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WRITE IT LOUD!! ROLL OF ROCKS

since 97.5.01since 97.5.03

                        1996年10月11日開始

                                  火だるまG

第36回:1998年3月25日

CYPRUS AVENUE/ VAN MORRISON/( 68 IN ASTRAL WEEKS )

だから僕はまた
キプロス通りに来た
僕には似合わない
車に乗って
丘の上のマンションにつく頃には
僕は気が触れてしまうかもしれない
動悸が止まない
足がぐらぐらする
下校する少女たちの姿に
リズムを感じる
過ぎていく秋を嘲笑するようにして
落ち葉がひとつひとつ落ちていく
舌がもつれる
いつでも何かを言おうとする度に
僕の舌がもつれる
僕の心の中で落ち葉が落ちていく
チェリーワインを持って
河に行こうと思う
あの孤独に溢れる駅さえ
通りすごすことができるなら
チェリーワインを持って
線路を歩くんだ
あの人が帰ってきた
虹色のリボンで髪を束ねて
6頭の白馬に荷物をたくさん積んで
あの人が祭りから帰ってきた
またキプロス通り行けさえすれば
僕は似合わない車に乗っている
僕は君をまっすぐに見つめている
街路樹の通り
風の中を
雨の中を
歩き続ける
木漏れ陽の中を歩き続ける
だれも僕の愛をとめられない
とても若く、恐いもの知らずだった
14のあの頃

 


身長182CMの大男、Mは難しい男だ。
僕には悪い癖がある。学歴とか職歴とか住まいとか、他人のプライベートなデータを知りたがるのである。別にそれで物事を決めつけたりはしない。どうこうということではないのだ。ただ、ある人間となんらかのかかわりを持ったら、あくまで自分なりにだが、僕は重層的にその人間を理解したいのだ。
Mが初めてコモンストックに来た6年前。そんな態度の僕に、Mは「そんなことを聞いてどうすんの?」と言った。正論である。僕は沈黙した。
それからMは2年ほど店に顔を出さなかった。僕もMのことを忘れていた。
Mがまた店に来るようになった。前よりもはるかに頻繁にである。コモンストックは極端に客の少ない店であるので、Mがたったひとりの客という夜も何回かあった。Mとは会話が成立しにくい。だから僕はMにたくさんの音楽を聴かせた。「何? バン・モリソン知らない? それはお気の毒だ。それではお聴かせしましょう」それでバン・モリソンだけで3時間とかそんな具合である。
不思議なことにMはそんな僕の押しつけがましいリコメンドのいくつかを受け入れた。

そのうちに、Mとも適当に話すようになった。極端に客の少ないコモンストックにはより極端に女性客が少ないという話題になった。正論である。
それでは参考のために、他の同業者の店を覗きに行こうと約束して、月日が流れた。僕も忙しかった。
ある晩Mが「僕も何かを書いているのだ」と言い出した。「それなら見せてみな、いいかげんな批評をして上げるから」と僕は言った。
Mは律儀に僕に原稿を送ってくるようになった。
すっきりしたいい文章である。綺麗な器である。あとは中身に何を入れるか。中身と器、どちらが大事か、これは物書きにとり永遠の問題である。昔の僕なら、それは中身だ、と言い切った。しかし多少の経験を経た今、いや、器だと僕は思う。人間は人間である限り、だれでも正直でありさえできれば、多少の中身にたどり着ける。しかし器の形成はセンスなのだ。
それで僕は一度、Mと思いきり付き合おうと思った。言葉で何かを伝えるのはばかげている。匂いや表情や温度や風力や、その他諸々のことで、Mに何かを伝えたいと思ったのである。思えばMとももう長い。これもなにかの縁、運命なのだろうと思った。
それで僕とMは「高円寺ロックバーツアー」出かけたのだ。
僕はこの短い旅の間に俳句を二首詠んだ。
桃園川遊歩道を歩いている時、かすかに猫が鳴いた。どれどれどこどこと捜索すると、塀際の闇の中でつぶらな瞳の白い子猫が正座していた。手を伸ばしても寄ってはこなかった。

