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タイトルの役割を理解する

 写真に限らず、たいていの作品には言葉によるタイトルが付けられます。こうしたタイトルですが、とくに写真では、どのような役割があるのでしょうか。それを簡単にまとめてみました。

タイトルが付いて作品となる

 写真に付けるタイトルは、なくても構わないものではありません。作品をより魅力的なものにするという、大事な役割を持っています。タイトルの主な役割は、次のとおりです。

・表現したい内容をより明確にする
・作品の魅力をタイトルで増す
・作品を特定することが容易になる(会話などで)

 写真に限ったことではありませんが、作品はいろいろな見方ができます。その結果、作者が狙っているのとは異なる方向で観られる状況も生じてしまいます。その可能性を少しでも減らす目的で、タイトルの言葉を利用します。タイトルを付けることで、表現したい内容に近づけるわけです。

 写真は映像ですから、何でも伝えられるわけではありません。苦手な内容に関しては、タイトルの言葉で補う方法を用います。つまり、映像と言葉の組み合わせによって、表現したい内容を分かりやすく伝えるのです。結果として、作品の魅力をタイトルが増すことになります。

 タイトルを付ける際には、以上の2点を強く意識して、最適な言葉を選ぶことが極めて重要です。せっかく撮った写真ですから、魅力ができる限り増す形でタイトルを付けましょう。

 表現には直接関係のない理由でも、タイトルは役立ちます。どの作品なのかを特定するための呼び名としても使えるからです。作品について何かを語る際、タイトルの言葉で呼ぶことにより、特定の作品を指すことが可能となります。同じような傾向の作品が何点もある場合、それぞれを特定できるように、タイトルの付け方を工夫するのも大事なことです。

タイトルの言葉で表現を手助けする

 タイトル付けで考えるべきことを、もう少し掘り下げてみましょう。タイトルにする言葉を決める際には、次のような点を考えます。

・写真(画像)では伝えにくい内容を言葉で補う
・写真の観る範囲(方向)を限定する
(これらが明確に区別できるわけではない)

 タイトルとして用いるのは、文字を使った言葉です。そのため、作品にタイトルを付けることは、写真に言葉を加えることを意味します。写真と言葉は特徴がまったく異なりますから、言葉で補うことで、表現できる領域を広げられます。

 抽象的な概念、社会の様々な要素など、伝えたい内容が画像には苦手な場合、言葉で補うことを強く意識します。写真に不足する内容は何なのかじっくりと見極め、不足する部分を言葉で表してみます。その言葉をタイトルに加えることで、写真だけでは不足する要素を補えます。

 写真の中には、いろいろな見方ができるものもあります。作者として、そのような見方をしてほしくない場合、タイトルで観る範囲を限定できます。タイトルの言葉を上手に選ぶことで、観る範囲や方向を強制的に狭くするわけです。

 さらに、選ぶ言葉によって、範囲や方向の広さを調整できます。たとえば、男性を写した写真で考えてみましょう。ただ「男」と付ければ、かなり広い範囲の見方が可能で、ほぼ自由に観てもらう結果となります。そうではなく「悲しむ男」と付ければ、悲しんでいるという範囲に限定する効果が得られます。その中間として「想う男」と付ければ、悲しみ以外の感情も対象範囲に含まれ、「悲しむ男」よりも範囲は広がります。逆に「友の死を悲しむ男」と付けたら、「悲しむ男」よりも狭い範囲に限定されます。このように、観て欲しい範囲を決めるのも、タイトルの重要な役割です。

 通常は、写真に写った内容に合った言葉を選びますが、まったく逆の言葉を選んで表現に用いることも可能です。この種の特殊な表現方法も、タイトルがあるから可能になるわけです。

 どのようなタイトルを付ける場合にでも共通する、大事なことがあります。それは、自分が伝えたい内容(つまり、表現意図)を明確にして、それに最適な言葉を選ぶことです。タイトルを付ける際には、表現意図を強く意識しましょう。

例1:躍動(言葉で補う)

 抽象的な内容を表現するとき、写真よりも言葉の方が適しています。そのため、写真だけでは表現内容を簡潔に表せません。そのようなときは、言葉を使って補います。

 当然ですが、タイトルに用いた言葉と、写真を観て感じる印象が、合っていなければなりません。そのため、どのような印象に仕上げるのか、撮影時に決めておくことが大事です。タイトルに使う言葉は決めてなくても、仕上げたい印象だけは定める必要があります。そして、その印象へと近付くように、フレーミングなどを調整するわけです。

