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脇役の役割と扱い方

表現意図を手助けする要素が脇役

 脇役は、主役と表現方向が決まった後で考えます。写真に写る要素としての位置付けは、脇役と背景がほぼ同列なので、撮影時には、脇役と背景を並行して考えるのが普通です。

 まず最初に、脇役の範囲を明確にしましょう。脇役とは、写真の中に含める主役と背景以外の要素です(背景が脇役に相当することもありますが、特別なケースなので省略します)。整理すると、以下の式が成り立ちます。

写真に写る要素 = 主役 + 脇役 + 背景

 主役は必ず含まれますが、脇役や背景がない写真もあります。とくに脇役は、必要がない限り含めない方がよい存在ですから、無理して入れるものではありません。しかし、写真撮影では、被写体を自由に操作できないので、仕方なく入ってしまう場合がほとんどでしょう。 

 上の式を見たとき、疑問として出てくるのは、前景の扱いです。前景は、脇役の1つとしてか、背景の一部として使われます。そのため、前景だけを独立して考えることはしません。上記の式にあえて前景を含めると、以下のように表現できます。

写真に写る要素 = 主役 + (前景含む)脇役 + 背景
写真に写る要素 = 主役 + 脇役 + (前景含む)背景

 これだと、ただ分かりにくくなるだけなので、通常は最初の式で考えます。この2つの式は、前景の位置付けを説明するために用意したもので、式の意味が理解できたら忘れてください。

 実際の被写体では、背景の中に細かなものが数多く含まれています。主役以外の要素の中で、どれが脇役でどれが背景なのか、単純には決められないでしょう。背景の一部とも言えますし、脇役とも言えますから。

 脇役と背景の分け方は、それほど明確ではありません。強いて言葉で表現するなら、「被写体の中で目立つものが脇役で、それ以外は背景」となります。判断基準を「目立つ」にしてあるのは、目立つ要素ほど、写真の印象に影響を及ぼすからです。背景も影響を及ぼしますから、より的確な表現は「主役や背景としてではなく、独立した存在として、表現意図に影響を及ぼす要素が脇役」となります。

写真では、脇役を自由に選べない

 ブツ撮りなどを除くと、たいていの写真では脇役を選べません。被写体の一部として最初から存在するので、その制限の中で何とかするしかないのです。次のような考え方に従って。

・狙う表現に役立つ脇役:表現意図に沿って生かす
・狙う表現を邪魔する脇役:影響を可能な限り減らす

 上記以外に、表現に関係のない脇役もありそうです。しかし、目立っていたら邪魔する要素になるし、目立っていないなら脇役として選ばれないので、実際には考えなくてよいのです(それでも考えたいなら、自分で考えてください)。

 なお、脇役を選べないと書きましたが、一部には例外もあります。通りすがりの人を脇役として追加したい場合などは、望むタイプの人を待つことで、写真に追加できます。完全に自由なわけではありませんが、ある程度の選択の自由はあります。風景写真で、望みの雲や霧を待つのも同様です。

脇役を見付け、扱い方を1つずつ決める

 脇役に関して考える作業は、流れが大まかに決められます。できるだけ分かりやすいように整理したお勧め手順は、次のとおりです。

・被写体の中から脇役を見付ける
    ↓
・脇役を目立つ順に並べる
    ↓
・個々の脇役を、役立つか邪魔かに判定する
    ↓
・脇役の扱い(利用方法や排除方法)を考える
    ↓
・表現意図の達成に問題があるか判定する

 まず最初に、被写体から脇役を見付け、頭の中で目立つ順に並べます。それらを1つずつ判定し、役立つか邪魔するかに区分けします。どちらの判定されたかによって、どう扱うかが決まります。役立つなら積極的に利用し、邪魔するなら排除したり目立たなくします。最後に、表現意図を達成するにあたって、脇役に問題があるかを判定します。