宵闇に挨拶だけの春の猫

環七通りを高円寺陸橋から下っていった。もう9時くらいだった。左手の日通の営業所で、引越シーズンに備えて、だれかが一生懸命、フェンスに沿って「引越は日通」と記した幟をペンチと針金で結わえていた。地味な仕事なのに、熱心によくやるなと思って暗闇に目を凝らすと、作業着姿が、思いの外若い男だったのではっとした。

旗ちぎれ風吹け呼べよ新春

僕は、Mと高円寺の街で一晩、しこたま酒を飲み、金をつかった。
来週はダイエットを兼ねて部屋でおとなしくしていよう。
それでは詳細はMのレポートで。
3月21日、午後7時待ち合わせ場所の中野駅改札口でGと落ち合う。 歩き出すなりGは僕が彼にEメールで送ったエッセイ(出張記、松江編)のコピーを2部 取り出すと1部を僕に手渡しこう言った。
「まず今日の趣旨を言う」
「一つはお前の出張記についての批評、そしてたくさん歩く」
この時点ではGのプランの全体像がつかめない。 自分の文章を面と向かって批評されることへのかすかな緊張を感じただけだ。
「とりあえずトンカツ食いにいくぞ」とG。 ブロードウェイ脇の「神戸亭」に入る。
注文は二人ともカツ定食。
トンカツを食べるのは久しぶりだ。
僕は魚中心のあっさりした食生活なので。
出てきたカツ定はカツ、キャベツ共にかなりのヴォリューム。 Gはパクパクとたいらげライスのお代わりまでしたが、僕はキャベツを3分の1とライス をほんの少し残した。
美味。
「神戸亭」での会話で中野から東高円寺そして高円寺へと歩き、ロックバー巡りをするこ とが判明。
「さあいくぞ」
まだ腹もこなれないままGの速いペースについて歩き出す。 食べ過ぎだ、完全に血液が胃に行ってしまってる。
僕も歩くのは相当速い方だが、Gはその上をいっている。 「これでも(普段より)遅い方なんだぜ」G
あっという間(10分弱)で東高円寺エリアに入る。 こんなに近かったのか。
「UFOクラブ」を覗くがライヴだったのでパス。
一軒目、高円寺商店街脇の「クロスロード」。 店の前で「一杯だけだからな」とG。
何杯飲むことになるのだろう。
もう少しトンカツをセーヴしておくんだった。
6、7人用カウンターだけの小さな店だ。
照明は薄暗くいかにもロックバー然としている。 音量は大き目で、僕が純粋に音楽だけを楽しむ場合の最低ラインはクリアしている。 60、70年代のロックが流れる。
客1人。
二人共生ビールを注文。
そしてGは僕の出張記の結び方が意図的なものなのか訊ねた。 偶然だ、たまたまそういうことが起こったのだと答えると、それでは芸がないと痛烈にこ きおろされた。
それについてはまたじっくり考えてみよう。
そして出だし部分について、まずい箇所を幾つか指摘される。 まあもっともな指摘内容だ。
「とりあえずこの場ではここまで」G
・・・各店で少しずつ吟味するというプラン判明。 気持ち良く酔えるだろうか。
「行くぞ」G
いい店だった。
2軒目、「モスライト」。
看板にカルトミュージックと書いてある。
ここもカウンターだけで照明はやや明るめ。 マスターは三浦じゅんに似ている。
知らないカルト系(というのだろう)ミュージックが流れる。 音量は小さ目。
客無し。
Gはバーボンロックとチェイサー、僕はハイネケン。 また幾つかの指摘事項あり。
腹が張って苦しい。
「行くぞ」G
3軒目、「ジェスロウ」。
ここもカウウンターだけ。
店内は明るい。
客無し。
マスターは体格が良く、髪を後ろで束ねている。 G、バーボンロックとチェイサー、僕、オールド・グランダッドのロックとチェイサー。 ジャニス・ジョプリン・クラシック(ジャニスがカヴァーした曲のオリジナル集)をかけ 始めた。
ひとしきり批評タイム。
「行くぞ」G
雨が降り出した。
ジャック・ケルアックの「オン・ザ・ロード」が不意に頭に浮かぶ。 行動範囲の広さ、スケールでは比ぶべきもないが、その疾走感においては通ずるものがあ る。
