実葛 さねかずら(さねかづら) 真葛 美男葛 Kadsura japonica

実葛 鎌倉海蔵寺

晩秋から冬へ、色鮮やかな木の実が映える季節となる。たまに生垣などにも利用される実葛は、滴るように紅い実が密集して生り、ことに目立つ。しかしこの実から百人一首の歌を思い浮かべる人は多くないだろう。

名にしおはば逢坂(あふさか)山のさねかづら人にしられでくるよしもがな

(通釈:「逢ふ」「さ寝」を名に持つ「逢坂山のさねかづら」――その名にふさわしいのならば、蔓を手繰り寄せるように、どうにかして人知れずあなたの家に辿り着く手立てがあってほしいよ。)

作者は三条右大臣藤原定方。後撰集には詞書「女につかはしける」とあり、おそらく実葛の枝葉などと一緒に恋人に贈った歌だろう。「くる」は「来る」「繰る」の掛詞で、実葛の力強く屈曲し絡まり合う蔓(つる)を手繰るイメージが、恋人への思いの激しさをよく表しているように思える。一見優美なうわべに情念を秘め、いかにも定家好みの歌だ。

ところで古人はこのように物に添えて歌を贈るということをよくした。上の歌では実葛に「おまじない」的な効験が期待されていたはずだ。真っ赤な実も付いていたら、さらに恋文の効果は上がったことだろう。

『原色牧野植物大図鑑』によれば実葛はモクレン科の常緑つる木。「美男葛(びなんかずら)」の異称は、茎の粘液が鬢付油の材料となるゆえ。

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  『万葉集』 (内大臣藤原卿の鏡王女に報贈せる歌)
玉櫛笥みむろの山のさな葛さ寝ずはつひに有りかつましじ

  『万葉集』 (寄物陳思 柿本朝臣人麻呂之歌集出)
さね葛後も逢はむと夢のみにうけひわたりて年は経につつ

  『後撰集』 (詞書略) よみ人しらず
つれなきを思ひしのぶのさねかづらはてはくるをも厭ふなりけり

  『賀茂女集』 (ふゆ) 賀茂保憲女
しろたへの雪に色づくさねかづら冬はくれどもおとろへなくに

  『柏玉集』 (恋関) 後柏原院
あふさかや夢にもさねんさねかづらくるよを人にせきなとどめそ


公開日:平成18年2月27日
最終更新日:平成18年2月27日

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