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 この写真でも、タイトル自体は後から決めました。活発で動きのある印象に仕上げたいと、大まかな印象だけ決めて撮影しました。自宅に戻ってから、写真をじっくりと見つめ、仕上がった写真に最適な言葉として、このタイトルを選びました。このような手順でも構わないと思います。当然ながら、撮影前に決めておく方法の方が、より狙いどおりに仕上げられると思いますけど……。

例2:ツツジのオーラ(見る範囲を限定)

 この写真は、ぼかした背景を花と重ねて、まるでオーラの波が現れたように仕上げた作品です。でも、ただ写真を観ただけでは、オーラを感じるとは限りません。背景のグラデーション部分は、いろいろな印象を持つ可能性があります。それをさせず、オーラとして強制的に観てもらうのが、タイトルの役割です。つまり、背景の観る範囲をオーラに限定させるわけです。

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 タイトルに「オーラ」の言葉が含まれているので、観る人にはオーラだとの先入観が与えられた後で、写真を観ることになります。すると不思議なことに、背景のグラデーション部分がオーラに見えてくるものなのです。全員とは限りませんが、多くの人はそうなるはずです。

タイトルを付けたくない作品もあるが……

 撮影した写真の中には、タイトルをあえて付けたくないものもあります。タイトルを付けることで、見る人の余計な先入観を与えたくない作品です。

 写真にタイトルを付けないことで、より自由に作品を見れると考えている人もいます。ただし、このように見れる人は、ごく一部の人だけでしょう。それ以外の多くの人は、「自由に見てください」と言われても、何となく見続けているだけで、あっさりと見終わる人が多いようです。自由な時間が多くあると、時間を持てあます人が多いのと似ているのでしょうね。その意味で、タイトルを付けない狙いが、本当に成功する例は極めて少ないでしょう。

 実際には、写真自体が持つ迫力や美しさなどにも、かなり影響を受けます。凄い迫力を持った写真なら、タイトルをあえて付けなくても、迫力が伝わるでしょう。ただし、該当するのはごくごく一部の作品だけです。それ以外の大多数の作品は、タイトルを付けることが適していると思います。

 タイトルを付けない判断には、こうしたことも考慮する必要があります。一番大事なのは、タイトルを付けた場合と付けなかった場合を比べて、作品を観る人がどのように感じるのかを、冷静に判断することです。その作業手順は、次のようになります。

・作品の狙い(表現意図)に適したタイトルを複数考えてみる
      ↓
・その中から、狙いに一番適したタイトルを選ぶ
      ↓
・そのタイトル付きとなしで、作品としてどちらが魅力的か比べる
      ↓
・より魅力的な方を選ぶ

 タイトルを付けないと決める前に、このような手順を必ず踏んでください。そうすれば、本当に適切な作品にだけ、タイトルを付けないと判断できるでしょう。また、観る範囲をほとんど限定しないタイトル付けも可能なこと、タイトルを付けない場合に観る人が感じること、自由奔放に観れる人は少ないことも、強く意識しましょう。

タイトル付けを普段から練習することが大事

 ここまで説明したように、作品にとってタイトルは極めて重要です。そして、実際に行なってみると、かなり難しいと感じるはずです。ありがちなのは、集団での展覧会に作品を出すことになって、良いタイトルが付けられないと悩む状況でしょう。

 そんなときに困らないためには、タイトル付けを普段から練習しておくのが一番です。ブログでも何でも、自分の作品を発表する機会を持っているなら、単に写真を公開するのではなく、しっかりとタイトルを付けて公開するのです。公開する以上、ある程度は真剣に考えますから、タイトル付けの練習になります。

 真剣に悩みながら練習を続けることで、少しずつですが上手になります。「作品のタイトルは大事」と何万回繰り返しても、まったく上達しません。実際に悩みながら真剣に練習するのが一番です。

 練習して悩むようになると、他人のタイトルを見る目も変わってきます。上手な付け方に感心したり、自分だったら別なタイトルを付けると思ったり、いろいろな形で変化が現れます。こうした変化も良い傾向ですね。他人が付けたタイトルでも大いに勉強できますから、積極的に利用してください。

 繰り返しになりますが、大事なのは表現意図に適したタイトルです。それを理解してのタイトル付けの練習は、表現意図を明確に意識する練習にもなります。その効果は、最終的に、撮影の際にも現れるでしょう。表現意図を強く意識して撮影する形で。

タイトルの上手な付け方は?

 私の場合は、タイトルの付け方として、数種類を利用しています。それを順番に適用しながら、もっとも最適と思われるタイトルを選んでいます。ただ、すべての付け方を適用しても、満足できるタイトルが得られないこともあります。意外に多いですね。

 私が普段用いている、タイトルの具体的な付け方は、また別な機会に紹介したいと思います。

(作成:2007年2月18日)
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