伝不詳。連(むらじ)は姓(かばね)で、名は未詳。万葉集巻八に二首。尾張氏は火明命を始祖とし、古来后妃・皇子妃を多く出したとの伝承を持つ氏族。本宗は尾張国造であるが、諸国に広く分布し、『新撰姓氏録』には左右京・山城・大和・河内に住した尾張連を載せる。奈良朝の著名な尾張連出身者としては、孝謙天皇の勅により「陵王」を改修したという楽師、浜主(733-?)などがいる。
尾張連の歌二首 名は闕けたり
春山の
【通釈】春の山の崎の撓んだ所で春菜を摘んでいる子――その衣の白紐を見るのは快い。
【語釈】◇岬の撓り 山の崎のたわんだ所。真淵の説による。原文は「開乃乎爲里」。「咲きのををり」と訓んで「春の花が咲き茂っているところ」と解する説もある。◇春菜 ワカナと訓む本もある。
打ち靡く春来たるらし山の
【通釈】草木が芽吹いて靡く春が来たらしい。山あいの遠くの梢が次々と咲いてゆくのを見ると。
【補記】巻十に小異歌があり、第二句「春さり来らし」とする。
【他出】作者不明記「古今六帖」
うちなびき春さりくらし山のべのまきのこずゑのさき行くみれば
よみびとしらず「風雅集」
うちなびき春はきぬらし山ぎはのとほき梢のさきゆくみれば
(ほかに『歌枕名寄』『夫木和歌抄』にも収録。)
【主な派生歌】
さくら花さきゆくみればわが身のみ春にはうときものにぞありける(伏見院)
一むらの雲こそかかれ山のはの遠き梢の花や咲くらむ(小沢蘆庵)
更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成15年03月21日