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WRITE IT LOUD!! ROLL OF ROCKS

                        1996年10月11日開始

                                  火だるまG

第15回:1997年5月11日

STILL CRAZY AFTER ALL THESE YEARS/PAUL SIMON(75 IN STILL CRAZY AFTER ALL THESE YEARS )
RAGS AND BONES/THE BAND (76 IN THE NORTHERN LIGHTS SOUTHERN CROSS)


昨日の夜、路上で昔の恋人と出合った
彼女は僕を見かけて嬉しそうだった
僕も微笑んだ
昔のことを話した
一緒にビールを飲んだ
しかしなんにも変わっちゃいない
いまだ引き続き狂っている

僕は世間と容易に馴染むような
タイプの男ではない
それより慣れ親しんできたことを大事にするのが好み
今更耳元でささやくような
ラブソングに胸を焦がすこともないし・・・・・・
しかしなんにも変わっちゃいない
いまだ引き続き狂っている

朝の四時に
糞をたれる
あくびして
人生なんてくたばっちまえばいいと願う
しかし反省なんて絶対しない
どうして僕が?
どうせいつはみんなおわっちまうんだ

窓辺に座って
行き往く車を見ていると
いつかとても晴れた日に
自殺しちまうんじゃないかという危惧を感じる
でも僕は僕のような奴のくだす
判断には従ったりしない
しかしなんにも変わっちゃいない
いまだ引き続き狂っている





ゴールデンウイーク、店も休みで僕も4連休。2週に一度の浅草の病院の帰りにミスタードーナッツに入ったのは、無性にフレンチクローラーを喰いたいという衝動にかられたことがメインだが、サブとしては、店から通りに流れ出すフリートウッドマックの「ドントストップ」が耳に留まったからでもある。僕の部屋には震災用の携帯ラジオがあるだけで、僕はもう4日間も音楽を聴いていない。
ミスタードーナッツのBGMは、その後「チャイナグローブ(ドゥービーブラザーズ)」、「ロッタラブ(ニコレッタ・ラーソン)」、「ニューヨークシティセレナーデ(クリストフアー・クロス)」と続いた。僕は第三の目的、夕刊読みを遂行しながら聴いているのだが、音量が小さいような大きいような微妙なレベルなので、かえって神経が音楽にいってしまい、夕刊が進まなくてイライラする。 それなら音楽に耳を立てようかと眼を閉じる。先の4曲は聴きとれたのに、合間に入るDJの言葉が全然聞き取れない。さっきは、ここで鳴っている音楽を聴いたのではなく、おそらく僕の頭の中のジュークボックスが鳴ったんだろう。客は全部で18人いるが、僕の他にここで音楽を聴いている人はいない。おしゃべりしている人も多い。
それから知らないソウルの曲が2曲、そしてカントリーの曲が2曲と続いた。DJが「ゴーゴーエイティーズ」といっているから、みんな80年代の曲なのだろう。2曲目のソウルでは「チュルチュル」というバックコーラスがフィーチャーされていたからアースウインドアンドファイアーがプロデュースしたエモーションズの曲だと推定される。都会の白人の好み、都会の黒人の好み、田舎の白人の好みとバランスよく曲が流れていることから、これはアメリカのミスタードーナッツで使われているBGMをそのまま使っているのだな、次は田舎の黒人かしらん? と思っていると、「ドントフォゲットアバウトミー(シンプルマインド)」と、またヤッピーの好みに戻った。田舎の黒人は音楽を聴かないのか? それとも田舎の黒人はミスタードーナッツには行かないのか? 次の「ベティデービスアイズ(キム・カーンズ)」の回転数やアレンジがオリジナルとは全然違う。そして次にベンフォールズファイブの「バトルオブフークゥドケアレス」がかかった。こんな日本でしか流行らなかった曲がかかるということは、このBGMって日本製なの? それにこの曲去年の曲でもろに90年代じゃんなどと思っているうちに、曲は「ロングトレインランニング(ドゥービーブラザーズ)」、「イッスソーイージー(リンダ・ロンシュタット)」とまた既定の路線に戻った。
だれかの視線を感じる。注意深く感ずかれないようにあたりをうかがう。
カウンターの向こうの端でかなり綺麗な女性がこっちをちらちら覗いている。こんなところで目をつむったり開けたりを繰り返して、広げた店のナプキンに汚い文字でせっせとメモを取っている中年男に好奇心を働かすとは偉い、いっちょこの歳のころ30前後と思われる美貌の彼女に声でもかけてやろうかと思ったら、しっかり左手の薬指に指輪があったので、僕は一本だけ煙草を吸い、地下鉄の中で残した新聞を読まなくちゃななんて思いながら、店を出て京橋に映画を見に出かけたのでした。


