百日紅 さるすべり 猿滑 紫薇花 Crape Myrtle

百日紅 鎌倉市本覚寺にて

梅雨が明けてしばらくすると、町のあちこちで百日紅の花が目に付くようになる。澄んだ青空に、爽やかな紅が映える。

中国南部原産、ミソハギ科の落葉小高木。「さるすべり」の和名は木肌の滑らかさに由来し、「百日紅」の宛字は花の特徴――花期の長さと花弁の色――を簡潔に示している。「ひゃくじつこう」と音読もされるが、「百日紅」と書いて「さるすべり」とルビを振れば、その名だけで一片の馥郁たる詩ではないか。

異名を「さるなめり」「なめらき」と言い、古歌にごく稀に取り上げられている。盛んに歌に詠まれるようになるのは、近代以降である。

はつはつに咲きふふみつつあしびきの暴風(あらし)にゆるる百日紅(さるすべり)のはな

斎藤茂吉の第二歌集『あらたま』より、大正三年(1914)の作。まだ開き切らない、はつかに咲き出たばかりの百日紅が、暴風――季節柄当然台風であろう――に揺さぶられる。写生の歌として特筆すべき点もなかろうが、「はつはつにさきふふみつつ」「あしびきのあらし」「ゆるるさるすべり」……揉み揉みと練られた調べは気韻生動、おのずと稚い花に寄せる情も迫ってくる。

「散れば咲き散れば咲きして百日紅」(加賀千代女)と言うように、百日紅は咲き散った枝先から再び芽を出し花をつけながら、台風シーズンの間を咲き続け、秋の半ばまで私たちの目を楽しませてくれる。因みに俳諧・俳句では晩夏の季語である。

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  『夫木和歌抄』 (猿滑) 藤原為家
足引の山のかけぢのさるなめりすべらかにても世をわたらばや

  『悠然院様御詠草』 (百日紅枇杷赤瓊樹) 田安宗武
なめら木は散りみ冬花さかぬ間をにほはせたるはあかぬ樹ぞこれ

  『寒蝉集』 吉野秀雄
(ひつさ)げし氷を置きて百日紅(さるすべり)燃えたつかげにひた嘆くなれ


公開日:平成18年1月24日
最終更新日:平成18年1月24日

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