ばそうと高く上げるよう蹴る習慣がついてしまっていることがあげられるように思います。ここにも実は大人のゴールの弊害(以前コラムで紹介しました)が影響しているんですよね。また、周囲の大人、つまり指導者や保護者の意識もまた、そういう考えを重視してしまっているように思います。試合中の声援で、「ほら!大きく!!」とか、「早く!前へ!!」とか言う叫び声が聞こえてくるではないですか・・・(苦笑)。

 キックのトレーニングの中で、「低く」とか、「正確に」と言う意識があまりにもないがしろにされているように思われます。指導者の中に、インサイドキックに徹底してこだわりをもって指導している方がいらっしゃいますが、これは、今までのキックの「悪い習慣」から抜け出すための、ある意味で反動として生じた指導なのかもしれません。「なにもそこまでこだわらなくても」と批判する方もいらっしゃいますが、今の少年年代の指導状況を見てみる限りでは、そういう現象が現れても仕方がないのかもしれません。むしろそういう極端なくらいの指導の方が、評価できるのではないか、とさえ思ってしまいます。

 日本協会のシュートのトレーニングプログラムでキーファクター(大切な要素)として挙げられている「ボール・ゴール・ボール」の意識。これを応用して、「ボール・目標・ボール」できちんと正確に蹴る意識をもっともっと子どもたちに持たせていきたいものです。ノールックパスだってあるじゃないか、と言う方もいらっしゃるかもしれませんが、前述のような習慣やタイミングがついて初めて、「観る」を含めた様々な感覚で(五感で)、蹴りたい方向や目標を捉えられる様に思います。「低くて・強い」キック、そしてそれを正確に目標に届けるための良い習慣づけ、これからもいろんな方法を使って、子どもたちに与えてあげられたらなぁとおもいます。

【追記】
 参考までにお話しますと、Jリーグの下部組織など、よりレベルの高いチームの練習前の光景になると、プレースキックでの遊びはぐっと減り、3対1とか、4対2とか、いわゆる「鳥かご」によるウォーミングアップなどを見かけるようになります。自然と「判断力」を養ったり、「プレッシャーの中でのキック」を要求される遊びが増えるのですね・・・。


コラム6月7日 練習前の光景 〜選手たちはどんなことをしていますか?〜

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