しかしなんにも変わっちゃいない
いまだ引き続き狂っている

聴かれて、流行って、カラオケで唄われて、そしてすぐ忘れ去られる現代の音楽も露骨な消耗品という感じで可哀想だけど、せっかくまぁまぁの音量で鳴っているのにだれもそれを聴いていないミスタードーナッツのBGMはそれ以前という感じでたいへん悲しく思いました。どうせならオリジナルなんて使わないでポール・モーリアとかリチャード・クレイダーマンかなんかの、イージーリスニングバージョンにしてくれたほうがいいとも思いました。新聞も読めるし、しかしなんにも変わっちゃいない、いまだ引き続き狂っているという自分を確認せずにもすむしね・・・・・・。



タクシーをつかまえてフォウテンヘッドまで
安っぽいネオンサインのアーケードを走る
イタリア系の若者が車の波をすいすいぬけていく
顔にペインティングした若い女性たちがパレードしている
カドの新聞の売り子のガキが特ダネと叫んでいる
バイオリンひきが鉛筆を売っていて
ぶら下げている看板には
めくらにお恵みを

こんな道がどこまでも続く
雨も降ってきた
バイオリンひきのめくらのラグタイマーさんよ
あんたの音楽は俺にいろんなことを思い出させるぜ
街にはいたるところに音楽があり
どこにいたっていつも俺の頭の中で鳴っている
ラグタイム、カスタネット、そして昔の街の音楽
聴いてみな
俺のいっていることがわかるから

朝にはトロリーバスがチンという音を立てて走る
昼には警笛、ポッポー
夜には猫が喧嘩
見物の犬は月に吠える
ミカン箱にのった伝道師が率いる救世軍楽団
砂利道を鳴らす足音はアイスクリーム売りだ

こんな道がどこまでも続く
雨も降ってきた
バイオリンひきのめくらのラグタイマーさんよ
あんたの音楽は俺にいろんなことを思い出させるぜ
街にはいたるところに音楽があり
どこにいたっていつも俺の頭の中で鳴っている
ラグタイム、カスタネット、そして昔の街の音楽
聴いてみな
俺のいっていることがわかるから

いまだに同じビートを鳴らしている研磨機とスパナ
靴磨きのガキは足でリズムを取りながらせっせと布を動かす
教会に行って
日曜日の聖歌を聴いてみな
天にもとどかんという歌声には
火事場に向かう消防車のサイレンも顔負けだから

こんな道がどこまでも続く
雨も降ってきた
バイオリンひきのめくらのラグタイマーさんよ
あんたの音楽は俺にいろんなことを思い出させるぜ
街にはいたるところに音楽があり
どこにいたっていつも俺の頭の中で鳴っている
ラグタイム、カスタネット、そして昔の街の音楽
俺のためにもう一曲やってください、お願いします。



僕のこの歌詞にスポットをあてる連載で、取り上げる曲の音楽面が最高に格好いいことは保証します。大音量で10回続けて聴いてみてください。きっと感じるものがあるでしょう。(この企画、文章、考え方などの著作権は一応存在するといっておきます)


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