DENON DL-103 MCカートリッジ 4万円で丸針とは信じ難い素直な音に驚く 1.導入の経緯 私がいつも参考にしているドイツLowBeatsのカートリッジのテストサイト (MC型、 MM型)には、テストしたカートリッジの周波数特性やクロストークの計測結果が示されているのに加え、それらを同じソース(フリッツ・ライナー指揮、シェエラザード、1960年録音)で試聴ができます。 LowBeatsのカートリッジの試聴サイト ここには SUMIKO Starling のテスト結果もあって、特性も試聴結果も突出しているように私には思えます。 Starlingを基準に、色々なカートリッジを試聴比較できて、いろいろと学べました。 MMとMCには明らかに音の違いがあるのもわかりました。周波数特性は伸びていても、MCの方が「天井感」がないのです。MMは、同様な周波数特性であっても、コイルのLと、負荷容量CのLC共鳴で高域特性を補償しているので、特性はフラットには見えても、過渡特性が違うからなのでしょう。
これは是非一つ持っていたい。とうとう、新品のDL-103を買ってしまいました。 LowBeatsの試聴サイトがなければ、絶対に買うことがなかったでしょう。試聴してみるのは大事ですねえ。日本にはなんでこういうサイトとか雑誌がないんだろう。簡単なことなのに。 Thorens TD126IIIのほうに取り付けました。色もよく似合う。 4mmのスペーサーは自作。 なお、Starlingは、Pro-Ject Xtension9TAについています。 針圧は2.5g。丸針なので、ラインコンタクトのマイクロリッジ針よりはインサイドフォースキャンセラーの設定値を大きめにする必要があります(理由はこちら)。 ただし、私のレコードは界面活性化処理されていて、摩擦極少のため、基準の1/3くらいにしてあります。 アームのTP16は針圧はダイナミックバランス型、インサイドフォースキャンセラーもマグネット式です。 線の太さや材質にはこだわらないですが、きれいな配線にはこだわります。 右に見えているネジで、アジマス調整のためにネックを緩められます。これはebayで入手した、アフターマーケット品のTP16用交換アームです。 2.DL-103の音(アジマス調整後) アジマスの調整は後半に移動しました。 フォノイコライザーは、OCTAVE EQ.2を組み合わせます。 価格でDL-103の5倍もする機器ですが、コストからは想像しにくいDL-103の高い能力から、過剰な機材ではないと思っています。 音を聴きながら、負荷抵抗を変えていった結果、DL-103には、設定可能値の最大値 1kΩ が最良でした。 200ΩとしたOrtofon MC-Q30Sの時とは違い、DL-103は、負荷抵抗をあげるほど、鮮明感が増えていく印象。高域が素直だからでしょう。その音は、「DL-103を聴かずにカートリッジを語るな」とおっしゃっている人の気持ちがよくわかりました。これは確かにスタンダード。しかも、丸針だからって、高域が出ないわけじゃないのでした。 高域の解像度、繊細感では、Starlingのマイクロリッジ針には勝てませんが、しかしながら、DL-103で聴いたほうが心地よいレコードは、いくつか見つかりました。 Starlingでは録音の古さを強調してしまう1950年台のレコードや、デジタル時代の初期で、今となっては高域が苦しいレコード。それらを心地よく聴かせます。 男性ボーカルでも、音が良く前に出てきて、StarlingよりDL-103で聴こうという気にさせるレコードも結構あります。 また、単純に、音の違いを楽しめる、という範囲なら、Starlingが最強の威力を発揮する超美音のレコード以外では、DL-103ともStarlingとも同時に相性のよいレコードは無数にあります。 弱点をあげれば、おそらく丸針のため、若干、針音やパチパチ音が、マイクロリッジ針よりは多く感じます。これはLowBeatsのサイトでも学んだことでした。ラインコンタクトは比較的静かです。 価格も含めて考えると、これは非常にお買い得のカートリッジ。レコード好きなら、ひとつの基準として、持っている価値があると思いました。 アジマス調整(以下参照)が正しければ、高額なカートリッジともチャンネルセパレーションに差はありません。 丸針ですが、高域も気持ちよく出てきます。高額カートリッジのような高域の音数や繊細感の強調がないですが、それがプラスに働くことも多いと思いました。 Octave EQ.2の出力をDEQ2496に入力するためのADコンバータは、DP-720でSACD演奏時と兼用でBenchmark ADC-1を使います。 