下照比売 したてるひめ 異称:高比売

大国主神多紀理比売(たきりびめ)の間の子。阿遅志貴高日子根(あじしきたかひこね)神の同母妹。天若日子(あめわかひこ)の妻。鳥取県東伯郡東郷町の倭文(しとり)神社などに祭られている。
古事記に一首、日本書紀に二首の歌を伝える。以下には古事記から引用した。

 

(あめ)なるや 弟棚機(おとたなばた)の (うな)がせる 玉の御統(みすまる) 御統(みすまる)に あな(だま)はや み谷 (ふた)わたらす 阿遅志貴(あぢしき) 高日子根(たかひこね)の神ぞ

【通釈】天においでの、織姫が、頚におかけになっている、玉の首飾り。その首飾りの、穴のあいた玉みたいに光っていますよ。でも実は違うのですよあれは、谷二つを輝かせてお渡りになる、阿遅志貴高日子根の神なのですよ。

【語釈】◇弟棚機 「弟(おと)」は兄弟姉妹の年少者をさす語。「棚機」は機(はた)を織る女。七夕伝説の織女星を「たなばた」というのは、古来機織り娘をこう呼んだからである(宣長『古事記伝』)。◇項(うな)がせる 「うなぐ」は「うなじにかける」意の動詞。◇玉の御統 玉を緒で繋げて首などに巻いた飾り。◇あな玉はや 「あな玉」は穴玉(穴のあいている玉)かともいうが、よく分からない。◇み谷 二わたらす 谷を二つ渡る。阿遅志貴高日子根の神の発する光が谷二つを照り渡ることをいう。◇阿遅志貴高日子根神 アジスキタカヒコネ神とも。下照姫の同母兄。葛城の高鴨阿知須岐託彦根命神社の祭神で、賀茂大神とも称される。

【補記】古事記上巻。天若日子が高皇産霊神によって誅せられた時、その死を悲しんだ妻下照姫の泣き声が風に乗って天まで届いた。これを聞いた天若日子の父や家族たちは天から降って来て、葬儀をおこなった。この時、友であった阿遅志貴高日子根の神も天降ったが、容姿がよく似ていたために天若日子と間違われ、死者の家族たちに縋り付かれた。これを不吉なこととして怒った阿遅志貴高日子根の神は、剣を抜いて喪屋を切り伏せ、足で踏み荒らし、天へ飛び帰ってしまった。この時下照姫が、兄の「御名を顕さむと思ほして」歌った歌であるという。
なお古今集仮名序で和歌の起源について「世につたはることは、ひさかたの天にしては、下照姫にはじまり」と言っているのは、この歌のことかと思われる。

【他出】日本書紀、歌経標式、奥義抄


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成21年04月02日