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                     1996年10月11日開始

                               火だるまG

 

第15回:1997年12月25日

 

1997年に見た映画を振り返る

 僕個人として、1997年を振り返ると、それは、圧倒的な飲酒の年だったといえるだろう。僕たち、1960年前後に生を受けたパンクロック世代は、ブランクジェネレーション(信じるもののない世代)と呼ばれることもあるが、この1997年こそはまさにブランク、ほとんど記憶に残らない1年になる、そんな気がする。ただし、それは、映像とか言葉のレベルでの記憶であり、うまく言葉や形にならない、感情レベルの記憶で言えば、97年は実に豊饒な感触を僕に残した年であった。酒には、おのれの魂との交信を促すという力が、確実にあるのである。
ど貧民のくせに、毎年2〜300本の映画を、ジョギング感覚で過去10年ほど見続けてきた僕であった。しかし、この97年は、生活を維持するためのバイトの激化により、映画館のあいている時間には身動きがとれない状態が続き、ようやく自由になる真夜中には、アルコールの海をバタフライで泳ぐという生活に没頭した結果、59本の映画しか鑑賞せずという結末に至った。
 僕には、年間1000本の映画を見るという、友人が幾人もいて、彼らを前にすれば、白旗を掲げ、僕はもはや映画ファンとは呼べないと自白せざるを得ない状況ではあるが、不定期連載では触れなかった作品の中から、そんな、僕の、感情の記憶に残った今年の映画たちについて、いくつかの再生を試みたく思う。もちろん、酒の力をかりてである。

 ぬるぬる燗燗/96/西山洋一

 もしも間違っていたら、真の邦画ファンの皆さんすいません。
 本作は、おそらく、本年物故したパキさん、藤田敏八監督の最後の出演作である。話は、酒飲み男のフェアリーテール。最高に美味な熱燗を供することに人生をかけた男が、発見したその方法とは、処女に酒の入れ口と出口のふたつの穴のあいたレオタードを着させ、一生懸命、ヒンズースクワッド、自転車こぎなどをさせる、すると、レオタードの内部で汗やら愛液やらと混ざって、最高のぬる燗ができるというもの。もちろん酒の出口の穴は、あそこにあいているのである。処女じゃなくなると、ひどくまずいものになるというのが落ち。ウーマンリブ団体あたりから、クレームを付けられても、申し開きのできないような話だが、超マイナーなので問題はない。
 実は、本作は、リメークで、初回の時には、主人公「夢殿」(これもトルコ、もとい、ソープランドによくありそうな名前だよね)を演じたのは、かの、大和屋竺だという。おそらく、脚本、音楽とも大和屋だと思われるが、手持ちの資料をひっくり返してもわからなかった。いいかげんですいません。
 と書いた、ほぼ1年後に下記のメイルをいただきました。下記が真実です。
 Date: Thu, 05 Nov 1998 14:29:55 +0900
 From: 島田 元
 To: TB6H-NSKW@asahi-net.or.jp 
 Subject: 「ぬるぬる燗燗」について

 はじめてお便りします。脚本/演出家の島田と申します。「ぬるぬる燗燗」についての、HPの記事、読みました。パキさんの最後の出演作というのは、間違いです。少なくとも、このあと西山洋一監督が撮った痴漢白書」シリーズの劇場版(正確なタイトルは忘れました)に、ご出演されているはずです。脚本・音楽は、大和屋さんではなく、オリジナル(テレビ版)、リメーク(映画版)ともに、私、島田元です。ちなみにオリジナル版の脚本は、田中淳氏との共同名義です。主題歌を歌っているのは確かに大和屋さんですが、作ったのは私です。「夢殿」というのは、ソープっぽい名前と言うより、かつて大和屋さんが何人かと共同で鈴木清順監督のために書いた未映画化シナリオのタイトルから採りました。と、いろいろ書きましたが、採り上げて頂いたのは嬉しいです。

たまあそび/96/大木裕之

 友人の南木顕生の脚本。オール四国ロケで、子規やら夏目やらという名前をつけられた美少年たちが、野球に興じるというホモ映画。ふたりの野球少年の関係性を、セカンドとショートの連係プレーのみに収斂して、イメージを作成したのは、大いなる手柄といえる。

花嫁の寝言/33/五所平之助

 大学の同級生5人のうち、4人が落第、ひとりだけ卒業就職した男が、お嫁さんを貰い、そのお嫁さんの寝言が、かわいくてたまらないんだとのろける。いきり立つ他の4人、そのうち3人は、新婚宅に押し掛ける、ひとりの不良は女の待つ酒場へ、新婚のお嫁さん、大酒を飲んで騒いでつぶれた3人を眺め、これじゃ寝られりゃしないというので、亭主は、その3人の下宿に逆に泊まりに行こうという。それで出かけると、ちょうど、その不良もご帰宅の時間。不良これはチャンスだと、俺だけが、それを聞けるのだと奮い立つが、そのあまりのかわいさに、一睡もできずにグロッキーという、たわいもない話。もちろん、映画では、花嫁の寝言の実演は公開されず、その寝言を聞いて、悶々と苦しむ、男の表情で、いかにそれがかわいらしいものかを推測するのみ。花嫁、当時24歳の田中絹代。まわりの能天気な男たちも、斎藤達雄、江川宇礼雄など、大俳優ばかり。このたわいのない軽さが現代にはかけている。

 姉妹どんぶり・抜かずに中で/97/吉行由美

 女優としても、監督としても、成功を期待したい女流の2作目。女性の目から、男と女の間友情は成立するのか? セックスを絡ませた友情は成立するのか? という、とてつもなく深い問題を見つめている。それを見せられる男として、自分には、女性の友人がいるのだろうか? と、自問をせざるをえなくなる映画。少なくとも僕には女性の友達はいない。フレンチクローラーやら、エリック・ロメールやら、気恥ずかしいフレーズが並ぶところも、かぇって新鮮な気がしました。

 以上。サヨナラ97年。もう会えないね。

 (この企画連載の著作権は存在します)

 

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