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                     1996年10月11日開始

                               火だるまG

第19回:1998年3月25日

『東京日和/竹中直人/97』


起きたら3時だった。天気も悪いので何もする気が起きない。不調である。不調になると物事がてきぱきと進まない。朝刊を読み切るのに3時間もかかるようになる。合間合間に音の消してあるテレビで野球を眺めたりニュースを眺めたりするからだ。報道特集でサリドマイドの男性のパラリンピックでの健闘についてのレポが始まったので音を入れる。奥さんと娘さんたちの真摯な生活態度に打たれる。結婚する前に、人はいろいろ言ったが、好きな人と一緒に暮らせるのが嬉しいと、ただそれだけだったと、健常者の奥さんは語っていた。上の娘さんが父親のスキーウエアの襟をなおしてやり。寒くない? と尋ねた。舌の娘さんが父親の足下でスキー靴を抱きしめていた。少しもらい泣きをする。
だれかがだれかを真剣に愛している姿にはいつの日にでもどうしようもなく心打たれる。 それで、この怠惰な時間にもせめてもと映画にでかけた。
『東京日和』、去年の年末にホンの短い付き合いに終わった女性とでかけ満席でパスしたままになっていた作品である。
 スジは妻が狂っていった男の述懐。この男はアホだ。人はひとりだけ独立で狂うのではない。誰か人が狂う時、まわりの人間は自分がその理由であることを知るべきである。奥さんを狂わせてしまう男の駄目さが全然描かれていなかったが、それはモデルである荒木氏のせいではないだろう。竹中氏の才能がそのレベルということ。
 結局僕は、映画を観ている間、短い付き合いに終わった女性のことをホンの一瞬たりとも考えたりしなかった。その程度の縁だったということなのか。しかしそれなりにきちんと付き合ったという気もする。人と人との縁は、太いもの、細いもの、長いもの、短いもの、熱いもの、冷静なもの、と、いろいろあって、その限りのある運命の中でベストを尽くせばいいのだと思っている。
それ以外には有り得まい。
 映画からの帰宅時、路地裏でふだん懇意にしている2匹の野良猫がみやぁみやぁ泣いておで迎えしてくれる。片っ方が右から片っ方が左から勢いよく走ってきて、僕の愛撫の順番を競う。猫なで声と恫喝の雄叫びが混在して困ってしまう。猫でさぇ、このていたらくだ、より複雑な愛情感覚を身につけてしまった、人間が狂うのも当たり前だ。(この企画連載の著作権は存在します)

 

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