歌枕紀行 陸奥国
―みちのくのくに―
安積山・安達太良山・安達が原・阿武隈川・信夫
白河の関・壺の碑・勿来の関・真野の萱原
―現在、写真と引用歌のみ。紀行文は後日追加の予定です。―
陸奥国の主な歌枕(県別・五十音順)
福島・宮城・岩手・青森
●福島県
会津嶺 会津地方の山。特に磐梯山を指すともいう。「逢ひ」と掛詞になる。
会津嶺の国をさ遠み逢はなはば偲ひにせもと紐結ばさね(「万葉集」東歌)
安積の沼 安積山(下記参照)付近にあった沼。
陸奥の安積の沼の花かつみかつ見る人に恋ひやわたらむ(「古今集」)
安積山 『曾良旅日記』は郡山市日和田の小丘とし、同所には安積山公園がある。郡山市額取(ひたいとり)山ともいう。
安積山影さへ見ゆる山の井の浅き心を我が思はなくに(陸奥国前采女「万葉集」)
安達太良山 二本松市・郡山市などにまたがる連峰。
安達太良の嶺に伏す鹿猪のありつつも我は至らむ寝処な去りそね(「万葉集」東歌)
安達が原 安達太良山の東麓、阿武隈川に沿う原野。いま二本松市に安達の地名が残る。
陸奥の安達の原の黒塚に鬼こもれりと聞くはまことか(平兼盛「拾遺集」)
阿武隈川 白河市の山中に発し、仙台湾に注ぐ。霧が多く詠われる。また「逢ふ」と掛詞になる。
阿武隈に霧立ちくもり明けぬとも君をばやらじ待てばすべなし(「古今集」)
下紐の関 宮城県境に近い厚樫山の西南にあった関。伊達の大木戸ともいう。
あづま路のはるけき道を行きかへりいつかとくべき下紐の関(太皇太后甲斐「詞花集」)
信夫 旧陸奥国信夫郡。いまの福島市あたり。信夫山がある。草木染の一種、信夫摺の産地として名高い。動詞「忍ぶ」と掛詞になる。
陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れんと思ふわれならなくに(源融「古今集」)
白河の関 白河市旗宿。奥州三関のひとつ。
都をば霞とともにたちしかど秋風ぞ吹く白河の関(能因「後拾遺集」)
都にはまだ青葉にて見しかども紅葉ちりしく白河の関(源頼政「新古今集」)
勿来の関 いわき市勿来町関田関山。奥州三関の一つ。
惜しめどもたちもとまらずゆく春を勿来の関のせきもとめなむ(貫之)
真野の萱原 相馬郡鹿島町真野。
陸奥の真野の萱原遠けども面影にして見ゆといふものを(笠女郎「万葉集」)
●宮城県
姉歯の松 栗原郡金成郡字梨崎。
栗原のあねはの松の人ならば都のつとにいざといはましを(伊勢物語)
うやむやの関 柴田郡川崎町。山形市との境の笹谷峠付近にあったという古関。むやむやの関・いなむやの関とも。
たのめこし人の心は通ふやと問ひても見ばやうやむやの関(土御門院)
緒絶の橋 古川市二日町。
みちのくの緒絶の橋やこれならんふみみふまずみ心まどはす(藤原道雅「後拾遺集」)
笠島 名取市愛島(めでしま)笠島。藤原実方死没の地という伝説がある。
草陰の荒藺の崎の笠島を見つつか君が山路越ゆらむ(「万葉集」)
塩竃 今の塩竃市。「塩竃の浦」は古来景勝地として都にも知られ、源融は自邸に塩竃を模した庭を造った。
君まさで煙絶えにし塩竃のうらさびしくも見えわたるかな(貫之「古今集」)
塩竃の浦吹く風に霧はれて八十島かけてすめる月かげ(藤原清輔「千載集」)
末の松山 所在未詳。諸説あるが、江戸時代に伊達藩が比定した地は、多賀城市八幡の宝国寺裏の丘。
君をおきてあだし心をわがもたば末の松山浪も越えなむ(「古今集」)
契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山浪越さじとは(清原元輔「後拾遺集」)
霞たつ末の松山ほのぼのと波にはなるる横雲の空(藤原家隆「新古今集」)
武隈 岩沼市の阿武隈川北岸。根元から二木にわかれた「武隈の松」で名高い。
植ゑしとき契りやしけむ武隈の松をふたたびあひ見つるかな(「後撰集」)
壺の碑 近世以降、天平宝字年間に建てられた多賀城碑のことと信じられた。ただし、西行などが歌ったものは、青森県上北郡天間林村にかつてあった石碑であろうとも言う(青森県の外ヶ浜の西行の歌参照)。
陸奥のいはでしのぶはえぞ知らぬ書きつくしてよ壺の石文(源頼朝「新古今集」)
名取川 宮城・山形県境の山地に発し、名取市で太平洋に注ぐ。
陸奥にありといふなる名取川なき名とりては苦しかりけり(壬生忠岑「古今集」)
名取川春の日数はあらはれて花にぞ沈む瀬々のうもれ木(定家)
野田の玉川 塩竃市玉川。
夕されば汐風こしてみちのくの野田の玉川千鳥鳴くなり(能因)
籬の島 塩竃市、松島湾内の島。多く松が詠まれる。
わがせこを都にやりて塩がまのまがきの島のまつぞ恋しき(「古今集」)
松島 松島湾、および湾内の群島。
松島やをじまの磯にあさりせし海人の袖こそかくはぬれしか(源重之「後拾遺集」)
たちかへりまたも来て見ん松島や雄島の苫屋波に荒らすな(藤原俊成「新古今集」)
宮城野 陸奥国宮城郡の野。
みさぶらひ御笠と申せ宮城野の木の下露は雨にまされり(「古今集」)
あはれいかに草葉の露のこぼるらむ秋風立ちぬ宮城野の原(西行「新古今集」)
●岩手県
岩手山 盛岡市の北西にそびえる山。「言はで」などと掛詞に用いられる。
岩手山いはでながらの身のはては思ひしこととたれか告げまし(「古今六帖」)
北上川 岩手県北部に発し、宮城県で太平洋に注ぐ。
やはらかに柳あをめる/北上の岸辺目に見ゆ/泣けとごとくに(石川〓木)
栗駒山 宮城・岩手県境。京都にも同名の山があり、区別し難い例が多い。
みちのくの栗駒山のほほの木の枕はあれど君が手枕(「古今和歌六帖」)
衣川 平泉の東北で北上川に注ぐ。近くには奥州の古関、衣の関があった。
涙をば衣川にぞ流しつる古き都を思ひ出でつつ(西行)
衣の関 平泉の近く。奥州古関の一つ。
もろともに立たましものを陸奥の衣の関をよそに聞くかな(和泉式部「詞花集」)
束稲山 中尊寺の東、平泉町と東山町の境にある山。
聞きもせずたばしね山の桜花吉野の外にかかるべしとは(西行)
●青森県
外ヶ浜 津軽半島東海岸をいう。古くは外の浜といった。
むつのくの奧ゆかしくぞ思ほゆる壺の石文外の浜風(西行)
津軽 青森県西部。
便りあらば津軽の奧にとめられてえぞ帰らぬと妹に告げばや(道因)
船に酔ひてやさしくなれる/いもうとの眼見ゆ/津軽の海を思へば(石川啄木)
©水垣 久 最終更新日:平成12-08-22