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WRITE IT LOUD!! ROLL OF ROCKS

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                        1996年10月11日開始

                                  火だるまG

第53回:1998年12月11日

FIRE AND RAIN/JAMES TAYLOR/70 IN SWEET BABY JAMES

君が逝っちまったことを聞かされたのは昨日だった
スザンナ
みんなして僕と君の仲を裂こうとしているね
今朝外に出てこの曲を書いたんだ
誰に贈ろうとしていたのか
忘れちゃったよ

僕は火も見たし雨も見た
永遠に続くのではないか思った
晴天の日もあった
もう友だちなんて見つからないと思った
寂しいときもあった
でもいつでも
君とはまた逢えると思っていたんだよ

僕を見おろしている
神様
僕が立ってられる力をください
僕は明日も生きていなくてはいけないんでしょ
背中が痛むし
死にそうだよ
死ぬ気はないけれどね

安きに流されるときには
僕はいつでも太陽に背を向けている
でも
電話で明日を語り合ったときもあったんだ
甘い夢も空飛ぶ機械も粉々になっちゃったけど

僕は火も見たし雨も見た
永遠に続くのではないか思った
晴天の日もあった
もう友だちなんて見つからないと思った
寂しいときもあった
でもいつでも
君とはまた逢えると思っていたんだよ

君とはまた逢えると思っていたんだよ
また
僕の目の前で何かがチカチカし始めている
君も、火と雨を見たんだろ


 いよいよこの連載もあと10曲。そろそろ個人的な意味においての名曲を並べる時が来たと思われる。ただしこの「ファイアーアンドレイン」は個人的というのにはあまりにポピュラーな1曲であるが。
 ジェームス・テイラーの『スイートベイビージェイムス』を買ったのは、高校1年生の時の冬、1974年の12月だった。おそらく、ニューミュージックマガジンに、このレコードを売っているという広告が載ったんだと思う。1000円だった。
 場所は大船レコードという中古レコード屋で、文字どおり大船のモノレールの乗り場の近くにあった。不思議なのは高校が横須賀の衣笠なんだから、横須賀線に乗っていけば一発なのに、僕は、金沢八景の駅から、神奈川中央バスで、大船に出かけている。僕はきっと学生服を着て街に出るのが嫌いだったんだろう。
 大雨だった。僕はバスの一番後ろの席に乗ってこのレコードを買いに行き。バスの一番前の席に乗って帰って来た。途中で京浜女子大学の黒い制服を着たお姉さんたちがたくさん乗ってきて僕は女性の匂いでむせた。

  少年なりに、この、火と雨というのは何なのだ? と思った。そしていつの日か、オレも、オレなりに、火と雨を見るのか? と思った。

 あれは1987年。

 僕は仕事でギニアのコナクリーという街にいた。熱帯雨林の国の5月だった。途中で日曜日が入り、すっかりやることがなくなった。ギニアには駐在員事務所もなく、出張は一人だった。
 メリディアンというホテルには日本人は僕一人で、たとえ、日本人がいてもしゃべる気はなかった。大雨で大しけ。ホテルの窓から見おろす大西洋の岸壁に水しぶきが上がっていた。
 当時の僕は人生を完全に見失っていた。年をとることが恐かった。
 28歳。いつもオレの人生はこれいいのかと自問自答していた。
 その見失った人生をなんとか取り返すために、僕はある女性に、プロポーズをしてアフリカへの長い出張に出ていた。途中で何回か国際電話を入れ返事を聞いた。自分の人生のこたえを他人に託した。
 バクチを打った。
「もう少し考えさせて」
 それが一貫した彼女のこたえだった。

 本当は旅をしているうちにどうでもよくなっちまっていた。
 見失った人生を埋めるために大事にしようと思ったことが何であったのかさえも見失ってしまっていた。
 彼女の姿や形や声よりも、あの日の、大西洋の水しぶきを覚えている。
 僕はその時に、くり返して「ファイヤーアンドレイン」をウオークマンで聴いていた。
 彼女のこたえが「YES」なら、僕の人生はどうなっていたのだろう?

 彼女から「NO」の返事をもらったのは、コナクリーでではない、それから一週間後の日曜日の、ヌアクショットというモーリタニアの砂漠の嵐の街である。
 ヌアクショットから僕は、同居人のAに手紙を書いた。
「これで人生も終わりだ。世界なんて消えてなくなればいいんだ。」

 しかし、終わったはずの人生で、僕は、Aと、そして工と、コモンストックをやった。
 正解か不正解かは知らないが、初めて見つけた人生のこたえだった。
 人生に終わりなどない。
 世界もきっと消えないと思う。
 僕が、火や雨の記憶を忘れない限り。


僕のこの歌詞にスポットをあてる連載で、取り上げる曲の音楽面が最高に格好いいことは保証します。大音量で10回続けて聴いてみてください。きっと感じるものがあるでしょう。(この企画、文章、考え方などの著作権は一応存在するといっておきます)

 

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