 脇役の個数は、被写体によって異なります。主役をアップで撮影すれば、脇役が1つもありません。逆に、周囲の様子を多く入れるほど、目立つ要素が増えて、脇役の数が増えます。脇役の数の目安はありませんから、目立つ要素がいくつあるかで決めてください。

 実際の撮影では、主役を決めた段階で、役立つ脇役がないかと、主役の周囲を探します。邪魔する脇役の方は、探して見付けるのではなく、仕方なく入ってしまう要素です。同じ脇役ながら、こうした違いがあります。

役立つ脇役は表現に生かす

 表現意図に役立つ脇役とは、基本的には、表現意図の効果を高める要素です。たとえば、古い井戸の味わいが表現意図なら、井戸の周囲にある古い道具や植物が、表現意図の効果を高めるのに役立ちます。

 表現意図ではなく、主役の特徴などを説明する目的にも、脇役は使えます。主役だけしか写ってないと大きさが分からない場合、人間などを含めることで大きさを伝えられます。これ以外にも、脇役は様々な目的で利用可能です。代表的な使い方を挙げてみました。

・主役の役割を強調(主役との対比などで)
・全体にアクセントを付加(リズム感を強めるなど)
・主役に関する説明を手助け(大きさを伝えるなど)
・意図に無関係でも入ると面白い(邪魔しない小物など)
・その他いろいろ(本当にたくさんある)

 表現意図に役立つ使い方の一番は、主役の役割の強調です。前述の井戸の例は、主役と同類の脇役を使ったものです。逆に、主役と正反対の脇役を用意し、対比させることで主役を強調する方法もあります。たとえば、住宅地の変な建物が主役のとき、普通の建物を脇役として入れることで、主役の変な度合いを強調できます。同類や対比に限らず、主役の役割を強調する使い方では、主役との関係を考えながら脇役を選びます。

 全体にアクセントを付加する脇役の使い方は、写真全体の印象を整えるのが目的です。この使い方は、構図と関係が深いので、構図を強く意識しながら考えます。具体的には、ワンポイントとなる脇役を入れて、写真全体でリズム感を出したり、色の組合せやバランスを調整したりします。

 主役に関する説明を手助けする脇役は、説明したい内容があるときに用います。使い方で大事なのは、表現意図を邪魔しないことです。そのため、あまり大きくせず、目立ちすぎない場所に入れます。人間を使って大きさを示す場合は、大きさを伝えるのが目的なので、人間は1人だけしか入れません(下の写真を参照)。人数が増えるほど目立つし、別な意図が生じやすいからです。

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 意図に無関係でも入ると面白い脇役も、表現意図を邪魔しない範囲で使います。写真の中へ目立たないように入れた要素で、遊び心の面が強いものです。表現意図にまったく関係ない要素ではなく、よく考えると関係ある要素を用いると、写真をじっくり見てうなる人が出るでしょう。表現意図を邪魔する可能性が高いので、通常は使わないほうが安全です。

 これ以外にも、脇役の使い方はいろいろあります。どの使い方にも共通するのは、表現意図を手助けするか邪魔しないことです。脇役の新しい使い方を、積極的に考えてみてください。なお、脇役を上手に使うコツは、撮影の際に、役に立つ脇役はないかなと探す意識です。

 もう1つ大事な点を。一般的な傾向として、余計なものが入ってない方が、表現意図は明確に伝わります。その意味で、脇役を積極的に入れるのは好ましくありません。本当に必要なときだけ入れる、という大原則を忘れないでください。

邪魔する脇役は、削るか目立たなくする

 表現意図を邪魔する脇役とは、それが含まれることで、表現意図を低下させる要素です。湖の風景の美しさを狙っているとき、湖面に変な船が浮かんでいたら、誰もが邪魔だと感じるでしょう。また、古風な日本建築の奥深さを表現したいとき、現代的な赤い郵便受けが建物の玄関にあったら、せっかくの狙いも白けてしまいます。まさに、表現意図を邪魔する脇役です。

