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WRITE IT LOUD!! ROLL OF ROCKS

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                        1996年10月11日開始

                                  火だるまG

第47回:1998年9月11日

MARTHA/TOM WAITS/73 IN CLOSING TIME

大昔の話だ。
彼女は俺の声を覚えているだろうか?
俺は泣かずにすませられるだろうか?
やぁ、やぁ、マーサかい?
俺は懐かしのトムだよ。
長距離でかけているんだ。
金のことなら心配しないでいい。
なんたって40年ぶりなんだから。
さぁマーサ思い出しておくれ。
お茶でも飲みに行かないか。
そしてすべてについて語り合おう。

薔薇と詩と散文に満ちていたあの頃。
僕には君がいるだけで
君には僕がいるだけだった。
明日なんか知らず、悲しみはバッグに閉じこめて、
万一の時のためにしまって置いた。

そう俺も年をとった、君だってそうさ。
旦那は元気? お子さんは?
俺も結婚したことを知っているよね?
君が落ちつける人を見つけたことは
ありがたいこと。
俺たちは若くてバカくて
そしてようやく成熟した。

薔薇と詩と散文に満ちていたあの頃。
僕には君がいるだけで
君には僕がいるだけだった。
明日なんか知らず、悲しみはバッグに閉じこめて、
万一の時のためにしまって置いた。

俺はいつもおしつけがましく
たぶん今でもそうさ。
でも本当のポイントは
俺が男だったっていうこと。
俺たちの付き合いには意味なんて必要なかった。
マーサ
愛しているよ。わかるかい?

薔薇と詩と散文に満ちていたあの頃。
僕には君がいるだけで
君には僕がいるだけだった。
明日なんか知らず、悲しみはバッグに閉じこめて、
万一の時のためにしまって置いた。

びくびくしながら
君に近づいていった
あの静かな夕べを思い出すんだ。


 73年といえばたったの15歳。『CLOSING TIME』の1曲目に入っている「 'OLD 55」に魅せられて。当然作者に興味を持つようになり「ニューミュージックマガジン」で輸入版の情報を入手して、このLPは当時横浜西口にあった岡田屋というデパートの6階ぐらいに入っていた「スミヤ」で買った。
「スミヤ」のレコードにはジャケットの左上に、緑とか黄色とか赤とか橙色の丸いシールがはってあって、それで1880円くらいから2480円くらいまでの値段がわかるようになっていた。今の回転寿司のお皿みたい。
 さすがに『CLOSING TIME』がいくらだったのかは覚えていない。高かったと思う。大学時代にだってトム・ウエイツを聴いているやつなんてそんなにいなかったし、いつからこんなに有名になったんだろう? ジム・ジャーミッシュのおかげなのだろうか?
 とにかく中3のガキは、ひぃひぃいってこんなLPを探して都会を走り回り、はぁはぁいって部屋のヘッドフォーンで繰り返し繰り返しこれを聴いていたわけだ。自分でいうのも何だけど、昔のガキは渋かったよね。
 この間店でこの曲のリクエストがあって、久しぶりに大音量で聴いたら、彰が僕に「このLPはもうダメだな。すかすかになっている」といった。僕は彰のような音楽を聴くのに適した耳を持っていないのでよくわからないのだが、白蟻に喰われて外側だけ残っている樹木みたいになっているらしい。それだけ繰り返して聴いたということなのだろう。
「ヘッドフォーンで聴けば問題ないよ」とも彰はいっていた。僕の部屋にはもう10年もステレオもヘッドフォーンもない。
 この曲を聴くといつも思い出す光景がある。1985年の4月だからもう13年も昔のことだ。
 僕はエジプトに派遣されることになり、結局、当時付き合っていた女性と壊れてしまった。それでどうしてなのか、それから1年ほど前までお付き合いしていた女性に、エジプトに行って日本を離れることを知らせようと思った。
 僕も弱っていたんだろうね。色々。
 それで思いがけずに、僕からの電話を受けた彼女は僕に「どう、元気?」って訊いた。それだけで僕は言葉を失って、結局、「いや、なんでもないんだ」っていって、電話を切った。
 電話は会社からかけた。僕は背広を着ていた。外は晴れていた。
 それからエジプトに行くまで、その女性から2〜3回、会社に電話がきて、その度ごとに僕は留守で、僕はコールバックを求めるメモを無視して、結局、電話をしなかった。
 今でも、そうだけど、この曲を聴くたびに、昔お付き合いした女性たちと自然にお話ができるようになるためには、40年はかかるのだな、って思う。


僕のこの歌詞にスポットをあてる連載で、取り上げる曲の音楽面が最高に格好いいことは保証します。大音量で10回続けて聴いてみてください。きっと感じるものがあるでしょう。(この企画、文章、考え方などの著作権は一応存在するといっておきます)

 

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