承香殿中納言 しょうきょうでんのちゅうなごん 生没年未詳

醍醐天皇の承香殿女御源和子に仕えた女房。
元良親王集』に、同親王に贈った恋歌が見える。また『大和物語』百三十九段にも同様の逸話と歌が見える。後撰集初出。勅撰入集は二首。

延喜御時、承香殿女御の方なりける女に、元良のみこまかりかよひ侍りける、たえてのちいひつかはしける

人をとくあくた川てふ津の国のなにはたがはぬものにぞありける(拾遺851)

【通釈】芥川ではないが、人をすぐに飽きるという、噂に違わない方でありましたね。

【語釈】◇人をとくあくた川てふ 芥川ではないが、人をすぐに飽きるという。地名「芥川」に動詞「飽く」を掛ける。◇なにはたがはぬ 噂に違わぬ。元良親王は色好みで名高い。「なには」は「名には」「難波」の掛詞。

【補記】『元良親王集』の詞書は「承香殿の中納言の君に、ほどなく離れ給ひにければ、女」。

忘れがたになり侍りける男につかはしける

こぬ人を松の()にふる白雪の消えこそかへれ悔ゆる思ひに(後撰851)

【通釈】いくら待っても来ない人を待つうち、松の枝に降る白雪のように、私は消え入ってしまうことだ、後悔の思いで。

【語釈】◇松 「待つ」と掛詞。◇ふる 「降る」「経る」の掛詞。◇消えこそかへれ 消えてなくなる。すっかり消えてしまう。「雪」「ふる」「消え」は縁語。◇思ひ ヒに火を掛け、「消え」と縁語になる。

【補記】『元良親王集』には「来ぬ人を松のさ枝にふる雪の消えこそかへれあかぬ思ひに」とあり、詞書は「かくてものも食はで泣く泣く恋ひ聞えて、松に雪の降りかかりたりけるにつけて、聞えける」。


公開日:平成12年07月30日
最終更新日:平成15年02月26日