 こうした脇役は、その影響をできるだけ減らさないと、表現意図を高いレベルで達成できません。もっとも理想的なのは、邪魔する脇役を排除することです。待っていれば通り過ぎる脇役なら、待つのが一番です。しかし、通常の脇役はずっと存在し、その手が使えません。アングルやレンズ選びを工夫し、脇役が写らないようにします。

 どうやっても写る場合は、写る面積を減らすとか、ぼけさせるなどの方法で、影響の程度を小さくします。主役の切り取り方やアングルを工夫すれば、写る面積を減らせるでしょう。

 ちょっと変わった手に、前景の利用があります。邪魔する脇役を隠す形で、無理して前景を入れる方法です。もちろん、入れる前景が、表現意図を邪魔するタイプだと使えません。もしそうなら、前景なので、ぼかして影響を弱めることは可能です。最終的には、脇役と前景を比べ、邪魔する度合いが小さい方を選ぶわけです。

 アングル変更やレンズ選びによって脇役を減らす方法は、主役が表現意図どおりに写らないかも知れません。その際には、表現意図の達成効果が一番高くなるような妥協点を探します。

最悪の場合は、何かをあきらめる

 役立つ脇役と邪魔する脇役の利用方法を考え終わったら、脇役に関する最終判定をする段階です。役立つ良い方法を見付けたり、邪魔する度合いを低下できたなら、「問題なし」と判定します。逆に、邪魔する度合いを低下できなかったら、判定結果は「問題あり」です。

 では、問題ありとなったとき、どうすればよいのでしょうか。これは、撮影直前の最終判断で考えることですが、何かをあきらめるしかありません。邪魔する脇役を入れたまま撮影すれば、表現意図の高い達成度をあきらめたことになります。

 邪魔する脇役ばかりなら、思い切って全部削ると判断し、主役をアップで撮影する手もあります。もちろん、アップでの撮影が表現意図を満たさなければなりませんが。満たさない場合は、表現意図の片一方である表現方向を変更するしかないでしょう。この場合は、表現意図をあきらめたことになります。

 どのように工夫しても、良い写真にならないと判断することもあるでしょう。これは最悪のケースで、もし撮影しないと判断すれば、撮影をあきらめたことになります。そうなったときでも、考えた中で一番良い条件を求め、それで撮影しておきたいものです。デジカメの場合は、撮影枚数が増えてもフィルム代など余計にかかりませんから。

 手も足も出なかった被写体は、あえて撮影しておき、画像ファイルとして集めておきましょう。考える写真を撮りながら1年以上経過し、後で見てみると面白いものです。「今撮影すれば何とかできるな」と思う被写体が何枚か見付かります。このようにして自分の成長を確認するのも、上手な楽しみ方の1つです。

2つの主役でなく、片方は脇役に

 被写体によっては、主役を2つにしたいと思うことがあります。たとえば、何かの物体を撮影しようと思ったとき、空に面白い雲があって、両方とも主役にして表現したいときです。

 しかし、一般的な傾向として、主役を2つにすると、表現意図が不明瞭になりやすいのです。よほど上手に組み合わせないと、成功するのは難しいでしょう。成功するのは、おそらく、主役の組合せが良いのに加え、撮影者の表現能力も高い場合だけだと思います。通常は、片方だけ主役にして、残りを脇役として扱います。主役と脇役を入れ替えて撮れるので、2種類の写真が撮影可能です。

 もし、2つの主役で撮影したいときでも、片方だけの主役による2種類の写真を撮影してください。後で比べて、いろいろと勉強できるでしょうから。この場合、撮影の順序も大切です。片方だけが主役の2種類の写真を、必ず先に撮影します。それによって、それぞれが主役のときに、どのように表現すれば最適なのかがつかめます。得られた表現方法は、続けて撮影する、主役が2つの写真で活かせるでしょう。

(作成:2003年5月12日)
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