時代小説と捕物帖

 時代小説を愛読するきっかけは、テレビの捕物帖だった。

 市川新之助(現団十郎)の若さま侍捕物帖(原作は城昌幸の・・捕物手帖)、尾上菊之助(現菊五郎)の桃太郎侍(原作は山手樹一郎)。

 だいぶ、主人公の性格は違ったが原作を読んでみたくなる魅力があった、と思う。中学、高校と受験勉強に図書館を利用するようになってから、桃太郎侍の本に遭った。紺の布の装丁の「山手樹一郎全集」の中の一冊だった。

 残念ながら図書館には「全集」は全巻揃ってはいなくて、私の図書館巡りが始まった。現在のようにオンライン検索システムがある訳じゃなく、著者順に揃えられた蔵書カードを一枚一枚調べ、未読の作品があれば借りて読む。

 しかし、全集に収載されていない作品などがあることが判ってきた。そこで、古書店を巡ることが習慣になってしまった。

 当初は、神保町の古書店街をまわっていたが、大学に通うようになってからは電車の中から古書店を見つけると途中下車。通学路線の沿線の古書店の位置はすべて頭に入ってしまった。百冊目の山手作品は大学のフィールドワークで行った長野の善光寺そばの古書店で見つけた「若殿ばんざい」だったと思う。

 古書店を巡るようになって気がついたが、神田神保町や、早稲田界隈など古書店のある町は、伝統のある大学がある。私が通った大学はJRの駅前(そういえば駅前大学などと揶揄されたこともあった)にあったが、古書店はおろか、新刊書店さえ間口1間の小店(悪いとは言わないが)しかなかった。

 浅草から大学に通っていたので、本が欲しければお茶の水で電車をおりて、三省堂・書泉ブックマート・東京堂などで手に入れ、ついでに古書店を見てまわったものだ。幾度も通ううち、古書店が扱う本のジャンルが店により決まっているようだと気づいた。

 山手樹一郎の本が短期間に集められたのは、そこに気づいたからだ。特に未集の本が数冊になってからはほとんど、神保町の古書店で買ったものだ。無造作に棚に置かれた捜していた本を見つけた時の気持ちはいわく言い難い。心拍数が急上昇し、めまいがするほどだ。それでも、何気ないポーズで本を取り、裏表紙をめくって値段を見る。この10倍でも買うよと言いたいほど安かったときは、かえって心配になり、落丁などがないかチェックしてから代金を支払った。そんな風にして店を出た私は、スキップを踏んでいただろう。

 その後、時代小説界は池波正太郎と平岩弓枝などが台頭してきた。特に池波の「仕掛け人 梅安」シリーズがテレビ化されたのがきっかけで、「鬼平犯科帳」、「剣客商売」も人気テレビシリーズになった。

 特に「剣客商売」は型破りな主人公の剣客親子を明るく描き、私も全ての作品を読んだ。

 同じように、平岩弓枝の「御宿かわせみ」は、ヒロインのけなげさが私の妻の心をいたく刺激したのと、ミステリ仕立ての物語が私も気に入って、現在進行形ではあるが夫婦揃って読んでいる。


 最近どういう訳か、夢枕獏の「陰陽師」に凝っている。直接のきっかけはこの頃の晴明ブームであるが、もともと弘法大師空海や役行者(役小角)などの陰陽道に興味が有り、小説や歴史解説書などをよく読んでいて、安陪晴明が日本三代陰陽道の術者という事は知っていたせいだろうか。

 もともと、短編のシリーズ物がちょっとした時間に本を読む事が多い自分にも会ったのだろう、シリーズが長編を含め4、5冊有るだろうか、今年中に読みたいと思う。出来れば僕も式神などを使役して暮らしたいとも思う。


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2000.12.2更新