御春有助 みはるのありすけ 生没年未詳

延喜二年(902)、左衛門権少志。同十二年、権少尉。藤原敏行の家人で河内国の人という。古今集に二首。

題しらず

あやなくてまだき無き名のたつた川わたらでやまむ物ならなくに(古今629)

【通釈】不合理にも、逢わないうちから根も葉もない噂が立つと言いますが、だからと言って思いを遂げずにやめてしまうような、そんな程度の恋ではありませんよ。

【語釈】◇あやなくて 筋が通らずに。逢いもしないのに評判が立つことの不合理さを言っている。◇たつた川 「名が立つ」に川の名を掛ける。立田川(龍田川)は大和国の龍田地方を流れる川(大和川ともその支流の龍田川とも言う)。◇わたらでやまむ物ならなくに 「渡る」は「思いを遂げる」に通じる。「なくに」はこの場合倒置でなく一種の余情表現か。

【主な派生歌】
あやなしや恋すてふ名はたつた川袖をぞくくるくれなゐの波(藤原俊成)
立田川岩こす浪のこほるかとまだき無き名の月に見ゆらむ(藤原親子[続拾遺])
行く水のあはれとぞ思ふ三瀬川わたらでやまむ人しなければ(慶運)
さらぬだにまだきなき名の立田山いくたび雲の花と見ゆらむ(宗良親王)

藤原利基朝臣の右近中将にて住み侍りける曹司の、身まかりてのち、人も住まずなりにけるに、秋の夜ふけて、ものよりまうできけるついでに見いれければ、もとありし前栽もいとしげくあれたりけるを見て、はやくそこに侍りければ昔を思ひやりてよみける

君が植ゑし一むらすすき虫のねのしげき野辺ともなりにけるかな(古今853)

【通釈】あなたが植えた一群のすすきは、今や繁茂して、虫の音の絶えない野辺となってしまいましたよ。

【補記】詞書の「藤原利基」は藤原冬嗣の孫で、贈太政大臣高藤の兄。兼輔の父。故人となった利基の荒れた住居を見、昔を偲んで詠んだ哀傷歌。

【他出】古今和歌六帖、讃岐典侍日記、古来風躰抄、定家八代抄、西行談抄、歌林良材

【主な派生歌】
繁き野をいく一むらに分けなしてさらに昔を忍びかへさむ(西行[新古])
人もとへ荒れなむのちの虫の音も植ゑおく薄秋し絶えずは(藤原定家)
むら薄植ゑけむ跡も古りにけり雲井を近くまもる住処に(藤原定家)


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成23年01月09日