右からトーレンスTD-126III(プレーヤ)、EQ.2(一番上)その下にDEQ2496が2台とEsoteric D-02x、アキュフェーズDP-720、Bechmark ADC-1とオーディオデザイン製ライン入力切替機。 3.アジマスの精密調整 丸針なので、調整には鈍感!?って誰が言ったの? 取付調整のシビアさは、マイクロリッジ針と同じでした。クロストークはアジマスに敏感です。以下、調整ステップ示します。 まず結果から: これが調整後は 第一歩は、よく行われるように 1)外見が正しく見えるように設置してみます まずは、使用説明書にも書いてある通り、DL-103の筐体に示されている垂直線を、レコードに映っている線と一直線に見えるように、すなわち、レコードに対して、カートリッジの筐体が垂直になるように設置。 この通り、角度は完ぺきに設置。寸分の狂いもなし。 この時の周波数特性とクロストークをテストレコードとDEQ2496のRTAで測定した結果が以下です。 周波数特性の左右差は、カタログ値の +/-1.0dB は楽々クリアし、ほぼ全帯域で 0.5dB以下 です。 クロストークも、カタログ値 -25dBはクリアしていますが、左右で全然違います。あれれ?? 右ch(赤)は、-25dB、左(シアン)は-30dB以上。 この左右差はアジマスがわずかに狂っている可能性を示しています。もっと追い込めば、さらにクロストークの左右差を減らせるもしれないということです。 2)アジマスを微調してクロストークの左右揃える そこで、Starlingの調整で自作したアジマス微調用スケール(下図)を使い、アジマスを追い込みます(この写真のカートリッジはスターリング)。 微調整してはクロストークを計り、左右差を見る、という作業を繰り返し、何度も往復しながらたどり着いたアジマスでの計測結果が以下です。 スケール上では、0.2mm位の精度が必要な感じで、最後は、最適位置の周辺を小さく往復して、偶然に最高ポイントを見つける感じ。 ずいぶん傾いて感じますが、実は1度以下です。 で、そしてその計測結果は: 周波数特性の左右差は、さらに減り、クロストークの左右差もかなり解消。 300Hz〜1.2kHzくらいのレンジでは、700Hz付近を除き、カタログ値-25dBを上まわる-30dBを達成しています。LowBeatsのサイトのいろいろな計測結果を見ても、このクロストーク特性の左右バランスは、多数の計測結果の中でも最高レベルで、めったにないです。それらも、たまたまテスト機が、ちょうど垂直の設置でアジマスOKの個体にあたっているだけかもしれません。「アジマスを個別に微調整すればクロストークの左右差は改善される可能性があるが、個別に調整はしていない」とサイトには書かれています。 独奏楽器もボーカルも完全に中央に定位します。ただし、同様に調整したStarlingよりは、音像が大きいです。なんでかは不明ですが、高域のせいかな。 ケース垂直の1)と、アジマス精密調整の2)との音の差は、私は、違いが聞き取れます。ソプラノが声をはりあげたときの、定位のわずかな変化がなくなるのです。 高レベルの音では、クロストークが定位に影響するということです。知ってみれば、とうぜんの気もしますね。上記は、明確に聴き取れる歴然とした差ですが、いわゆる、何となくの感じで言ってよければ、調整後は、定位の安定感が断然いい気がします。調整前には、定位がぴったり中央ではあるが、「背景の反響音のバランスが少し偏っている感」があったのが、調整後はそこまでバランスが揃うのが感じられます。これは、Starlingの時も同様でした。 調整後のほうが正しい、というのは疑えない差です。 4.付属データと実測値比較 DL-103には周波数特性の実測値というのが付いてきます。こんなものです。 最初にチラッと見た切り、「なんだ? こんなにフラットなわけねーよ」とか思って、それっきりしまいこんであったのですが、最近、ちょっと見直す機会があって、横軸の左端が、常識的な20Hzではなくて、なんと1kHzから始まっていることに気が付きました。 そこで、実測値と、同じスケールで並べてみたのが、以下。 重ねると見にくいので少し下に黄色で示しています。 6kHzくらいまでは、よくあっているのでした。10kHz以上の高域は、私の実測の方が持ち上がっている。負荷抵抗は同じ1kΩなので、高域の差は、なにか他の理由 (負荷容量の差とか、計測がピンクノイズかスキャンかの違いとか) がありそう。 まあ、主要な帯域では全然違うってことではないのがわかって納得したのでした。 6カートリッジの比較ページもぜひご覧ください。 (2020年3月14日記)
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