夏雲 Summer cloud

夏雲 具満タンフリー素材

四時  陶淵明

春水滿四澤  春の水 四沢(したく)に満ち
夏雲多奇峰  夏の雲 奇峰(きほう)多し
秋月揚明輝  秋の月 明輝(めいき)()
冬嶺秀孤松  冬の嶺 孤松(こしよう)(ひい)

陶潜作と伝わる詩にあるように、夏の季節感を最も際立たせるのが、青空に湧きあがる積雲・積乱雲だ。

『桂園一枝』 夏雲  香川景樹

おほぞらのみどりに靡く白雲のまがはぬ夏に成りにけるかな

梅雨が明けて、紺碧の夏空が広がる。碧が深ければ、雲の白はひときわ映える。「白雲の」までの上句は、夏空の叙景であると共に、「まがはぬ」という語を導く序詞のはたらきを持っている。

夏の雲と言えば入道雲だが、和歌や誹諧では(おそらく上記陶潜の詩の影響から)「雲の峰」と呼んだ。

『浦のしほ貝』 晩夏雲  熊谷直好

しら雲の峰も崩れて秋風にたなびく空となりにけるかな

芭蕉の「雲の峰幾つ崩れて月の山」を、晩夏の涼感に本句取りした歌。暑い季節は長いが、夏らしい夏は意外なほど短い。輝く白雲を目に焼き付けておこう。

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  『玉葉集』(題しらず) *楊梅兼行
夏の日の夕かげおそき道のべに雲ひとむらの下ぞすずしき

  『権大納言俊光集』(夏雲) 日野俊光
峰たかき山また山と見ゆるまで曇りかさぬる五月雨の雲

  『草根集』(夏山雲) 正徹
夕立の晴れぬる山の岩根よりのぼるも消ゆる雲の一むら

  『続亜槐集』(夏雲) 飛鳥井雅親
あつき日にしづかにのぼる峰の雲夕立すべき空ぞ待たるる

  『拾塵集』(夏雲) 大内正弘
あつき日にねがひし程は空晴れて月になりゆく夕暮の雲

  『雪玉集』(夏雲) 三条西実隆
花の色に見しはものかはほととぎす声待つころの峰の白雲
  (旅)
夏の日はいく重の雲の峰たかみ行き疲れても暮れがたき空

  『逍遥集』(夏暁雲) 松永貞徳
みじか夜のまだ明けぬまに葛城の雲の梯たれわたすらん

  『通勝集』(夕立) 中院通勝
一むらの雲の峰より吹きおちて風にぞきほふ夕立の空

  『うけらが花』(夏雲) 加藤千蔭
ひとすぢのけぶりと見しも時のまに千さとをわたる夕立の雲

  『竹乃里歌』 正岡子規
海原に立つ雲の峰風をなみ群るる白帆の上をはなれず

  『夕波』 中河幹子
音のしてたちまち遠き機影追ふみ空はすでに光る夏雲

  『月華の節』 馬場あき子
雲の峰まさしく戦後遠けれど母惚けて空襲の日のみ記憶す


公開日:平成22年08月05日
最終更新日:平成22年08月05日

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