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                     1996年10月11日開始

                               火だるまG

第21回:1998年9月11日

『鬼畜大宴会/熊切和嘉/98』


 その昔に『気違い部落』という映画があった。『鬼畜大宴会』はそれ以来のインパクトのある映画タイトルである。
 『気違い部落』は1957年の渋谷実監督の作品で、気違いとしか思えない変人たちが棲息する集落のお話だった。しかし、気違い、も、部落、も禁止用語だな。こいつはやはり凄い。
 『気違い部落』で圧倒的だったのは、山形勲、信欣三、藤原釜足、三井弘次、伊藤雄之助、須賀不二夫、伴淳三郎、淡島千景、清川虹子、文野朋子、加原夏子、荒木道子といった日本映画史、日本新劇史に輝く大俳優たちが、酒呑んで白目向いて踊り狂うシーン。
 日本の祭りの骨格というか底流みたいなものがくっきりと見えた気がした。あぁ日本人は時にこのように、ハレ、の祝祭の時間を持ち、辛く苦しい、ケ、の日常に耐えてきたんだなぁ、みたいな感慨であった。
 その『気違い部落』のそのシーンを思い出したのは、多分、池袋のシネロサで去年の正月に、実相寺昭夫監督の1971年作品『曼陀羅』を見たときだった。
 『曼陀羅』は非常に観念的な映画で、新左翼系の若者たちが、エコロジーとフリーセックスのユートピアを模索する話だと記憶するのだが、そこでも、岸田森、清水紘次、草野大悟などという、当時の小劇場を代表する大俳優たちが踊り狂うというシーンがあった。
 しかしその踊りにはもう振り付けがついていて、見ていて辟易するほど臭かった。

 さて『鬼畜大宴会』である。僕がこの映画を見て思い出したことが上記のことだった。
『鬼畜大宴会』は新左翼系(らしい)集団が、ひとりの不細工なサセ子(演ずる三上純美子氏は実にきれいな女性)によってグチャグチャにされ最後にはお互いでリンチしあうという映画である。
 女が股を開けば男はいいなりであるというテーマには同感であるが。女も見る可能性のある映画というメディアで、そんなことを公言するなんて、ますます、バカな女がつけあがるからおよしなさいな、まったくもう、と考えるので、見所は筋ではなくて、吹き出る血の量とか、こぼれた脳味噌がいかに上手に擬装されているかといったところになるのだろう。そしてそれには僕は興味がない。
 それ以上の論考は深読み、あるいは親切が過ぎるというものだ。僕は親切なほうだと自負するが、親切すぎるほうではない。
 ひとつだけいえば、この映画に出てくる、鬼畜たちは踊らないということだ。彼らが踊ってくれれば、僕ももう少し親切になれるのにとも思うし、もしかして、踊りのシーンがない、ということがきわめて現在的な何かを象徴しているのかもしれない。
 ちなみに僕はいつでも踊ります。

(この企画連載の著作権は存在します)

 

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