4軒目、「トルバドール」。
ビルの2階にあり、内装は新しくこぎれいだ。 テーブル席のみで4、5卓。
広いし客も6、7人いる。
ハードロック系の店らしい。
UFOの古いライヴがレーザーディスクで上映されている。 音量は小さい。
マスターはブラックのジーンズにトレーナー。 そしてハードロックっぽい長髪。
G、バーボンロックとチェイサー、僕、ワイルドターキーのロックとチェイサー。
音楽がリトル・フィートの「ディキシー・チキン」に変わる。 Gと思わずニヤリ。
コモンストック的世界を二人とも無意識に連想したのだろう。 これはGへの配慮。
Gがマスターや客とストーンズ談義。
ぼくもストーンズ公演に行ったのだが、最初のトンカツ屋でひとしきりGにコメントして いるし黙って聞く。
「行くぞ」G
5軒目、「ZiZiトップ」。
ウッディーでとても広く、琥珀色の照明が居心地良い。 音量はちょっと物足りない。
Gの飲み友達が1人で店に出ていた。
客2、3人。
G、僕、共にJ・Wダントのロックとチェイサー。 飲みなれている酒はシックリくる。
僕はコモンストックにダントのボトルをキープしているのだ。 この酒を知ってからすっかり酒量が増えてしまったのが難点。
批評タイム。
「ちょっとこの表現引っ掛かるんだよな」G
「だから・・・・・・・・・なんだよ」、と思わず僕。
「そんなの書かなきゃ分かんねーじゃねーか!」G
そりゃそうだね。
ハハハ。
最後のページは偶然にしろ良く出来ているとお褒めの言葉を頂戴する。 これにて本日の吟味終了。
別にそれまで緊張していた訳ではないが、マナ板の上から降りて一応ホッとする。
腹もやっとこなれてきて、初めて突き出しを全部食べた。
マスターが姿を現すとGがロックバー談義。 僕は黙って聴く。
「もう一杯飲むぞ」G
2人共同じものをお代わり。
初めて2杯飲んだ。
「トルバドール」でさっき会った客が入って来る。
「あれっ、さっきもいましたよね」
「ロックバー巡りしてんだ」G
彼はその意義をどう評価したものか迷ったように曖昧な表情を浮かべる。
しばらくして「行くぞ」とG
6軒目、「ターンテーブル」。
ラストだ。
店は広くとてもお洒落な内装で、ほぼ満席状態。 どうにか2人分のテーブル席を確保する。
G、バーボンロックとチェイサー、僕、エズラブルックスのロックとチェイサー。
「これでロックバー巡りはお終い」
「後は飲むだけだ」G
シカゴ、イエス、クイーン等がかかっているが、客のざわめきにかき消され良く聴こえな い。
「ここまで来て一番強く感じるのは、いかにコモンストックが素晴らしいかということだ よ」「理想郷さ」、僕。
「ありがとう」G
2人共同じものをお代わり。
喧騒の中で僕達は結構色んなことを話した。
これはカウンター席でないから、Gがマスターと話を出来ないということもあるのだが、 それだけでなく、この若者達で賑わうお洒落なロックバーの中でGと僕が強い連帯感を感 じたからだろう。
Gがリクエストしたヴァン・モリソンの「サイプラス・アヴェニュー」が流れ始める。 しかしブ厚いざわめきの層によって、この曲の繊細なフィーリングはすっかり削ぎ落とさ れ、何だか物悲しさを感じてしまった。
Gも満足してはいないのだろう。
「行くぞ」G
これにて東高円寺ロックバー巡り終了。
しかし番外編で「バンブー」、「ネブラスカ」有り。 不思議な世界に触れることになるのだがまた別の機会に。
Did you hear about the midnight rambler?
 


僕のこの歌詞にスポットをあてる連載で、取り上げる曲の音楽面が最高に格好いいことは保証します。大音量で10回続けて聴いてみてください。きっと感じるものがあるでしょう。(この企画、文章、考え方などの著作権は一応存在するといっておきます)

 

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