歌枕紀行 待兼山

―まちかねやま―

待兼山付近の写真 提供:紀州の姫様
待兼山より中山池を望む(白い建物は大阪大学校舎)

大阪府豊中市待兼山町。千里丘陵の西端に位置する、標高77メートル程の小丘である。
古今和歌六帖に、次のような歌がある。

津の国の待兼山の呼子鳥鳴けど今来(いまく)といふ人もなし

山の名に「待ち兼ね」を掛け、恋人を待ち侘びている自分を「待兼山の呼子鳥」になぞらえて、いくら泣いても相手が来てくれないと嘆いた歌。呼子鳥はカッコウのことではないかと言われているが、昔の人はカッコウの声を「子来(ここ)」(子よ来い)と聞いていたようだ(折口信夫は「吾子(あこ)」と聞いたと解している)。

こぬ人を待ちかね山の呼子鳥おなじ心にあはれとぞ聞く(肥後[詞花])

これは呼子鳥の声を聞いて、自分と同じに相手を「待ち兼ねて」いるのだと共感している歌。
このように、恋人を「待ち兼ね」る意を掛けて用いるのが通例であった。

少し後の時代になると時鳥と合せた歌も多く、

夜をかさね待ちかね山の時鳥雲井のよそに一声ぞ聞く(周防内侍[新古今])

明くるまで待ちかね山の時鳥けふも聞かでや暮れむとすらむ(藤原顕綱[続後拾遺])

これらは恋歌でなく、夏歌。その山の名から、初夏に待望された時鳥の声を思い起すのは、ごく自然な連想であった。

今、待兼山には大阪大学のキャンパスが広がり、周囲はニュータウンとして開発が進められている。

地図(Mapion)

次へ


表紙摂津畿内歌枕紀行歌枕一覧

©水垣 久 最終更新日:平成16-5-1
thanks!